初バトル~シリアス~
誤字脱字修正しました。
その日、マコトは1か月の休学届を出して町の酒場に来ていた。
――ダメだ。全くやる気が出ない。この町に来てから宿とダンジョンの往復しかしてこなかった。今日は飲もう。
現在のマコトのレベルは約60前後。わずか4か月でこのレベルは驚異的なスピードである。
「昼間から飲む酒…。うまい!うますぎる!!」
だがこの男は既にダメ人間になっていた。
「だいたいさ~作者がクソなんだよ。普通学園ラノベで嫌な同級が出てきたら俺Tueeeeって倒すじゃん。で、それを見た美人と恋仲になるじゃん…。お約束だろそんなの!ちょっと!聞いてるマスター!!」
「聞いてる聞いてる。作者がゴミなんだからしょうがないだろ…。」
「ヒック……。そんなんだから別の作品も評価0でブックマーク0なんだよ。下手糞が。しかもこれ1部キャラ設定使いまわしだかんね! 手抜きじゃねーの! 許されないよ! エルフ出せよエルフ!!」
ジョッキをダンダン!!とカウンターに叩きつけ荒れる。
「ひどい話ね。大丈夫。私があなたの愚痴を聞いてあげるから」
――この流れ……エルフの美少女だ。間違いない!
僕が振り返るとそこにはゴリッゴリの汚い顔をした〇カマがいた。
「あ、すみません。お代ここに置いていきますね。さよなら。」
すっかり酔いの醒めた僕は宿で新聞を読み始めた。新聞の情報によると
①世界の異変以降、最高lvは100となり弱体化し、一騎当千が無くなった。
②一部の魔物はユニークスキルを習得をしているため討伐は難しくなった。
③lv100になるとC、B、A、Sのランクに切り替わることが確認されている。
という事が新しく発見されたらしい。どうでも良かったので新聞は丸めて捨てた。
しかし、ここで僕は逆転の1手を閃いた。
(いや、待てよ。奴隷で回復魔法使える奴をパーティーに入れればいんじゃね。よくあるじゃん。実は強いのに、訳ありで奴隷っていう設定が)
……この世界に奴隷制度はなかった。
――寝よう…。
僕はその日、枕を涙で濡らした。
◇1ヶ月後◇
5回ほど|45階層のボス《クレイジートロールlv90》と戦うと、ついでにお金を稼ごうと49階まで攻略していく。
オーラの操作も大分上達した。
46階層~49階層でトロールと呼ばれているモンスターとスピードオークを倒し、宿へもどりステータスカードを確認する。
齋藤誠
戦闘力:136
所持金 金貨15枚 銀貨82枚 銅貨35枚
『ミズーリダンジョン』最下層攻略49階
――戦闘力って上限設定ないんじゃないの?やっぱりバグってるよね?
体感的には既に身体を全強化時、lv100まで行ってる気がする…。
なぜか宝箱からポーションしか出ないのも関係あるのかな?
……まあいい。とりあえずハワードを倒すか。
僕の目標はなぜか打倒ハワードになっていた。
久々に登校して隣のアリスさんに
「すみません。教科書忘れたので見せてもらえませんか?」
と言うと、昼休みハワードにトイレに呼ばれた。
(単純な奴だ…地獄を見せてやる)
「おい手前!どうやらふざけるみたいだな!」
突然ハワードに腹パンされたがオーラを腹にこめると「ゴン!」という音がする。
「痛ってぇぇぇ、てめえ!腹に何か仕込んでやがるな!」
――おかしい。お互いにlv100のはずなんだが。試してみるか。
試しにハワードに腹パンすると悶絶した。
「て、てめぇ!魔法使いやがったな!」
腹を抱えながら気勢を張るハワード。なんだ。魔法のせいか。
「決闘だ!『闘技場』でケリをつけてやる!!逃げんなよ!」
「はぁ~、別にいいけど。お前風と水の属性だろ? 俺の属性知りもしないで、マジで言ってんの? 悪いけど俺もうlv100だよ?」
「はぁ? ハッタリかましてんじゃねぇぞ。13時ちょうどに『闘技場』だ!いいな!!」
「はいはい。」
<闘技場>13時
闘技場はドーム状の建物で中央が円形の芝生、周辺は観客席だった。
(……小さな東京ドー〇みたいだな。)
何処からかハワードと決闘すると情報が洩れてチラホラと観客がいるな。
