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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アルカナ/リバース

作者: 白河律


 体育の終わった後の更衣室。

 そこでジャージから制服に着替えようとした時、私――御影忍(みかげしのぶ)は気が付く。


 ――ロッカーに制服が入っていない事に。


 一瞬の困惑。しかし、それは私だけのものでは無かった。

 周囲を見渡すと、飯山(いいやま)さんと目があった。彼女もまた制服が無いのか、周囲の女子が何気なく着替える中、立ち尽くしている。

 その事で私は自分達に何が起きたのか、いや正確には――何をされたのかを理解した。


 私達の制服は、クラスの誰かの手によって隠されたのだ。


 この場所に、男子や他のクラスの女子は入って来れない。

 ならば、犯人はこのクラスの女子しか在りえない。

 何かの間違いならいい。

 しかし、そうとは思えなかった。

 何故ならこの数か月の間、こんな事だらけだからだ。

 鞄や靴、文房具が無くなり、クラスから離れた所にあるゴミ箱の中から見つかる事ばかりだ。

 これが、偶然や間違いとは言えるだろうか。

 それだけでは無く、教科書に卑猥な言葉や罵詈雑言を書かれていた事もある。


 なによりも、私と飯山さんを取り囲むこの空気が異様なのだ。

 そんな私達を見て、いつもみんなが嗤っている。

 クスクスと――密やかに。


 飯山さんは何かを言い掛けて俯いた。

 私はただ、ロッカーの戸を強く閉めた。



 どうしてこうなったのか?

 私は詳しくは知らない。

 ただ、クラスの女子の中で飯山さんが気に喰わないというグループがいた事は知っていた。メガネを掛けた彼女は、本が好きでクラスでよく読んでいて、物腰も穏やかで、どちらかといえば大人しい子だった。

 そんな彼女を〝みんな〟で無視しないかと、私にもクラスの女子から声が掛かった事もあった。

 その誘いに、私は乗らなかった。

 それからだ――私にも、こんな事が起きるようになったのは。


     ◇


 数か月後――飯山さんは自殺した。

 学校の屋上から、飛んで。

 何人かのクラスの女子の名前を書いた手紙と、私への短い言葉を遺して。



 飯山さんが自殺してから、一か月後。

 私の身の周りでは沢山の事あったが、ようやく落ち着きを見せ始めていた。

 最終的に、彼女の手紙に書かれていた数人の女子は退学した。


     ◇


 私は夕暮れの街を下校していた。

 その途中、不意に目眩を覚えて公園のベンチで休む事にした。

 そんな時、声が聞こえた。


 「ヘイ!そこな、ハイスクールガール。アーユーエンジョイ、エブリデ~イ?」


 どこから突っ込んでいいかも分からない片言の英語を聞いたら、更に頭痛までしてきた。

 目を開けるとそこにはひとりの女性がいて、私の顔を覗き込んでいた。

 その女性はニヤリと不敵に嗤っていた。黒いシャツにパンツ姿の格好で、漆黒の長い黒髪を揺らして。

 そんな彼女の容姿で一番、私の目を惹いたのは、頬から首筋に入った大きな傷跡だった。

 「あなたは……誰ですか?」

 その質問に彼女は、こう答えた。

 「そうねえ~特に名前なんて無いけれど〝アクマ〟で名乗るのならば『キャリーウーマン』って所かしら?」

 嘘つき、どう見ても真っ当な仕事人には見えなかった。

 「ありゃ、あからさまな疑いの目。これでもライは言ってないんだぞ~!私はただ、ユーにこれを渡しにきただけ」

 そう言って、手に持つアタッシュケースを開いて取り出したのは、携帯にも似た黒いタブレットだった。


     ◇


 家のベッドに寝転がる私は、手の中のタブレットを弄ぶ。

 あんな怪しい人間から〝タダ〟とはいえ、どうして物を貰ってきてしまったのか、後悔の念に捕らわれていた。

 手の中のタブレットの画面は、電源を入れていないのでまだ黒い。


 「この端末を渡すのは、ユーにはチカラを手にする資格があるから。その意思があるなら、電源をオンするがよろし!大丈夫、この力でユーが何をしてもギルティには問われないから!」


 何処までも胡散臭い女性の言葉だった。

 だと言うのに、私は電源を入れた。

 そのタブレットには、タロットの逆さの〝審判〟のカードが映った。

 それから私の意識は堕ちた。



 夢を見た。


 「ごめんね」


 家族の為に頑張っていた父を捨てて、出て行った母の言葉だ。

 私には未だに分からない。

 何故、母が父を棄てたのか。

 世界はいつだって理不尽に満ちている。

 何が正しいかなんて誰にも分からない。

 ――飯山さんの事だって。

 彼女が私に遺した言葉を思い出す。


 「――巻き込んでごめんなさい」


 夢の果てに私は――悪魔に出会った。

 そうして、私は決めた。

 正しさは――私が決める。


    ◇


 「ヒ、ヒギャ――!」

 夜の学校に悲鳴が響く。

 私が呼び出したクラスメイトの数名の女子――その内の一人が地面から生えるようにして伸びた槍に、真下から貫かれて死んだ。死体は口から血を噴いた。

 それを見た他の女子が逃げ出す。

 私は――誰も逃がすつもりなど無かった。


 「行きなさい――〝ジャッジ〟」


 私はそう言って昨日、夢の中で出会った悪魔を呼んだ。

 その悪魔は騎士のように漆黒の甲冑を身に纏っている。けれどその肢体は、昆虫のように伸びていて、異形めいていた。

 死んだ女子の影から這い出た悪魔が〝ロボット〟のように私の意思に従い、その手に持つ槍で、刃で惨殺していった。

 そのうちに、誰かが泣きながら、失禁しながら懇願した。

 「た、助けて……おねがい」

 「いや……」

 私は惨劇の場で、膝をついて吐きながらも答えた。

 「どうして、わ、わたし達が何をしたっていうの……!」

 「私は知ってる……あなた達がみんなを煽った。確かに一番悪いのは、飯山さんが気に喰わなかったグループ。でも、それに乗っかったのはあなた達。それに彼女達と違って、あなた達は今でもお咎め無しで暮らしている……それが、私には一番赦せない……!」

 「そんな事で……こんな事!」

 死の恐怖に震えながらも、私を睨む。

 「理不尽かしら……でも、私からすればあなた達は理不尽でしかなかった!私達が例え同じように頼んでも、嗤うだけだった筈。だから、私が報いを下す!」

 目の前に呼んだジャッジが、刃を振り下ろした。

 重い刃が刺さり頭を割り、血を噴き出た。

 その光景を見て、私は嗤い続けた。


 死ねばいい。

 私が認めない、正しくないものは全て。



 この光景を漆黒のような黒髪の女性が何処かで覗いて、嗤っていた。

 またゲームの駒がひとつ増えたとして――


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