01.主人公死す!?
いきなりですが、いきなり人が死んでいますので
嫌な方は避けて通ってくださいwww
この国は終わった……。俺だけじゃなく、きっと誰もがそう思っている。
そして俺は、多分もうすぐ死ぬんだろう。そして兄弟同然に育った双子達も……。
この世の終わりは、何て事の無い日常からじわじわと広がっていった。
秋から冬に変わろうかという頃、インドネシアで火山が大爆発をした。その灰は日本の空もくすませ、空の便に多大な影響を与えた。
日本では毎年冬の風物詩であるインフルエンザの流行。今年はいつもより少し早かった。
2020年。夏には東京オリンピックが無事に終わり、柔道や空手、レスリング、水泳、体操ではメダルを量産。その興奮がようやく収まって、紅葉が始まった頃に始まったインフルエンザの流行。このインフルエンザは、日本国内だけで大流行している。鳥の物ではなく、しかしヒトとも豚とも違う不思議な型のインフルエンザウィルスで、日本だけでなく、分析を引き受けてくれたアメリカ、ドイツ、フランス、インド、中国からも、間違いなく新型だと発表されている。
感染が確認されて約二ヶ月。既に外国人旅行者を含め348万人が死んでいる。致死率は70%に昇り日本国内を大混乱に陥れている。
テレビではしきりにパンデミックだと騒ぎ立てているが、WHOはフェーズ5のエピデミックであると発表している。日本だけで大流行していて、海外では一切患者が出ていないからだ。
さらには諸外国がこの新型インフルエンザの流入を恐れて航空機も船舶も、日本のものは一切受け入れられなくなってしまったため、鎖国状態になってしまった。
各国首脳はこぞって「日本がこの試練から復興するときには経済面も含めて様々な支援を惜しまない」との声明を出しているが、終息するまで関わりませんという事でしょうねと、ワイドショーの司会者が言っていた。
ひと月前にはインドネシアの大噴火、そして今はこの新型インフルの大流行。
つい3日前までは幼馴染み達と「怖いなぁ」と言い合いながら、でも他人事だと思ってテレビを見ていた。
それが今では……。
俺の名前は鈴木 一郎。16歳の高校二年生だ。ブサメンでは無いがイケメンでもなく、成績・スポーツ共に可もなく不可もなく。いや、自慢しているわけでも盛っているわけでもないが、若干ではあるが可寄りである。
年齢=彼女いない歴のごくごく普通の高校生だ。筋トレが好きなのでひそかに腹筋はシックスパックになっているのが唯一自慢できるところだったりする。
俺は今、約五年前に卒業した小学校の体育館に寝かされている。というか、ここで隔離されている。新型インフルエンザに感染しているからだ。
俺がここに運ばれた翌日には、家が隣同士で兄弟同然に育った双子の幼馴染み、大泉進太郎と孝太郎も運ばれてきた。
患者数が多く病院には入りきらない為、各地で学校の体育館なんかが患者の隔離施設として利用されていた。
11月後半に入り爆発的に感染が広がり死者数も増えたため、12月からは全国的に学校は休校になっていた。
昨日、隣に寝ていた小学校の時の同級生、柳君が死んだ。俺が運ばれてきたときから既に意識はなく、最後は血の泡を吹きながら凄く苦しそうに呼吸をして、やがて止まった。半日程してようやく看護師さんが亡くなっているのに気付き、どこかに運ばれていった。看護師の手が足りていないため仕方が無いのかもしれないが、同級生がすぐ隣で、熱で赤かった顔が紙のように白くなっていく様子を何も出来ずに只見ているだけの状況に、この世の終りを感じた。一眠りして目が覚めると隣には新たな患者が運ばれてきていた。
看護師だけでなく医薬品も足りていないのだろうが、枕元にスポーツドリンクの入った水差しと、その横には尿瓶が置かれていて、すべてセルフサービス。治療目的ではなく、本気で隔離する為だけにここに集められていた。
というのもこの新型インフルエンザ、特効薬のタミフルやリレンザなどが全く効かない。効かないどころか、投薬すると急激に容態が悪くなるらしく、使用が禁止されていた。
それでもインフルエンザなのか?と、テレビでは散々コメンテーターが騒ぎ立てていたが、俺はそんなことド素人なのでインフルエンザだと言われればそう納得するしかない。まぁ、日本以外の国の専門家もインフルエンザだと言うからまず間違いは無いんだろう。
患者は全国の公共施設、特に学校の体育館に集められ、ただ隔離され、30%の回復の希望を胸に死を待っていた。
これが先進国である日本の、「想定外」の事象が起こった時の姿だった。何とも情けないと言うか何と言うかという状態だが、その「想定外」の事象に対応するお偉いさん達でさえ何人も、この新型インフルエンザに罹患して隔離されたりあの世に行ったりしているので、政府も混乱していた。
故に俺は前途ある16歳の身で、こんな所に寝かされて、医療機関で手当てを受けることもできず、死を待っていた。
体育館のあちらこちらから咳の音やうめき声、喘鳴、すすり泣く音が聞こえてくる。全身の節々が滅茶苦茶痛いのに、よく泣く元気があるなと思う。
ここで寝ていると、スマホも取り上げられているため何もする事がない。まぁ仮にスマホがあったとしても、ネットを見たりゲームをしたり、誰かにメールしたりするだけの気力も無かったと思う。でも、ただ寝ているだけというのも、後どれくらい生きられるのか、死ぬときは苦しいのか等考えてしまうので、その不安を紛らわせる何かが欲しかった。
ここに連れてこられて3日。今、最高潮にしんどい。身体中痛くて手も動かせない。
あぁ~…。喉乾いたな……。コーラとかポカリとか言わないから、冷たい水でいいから誰か飲ませてくれないかな…。
「水飲みてぇ……」
これが俺の人生最後の言葉なのかな……。
童貞のまま死にたくねーなぁ……。
せめて初キッス位はしてから死にたかったなぁ……。
思い起こせば後悔ばかり。
その後悔と、異常な喉の乾きの感覚を最後に、俺は意識を手放した。