審判はアレックスがするみたいだ。
「おう!決闘を始めるぜ!俺の判断で続行不可能だと思うまで好きなだけやっていいぜ!」
「ちょっと待ってください。僕が勝ったら何か報酬でもあるんですか?」
「おう!お互いに取り決めていいぜ!」
「お前如きが俺様に勝てるわかねーだろ、もし俺が負けたらなんでもしてやるよ」
「え? なんでもですか?! わかりました。僕も同条件でいいです。始めましょう!」
「おう! じゃあ試合開始だな」
アレックスの掛け声とともに身体強化で体全体を包む。
さて、この世界のlv100はどんな感じなのかな。
――ふ~ん。まあ当然風魔法で補助は使ってくるか。元勇者の実力見せてやるぜ。
~~~ハワード~~~
負ける気はない。何しろ自分は8年もダンジョンに挑んでいるのだ。
マコトが本当にlv100だとすれば、アレックスの手伝いがあったのだろう。経験も年期も何もかもが違う。
気に入らないぜ。
アリスお嬢様親衛隊会員ナンバー1番であるこの俺の目の前で『教科書を忘れた』等とほざきやがって。
しかも教科書じゃなくてチラチラ此方をみてニヤニヤしてやがった。
ツブス。
無属性と何の属性かは知らんが、俺の速さが見切れるわけがあるまい…。水魔法を使用して蜃気楼を作る。
…これで360度の俺の分身に囲まれている状態だ。殺るか。
ゆっくりと、確実にマコトに接近する。
だがこの時、マコトはオーラを耳に集中させる事により、音で本物が判断できていた。
後ろからソロリと近づくハワードの方に向き直り、手をクイクイっとして挑発してきた。
――――来いよハワード―――
(なめやがって!)
即座に得意の風魔法を周囲に纏わせ、高速で動けるよう調整する。
(どんなトリックで本体を見破ったか知らんが、こいつは直接1発殴らないと気が済まないぜ。)
「トルネード!」
ハワードは竜巻を両腕に纏うと目にも止まらぬ速さでマコトに殴りかかる。
次の瞬間、拳と拳がぶつかり合う。
~~~~~~~~
――なるほどね。
マコトは本来であれば関節を取ったりする所だったが、腕を竜巻で纏っていたのでそれをしなかった。
――オーラの分別を試してみるか…。次に似たような攻撃だったら身体オーラを50%まで落として、両手を50%まで上げるか。
「調子に乗るな!本気でやってやるよ…。ネオトルネード!」
ハワードは両手の竜巻をドリル状に変化させ、大きく跳躍するとマコトの周囲を旋回し始める。
――やっぱり風属性は飛ぶこともできるのか。何処からくるのかわからないな。
マコトは即座にオーラで自分の周囲30cmを囲むと同時に右手にオーラを溜める。
オーラで接近を感知した瞬間に攻撃してやる。
ハワードは背後から竜巻を纏った左手をマコトを突き刺す。
爆音と供に繰り出されたハワードの手がマコトを襲う。が、30cmのオーラに触れた瞬間、マコトが反応し、ソレを右手で下からそっと弾く。
「なっ?!」
――俺の風魔法が受け止められた?嘘だろ?――
――信じられないだろ?よく見てみろよ。――
ハワードの右手から激痛が走る。見ると右手が弾け飛んでいた。
マコトは3回しか使えない自身の切り札をここで使用していた。オーラを飛ばすことも集中して殴ることも、人を相手にする際は過剰戦力となった今使うことはできない。
だが部分的には可能だった。既に新聞で『心臓と脳が無事であれば蘇生可能』と確認している。
苦痛に顔を歪めながらハワードはすぐに5m程の距離を取る。
「なんだ? 貴様何をした?!」
「自分の能力を話すわけないだろ。馬鹿なの?」
「うるさい黙れ!!!卑怯(ひきょう)だぞ!!」
――冷めたな。中身が小学生の大人をいじめてるみたいでくだらないな。
「まだやる? 僕は別に構わないけど?」
「くっ、くっっそぉぉぉぉぉおおお! こんな…こんなやつにぃぃぃぃ……!」
――悔しがるハワードが見れた。それだけで十分だ。
判定をして貰うべく審判のアレックスの方を見るマコト足元が沈んだ。
「な、なんだ?!」
