第10話 傾国の美女って簡単に言うけど、美しいって何だろう。誰がみても美人ってどういった見た目をしていればそうなるんだ。
とはいえ、嘆いても始まりませんね。
マコト様から話を聞くまでは信じません。
とりあえず何とかして逃げ出さなくては……。
「……お腹が減りました」
「ふむ。そういえば、何も食べさせていなかったな」
「はい……。ティア、何か食べるものと飲み物が欲しいのですが」
「ふむ、了解した。ちょっと待っていろ」
そういうと、ティアは部屋から出て行った。
とりあえず1人になることには成功した。
しかし、先の口ぶりによると、外には見張りがいる様子。
いったいどうやって逃げ出しましょう。
そもそも、ここから逃げ出したところでここからどうやって街に帰ればいいのか全く分かりません。
前途多難です。
「まぁそんなに慌てないで、わたしの可愛いエリスちゃん」
背筋に悪寒が走る。
え?
今この部屋、私しかいませんでしたよね?
「だ、だれです!?」
声がした方、つまり後ろを振り返る。
その声は可憐な少女のようでありながら、蛇のように絡みつくような声。
およそ私を人間とは見ていない、餌として認識しているかのような。
「ふふふ、わたしはしがない占い師。あなたの場所を魔族に教えたもの。つまり、仇というわけね」
くすくすくすくす……。
口元を抑えながら、静かに笑う少女。
少女といっても、おそらく私よりは年上。
なぜおそらくというか、それは身体をローブで包んでいるから。
ただ、身長は私よりも高く、どことなく大人な雰囲気を感じる。
そもそも、私は10歳なわけだから私と同年代とは到底思えないのですが。
「仇、ですか」
「そう、私がいなければ、あなたは今頃暖かい家と家族に囲まれながら、ルーシーと遊んだり、魔術の勉強をしたりと、いつもと同じ日々を過ごしていたはずですもの。まぁ、それが正しいかはわかりませんが」
「な、なぜルーシーちゃんを知っているのですか!?」
怪しい存在からルーシーちゃんの名前が飛び出し、悪寒が走ります。
なぜこの占い師がルーシーちゃんのことを認識しているのでしょうか。
場合によってはルーシーちゃんが危険な目にあってしまうかもしれません。
「ふふ、わたしはエリスちゃんのことならなんだって知っているよ」
「そうですか。まだ10歳の私にそこまで興味津々だなんて、占い師さんは変態でしょうか」
ジト目を演出しつつ、占い師を見つめる。
そうすると、占い師はわなわなと震えだします。
「そうさ、占い師さんは変態なんだ。あぁ!エリスちゃんから変態呼ばわりされてしまった!た、滾るぅ!!」
そういって上を仰ぐ占い師さん。
この人気持ち悪い……。
しかし、その際に少しだけ顔が見えました。
かなりの美少女さんですね。ぱっと見ですが、16歳程度のとても整った顔が見えました。
ちらりと見えただけなので、語れるほど見えませんでしたが。
ちなみに髪色は青です。
この世界、美少女がちょっと多くないですか?
「占い師さん、ちらっと顔が見えましたがとてもかわいいですね。もっとよく見せてくれませんか?ほら、ちょっとそのフードをとって」
「ふふー、そうしたいのはやまやまだけど、エリスちゃんがわたしの顔を見るのはちょっと早いかな?」
「早いってどういうことですか」
「んー、内緒。もっとわたしと仲良くなったらそのうち理由を教えてあげるね」
仲良くなる予定などないのですが……しかし、私は前世が男だったからか、もしくはマコト様の趣味が移ったのか美少女には大変甘いです。
迂闊にもそのうち仲良くなってしまう可能性はありますね……。
「……わかりました。それと、ルーシーちゃんには悪さをしないでくださいね」
「君がおとなしくしている間はわたしは何もしないよ?」
「それは脅しですか?」
「ふふ、そうとってもらっても構わないさ」
くぅ、愛しのルーシーちゃんを盾にされたら、私は何もできませんよ?
自分だけなら秘めたる力をどうにかしてこの状況を打破できるかもしれませんが、ルーシーちゃんを護るとなると不安が過ぎます。
「私はここがどこなのか、どちらに行けば元の街に帰ることができるのか、情報が不足しているので行動ができません。その情報が集まるまでは、おとなしくしておくことにします」
「とても正直な意見だね、さすがエリスちゃん。憶することを知らないっていうか、命の保証なんてここにはないよ?」
「そうなったらそうなった時です」
私は昔から、考えてもわからないことは考えないことにしているのです。
このままあてもなく外に出ては、食べるものもなく飢え死にするかもしれません。
ここにいても命の保証はありませんが、それは外に出ても同じこと。
衣食住が保証されるのであれば、外に出ても無事でいられる状況になるまではここにいるのはやむを得ません。
それに、私の中にあるという魔王の因子が目当てなのでしたら、簡単には殺さないでしょう。
……それこそ、魔王を産みだすまでは。
「占い師さんは私のことを何でも知っているとおっしゃってましたが、どうして私のことなど知ろうと思ったのでしょうか。魔王の因子を持っているからかと思うのですが、どうやってそれを知ったのですか?」
とりあえず、さっそく情報収集です。
占い師から少しでも情報を引き出さなくては。
なかなか教えてくれなさそうな質問から始めて、情報の優先度を混乱させる作戦でいきましょう。
「それくらいなら教えてあげましょう」
あ、これは教えてくれるのですね。
そんなに重要な情報じゃなかったのでしょうか。
感覚が難しいです……。
「簡単な話だよ。わたしは占い師。そこでこの水晶に聞いてみたのさ。この世で一番美しいのはだれかって。いつもはわたしとこの水晶は答えるんだけど、10年前のある日に突如赤ん坊のエリスちゃんが映し出されたんだ」
「ええ……」
確かに私は美しいのかもしれないけど、赤ん坊の見た目ってどんなに将来美人になる人でも大差ないですよね。
「そこでわたしは思ったんだ。美しいって何だろう。なにをもってこの水晶は美しいを定義しているのだろう。客観性?内面性?それとも総合的なもの?物心もついていない赤ん坊がこの世で一番美しいとされるのであれば、それは努力によって作られるものではなく、生まれ持ったものでしか測れないものであるのか」
何やら哲学的な話になってきました……。




