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美少女になれば幸せになれるとこの時は信じていたんだ  作者: 草壁輝美
第1章 女神のような美少女爆誕までの物語
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第12話 勇者と呼ばれる存在の定義は何だろうか。読んで字のごとくならば勇ましい者とか?そういった意味でもう使われてないよね。

アーレン歴993年。

新たな魔王の誕生が近いと人間達は強く警戒している。


魔王は1000年に1回生まれると言い伝えられている。

アーレン歴というのは、前回誕生した魔王の名前がアーレンであり、993年というのはアーレンが生まれてから経過した年数である。

必ず1000年ちょうどに新しい魔王が誕生するとは限らないが、指針になるとともに、魔王に対する警戒を忘れないようにするために、魔王歴を暦として採用している。


言い伝えではあと7年後に魔王が誕生する。

その傾向があった場合、人類は素早く対応しなければならない。

そのため、少しでも異常があるとみられる現象が発生した場合は、直ちに対応が取れるよう、異常を監視をするためだけの機関が存在する。

その機関はルイン魔術大学に属しており、エリスが攫われた日、当然そのことを見つけた。


「本日夕方頃、街単位で形成していた結界内にて、空間が一部断絶した。おそらくは魔族による結界が張られ、多重に結果が張られたことにより後に張られた結界が優先されて展開されたことが原因だと思われる。死傷者はないが、エリス女学生が誘拐された。それ以外に被害がないことから、魔族の目的はエリス女学生にあったと推測される」


「ふむ……」


そこは魔術大学の奥深く。

魔王に対する対策を主とする機関は、国民に不安を与えないようその存在は周知されていない。

知る存在は、王族と一部の魔術学院に属する、魔族に対抗できる力を持っていると認定された実力者のみ。

エリスが誘拐された当日に結界を担当していた者が、異常事態が発生したとしていつもの日報とは異なり、学院長に直接報告をしているところである。


「どのように致しましょう」


魔族がエリスを誘拐した理由はわからない。

魔族と人間は遺伝子レベルで反発しあうようできている。

そのため、お互いの種族とは極力関わらないよう、お互いの上層部で厳しい取り決めを実施している。

詳しくはここに記載しないが、要するに『お互い戦争は望まない。しかし、出会うと争いは避けられないためお互い不干渉でいよう』といった目的に沿って色々とルールを決めたのだ。

その中には当然としてお互いの領地に侵入しないといったものもある。


破ったとしても特に罰則などはない。

賠償など要求しても支払うはずがなく、お互い破れば争うだけの話。

気休め程度の取り決めでしかなかったのだが、お互い領地内の環境で満足している以上、気休め程度で今まで全く問題がなかったのだ。


しかし、魔王誕生。

これは話が異なる。

なぜならば、魔王誕生は、魔族の欲望を激しく刺激するからである。


「場合によっては、処理をする必要があるかと存じますが」


「そうじゃのう。処理は不要じゃが、誘拐した理由ははっきりさせる必要はある」


「はっ、では魔族領まで行き、理由を調査してこればよろしいでしょうか」


「うむ。それでよい」


魔術学院に勤めるものはよく訓練されている。

魔族をみたときに誘発される殺人欲求を自制でき、また学院長の目的も理解している。

エリスを取り返す必要性はないとすでに学院長は断じている。


「さてさて」


エリスについて、人間側が持っている情報で調査した結果、何一つわからなかった。

チェックした結果、すべてが予想した結果とは食い違い、今まで人類で観測してきた魔力とは全く異なるものであった。

いよいよ危険因子として処理をする必要があるかと検討していたところで、魔族による誘拐が行われた。

即ち、魔族側にはエリスの魔力に対するデータが存在している可能性が高い。

処理をするのであればその情報を引き出してからでも遅くはない。


「魔王に対抗できる存在、勇者を本格的に教育する必要があるのう」


エリスが魔王に類する存在である可能性が高い。

その認識はあるにも関わらず、処理を後回しにし、データの収集を優先する。

危機感が足りていない行動に見えるが、理由はある。

それは、魔王に必ず勝てる存在である勇者が既に見つかっていることにある。


魔王は勇者に必ず敗北する。

人間の歴史とは勝利の歴史であり、魔族の歴史は敗北の歴史である。

歴史とは繰り返すものである。

魔王は絶対的な強者であるが、勇者がいるうちは人間に敗北はない。

注意すべきは、間違っても勇者が魔族の味方とならないよう教育を施すこと。

ルイン魔術大学はそのための教育機関でもある。


―――――――◆◆◆―――――――


「どうしよう……エリスちゃんが行方不明になっちゃった……」


わたしがたまたま一緒に帰らなかったその日にいなくなっちゃうなんて……。

エリスちゃんのお父さんとお母さんもひどく混乱して……。

でも衛兵さんがどれだけ探しても見つからない。

もう奴隷として売られてしまったとしか思えない。


「うぅ……そうなったら、なんとかしてわたしが買ってあげないと……」


エリスちゃんを買う……そんなことができたら、どんなことをさせようか。

……いろいろなことを妄想する。

涎が出そうになる。

いけないいけない……そんなことを考えるなんて。

まだわたしは10歳。

そんな不健全なことを考えてはいけないんだから。


しかもエリスちゃんも当然10歳なわけで、10歳の子を奴隷にした時の妄想をするなんて、とても表現できないよ。


「……うん、やっぱり助けに行こう。エリスちゃんを探しに、旅に出よう」


決めたら善は急げだ。

手遅れになる前に、何とか見つけ出さないと。


「うんうん、やっぱりルーシーちゃんは活発だね。10歳の女の子が、友達の女の子を助け出すために、旅に出ることなんてなかなかできるものじゃない」


「え?」


後ろを振り向くと、そこにはフードに身を包んだとても怪しい人がいた。


「……あなたがエリスちゃんを誘拐した人?」


「うーん、それは違うね。惜しいとはいえるけど。でも、エリスちゃんの行方は教えてあげられる」


「どこ?」


「まってまって、慌てないで、そんなに殺気を出さないで。そんな風に殺気を出されると、思わず殺したくなっちゃうでしょ?」


「それはこっちのセリフなんだけど。殺されたくないならとっととエリスちゃんの居場所を吐いた方がいいよ」


こんな奴、指が2本あれば2秒で殺せる。

そういう意思を込めて、人差し指と中指を怪しいやつに向ける。


「やれやれまったく、若い子は血の気が多くて困るなぁ」


全く慌てる様子を見せない。

なめられてるのかな?

別に殺しちゃってもいいんだけどな。

やっちゃおうかな。

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