足から地面に沈むマコト。気が付けば地面から顔だけが出ている状態となっていた。
――これは………。水属性で『足元を底なし沼』にしたのか。そんなことできるのかよ…
ハワードの方を向きなおすと既に其処にはいない
マコトがハワードを視界に捉えた時、それは上空でハワードが獰猛な笑みを浮かべ、ハワード最大の風魔法を遠距離から放ったのと同時であった。
「ドラゴニックトルネードォォォ!!!」
ハワードの手から放たれた魔法は天災の域に達していた
――当たったら死ぬ……ふざけんなよ!!――
咄嗟に乱暴なオーラを地面に放ち反動で後方へ大きく飛ぶ。
先程までマコトがいた場所は大きく抉れて、まるで隕石が落ちたようにクレーターが出来ていた。
次の瞬間、マコトの体を包んでいたオーラがドス黒く不気味な色へと変化していった。
「もう駄目だ。お前殺すわ…。あの世で後悔しな。」
「そこまで! そこまでだ!」
アレックスがマコトとハワードの間に入る。
「あいつ、俺を殺そうとしましたよね? 最後のトルネード前に止めるべきでしたよね?」
「おう! 勿論いざとなれば止めに入ってたさ。速度には自信あるからな。」
ニカッっと白い歯を見せて笑うアレックス。
「はぁ。ではそういうことでいいですよ。」
自身のオーラを解くと、マコトの殺気に充てられたハワードはまだ震えている。
「おう!この勝負マコトの勝ちだぜ。」
――後で知ったが、迅速のアレックスと言われ、この世界では5本指に入っている強者だったそうだ。アレックスは光・闇・雷・風の4つの属性が使えるらしい。
無事勝利したマコトはハワードが酒を少量飲むとすぐに眠くなる事を聞き出した。
満面の笑みを浮かべ勝利報酬の内容を告げる。
「え? 酒場で俺がナンパして一緒に酒飲むだけでいいの?」
「勿論だよハワード。僕らは拳を合わせた仲、もはや親友じゃないか!」
「マジかよ…なんか、お前の事誤解してた。ごめんな。」
「いや、いいんだ。ちょっとその前に、魔法で内容を契約してもらえるかな? アレックスさん使えますよね? お願いできますか?」
金貨を1枚アレックスに投げて契約書へ変換してもらう。
「おう!内容は『酒場でナンパした後、一緒に飲むだけ』でいいな。」
「あ、一応『相手の機嫌を損ねないこと』って追加してもらっていいですか? 1日だけでいいので。」
「おう!じゃあ『酒場でナンパした後、一緒に飲むだけ、相手の機嫌を損ねない事。ただし1日だけ』でいいかハワード?」
「はい。大丈夫です。俺は心を入れ替えますよ~。すまなかったなマコト」
「いえいえ。全く問題ありませんよ。ハハッ!!」
何処かで聞いたような笑いにハワードの額から汗が洩れる。『何だろう。何かが引っかかる。』
「おう!契約成立だ。破った時の罰則はどうする?」
マコトは暗く、沈んだ瞳でアレックスに罰則を提案する。
「死刑で」
「お、おう?」
「死刑で。」
「お、おう。できるかどうかわからないけど一応その内容で契約成立だ」
「ちょ…死刑はさすがに」
「冗談ですよハワードさん。今日は疲れたので、またご連絡しますね」
マコトはニコニコとした笑顔で別れを告げ、翌日ハワードを酒場へと誘った。
「あそこの人をナンパしてきて一緒に飲んであげて下さい。じゃあ僕は帰りますので。」
「ナンパ失敗したらごめんな。え? マコトは帰っちまうのか?」
「大丈夫です。昨日はなしはつけておきましたので『絶対に成功』します。ではごゆっくり。」
ハワードは対象の人間の後姿を確認した。サラサラしたピンク色のロングヘア―、ちょっとぽっちゃりした体形だが綺麗な肌をしており、手のネイルも鮮やかだ。
「ねぇ君、マコトから紹介されたんだけど、一緒に飲まない?」
「あら? 貴方が私のファンって子ね。聞いてるわよ。楽しいお酒を飲みましょう。今夜は返さないから」
そこには依然マコトが遭遇したエルフ………ではなく、ゴリッゴリの汚い顔をした〇カマがいた。
「アッーーーーーーーー」
翌日、ハワードはアリス親衛隊を辞め、文字通り生まれ変わっていたという。