③
ハジメ編⑤で終わります。
レベッカの提案で今日は居酒屋で親睦を深めようという事になった。「(年齢的に)僕はいいけど、レベッカは飲んじゃだめだよ?」と付け加えるのを忘れない。
俺氏マジ紳士。
適当にメニューから注文して雑談をする。
「そういえば、レベッカの武器って銃なんだよね? ちょっと見せて貰っていい?」
――――(ズキッ)頭が痛い。忘れていた何かを思い出せそうな……気がする。
「も、もちろんいいわよ。どうぞ。」
見せて貰った銃は不思議な形をしている。10cmくらいのバームクーヘンみたいなものにトリガーが付いている。よくわからない。
「弾を込める所がないけど? 魔弾に魔力を込めて使わないの?」――――まただ。また頭が痛い。そうだ。僕は魔弾を知っている。
「ま、魔弾ですか? 恥ずかしい話なんですけど、魔弾を買うと財布に優しくないので。銃も専用になりますし……1つだけお守りで持ってるくらいですね。」
レベッカは熱心に魔銃について語り始める。銃好きなんだ。黒ギャルなのにちょっとオタクだったんですね。
レベッカの話によると、この銃は魔力を圧縮させる機能がついており、通常よりも威力の高い魔法を飛ばす事ができるので、ローコストで何度も使用でき便利らしい。
「魔弾は財布に優しくないから……ね。持ってる魔弾ちょっと貸して貰えるかな?」
魔弾を見せてもらう。僕は何処かで魔弾を見た事がある気がする。そうだ。こうやって魔弾に魔力を込めて……
――ボンッ
魔力を込めすぎて魔弾が壊れてしまった。すまん。これって高いんだよね。
泣きそうな目で見ないでください。謝るから。土下座でも何でもしますから。
僕が土下座をする為に椅子から立ち上がると、レベッカが慌ててそれを制してくれた。
「こ、これ私のステータスカードなんですけど。どうですか? ハ、ハジメさんのステータスカードも見たいなーなんて。」
この子はいい子や。高価な物を壊してしまったのに気にもしないなんて。
そういって差し出されたステータスカードを見た俺氏絶句である。
レベッカ・ソシエスト
Lv:100
HP:520
MP:600
属性:雷・光・闇
『クロエルダンジョン 9F』
所持金 金貨200枚 銀貨8枚 銅貨5枚
――――めっちゃ金持ちじゃん。引くわマジで。っていうか所持金公開されるのかよ。なんだこのステータスカードは。
「あ、ああ。そうだんだ。ふ~ん。僕のは……見せられないかな。」
ちょっと変な日本語になってしまった。落ち着け。大人の余裕だ。大人の余裕を見せつけるんだ。
あれ? そういえば僕は何歳なんだっけ? 思い出せない。そして僕のステータスカードを見せることはできない。なぜかって? バグってるからさ。
HAHAHA、神様なんて大嫌いさ。僕のステータス、こんな感じなんだもん。
イトウ ハジメ
Lv : ???
??? : ???
??? : ???
??? : ???
??? : ???
??? : ???
??? : ??? ?????????
固有スキル:|???
熟練度 10/10
??? : ???
??? : ???
ふざけてるでしょ。マジでなんなのよ。よし。強くなったら神様殺しに行こう。今決めたわ。――――(ズキッ)また頭が痛む。なんだか前にも同じことを考えてた気がする。
「そ、そんな事言わないでくださいよ~。私たちはもっとお互いの事を知っておくべきだと思うんです!!」
レベッカが僕の両手を握って『お互いの事を知っておくべきだ』と言い始めた。
え? 何この子。もしかして僕に気があるの?? お互いの事を知ってどうするの?? 鍛えて欲しいだけじゃないのか。やだ……恥ずかしくて顔が赤くなっちゃう……。
「み、見せてもいいけど。何も聞かないでね。そして僕のステータスカードについては誰にも言わないでね。絶対だよ!!」
恥ずかしながらもステータスカードを見せると彼女の顔が青くなっている。うん。そうだよね。わかるよ。こんなふざけた人とパーティ組みたくないよね。ごめんなさい。やっぱりパーティー組むのやめよう。
「あの……やっぱりパーティー組むの辞めます?」
恐る恐る聞いてみる。だけど彼女は白目でこういった。
「やる。わたちやるの。なんでもやるの。だめなの。パーティー組むの。」
レベッカがちょっとバグってしまった。注文したメニューが来た。助かった。もしかして僕はVRの世界にいて、レベッカはNPCなのだろうか? だからバグってしまったのか?
「やっぱり今日は飲もうか? 此処は何歳から飲んでいいんだっけ?」
「おちゃけは16ちゃいになってからなの。れべっかはまだ3ちゃいなの。でものむの。おちゃけのむの。」
ハジメの封印の解放条件が2つ揃いました。
①大切な仲間
②魔弾の知識
③???
④???
~レベッカ~
身の安全の確保しなきゃ……。とりあえず飲ませてこいつのスキルを喋らせよう。私かなり飲める方だし、ついでに酔い潰して今日の身の安全を確保しよう。
そんな事を思いながら居酒屋へ行こうと言うと、先制攻撃を打ってきた。
「僕はいいけど、レベッカは飲んじゃだめだよ?」
み、見透かされてる?
『僕はいいけど』=『俺は自分のペースでしか飲まない』
『レベッカは飲んじゃだめだよ』=『酔ってない状態で尋問させろ』
ってことなの? 落ち着け私。大丈夫だ。大丈夫。
彼は居酒屋でメニューを注文すると頭を抑えながら『武器を見せろ』と言われたわ。魔弾を使ってない事を責められるのかしら。
「弾を込める所がないけど? 魔弾に魔力を込めて使わないの?」
また頭を押さえ始める。ヤバい。このままだとキレたこの人に殺されちゃう。やだ。もうやだよ。故郷に帰りたいよお母さ~ん。
ハッ……いけない。現実逃避している場合ではない。必死にこの魔銃の優れている事を喋って誤魔化そう。
「ま、魔弾ですか? 恥ずかしい話なんですけど、魔弾を買うと財布に優しくないので。銃も専用になりますし……1つだけお守りで持ってるくらいですね。」
「魔弾は財布に優しくないから……ね。持ってる魔弾ちょっと貸して貰えるかな?」(さっき戦闘では何でもしますと言っただろ、何が財布に優しくないだ。殺すぞ。)
幻聴が聞こえる。でも待って欲しいの。私の持っている魔弾を見て欲しい。1発1金貨するこの世界で最高級の魔弾なの。これで許して欲しいの。
私が最高級魔弾を差し出すと、彼はそれに魔力を込めてその場で破壊した。
――ボンッ(舐めるなよ。お前もこうしてやろうか?)
ひぃぃ。この人怖すぎぃぃ。ごめんなさいごめんなさい。まだ死にたくない…――――ガタッ!!
彼が椅子から立ち上がる。人殺し。ダメ。絶対。待って待って。そうだ。私はレベル100なのよ。この世界で最高レベルなんだから!!
「こ、これ私のステータスカードなんですけど。どうですか? ハ、ハジメさんのステータスカードも見たいなーなんて。」
私のステータスカードを見ると、彼はまた頭を押さえている。
「あ、ああ。そうだんだ。ふ~ん。僕のは……見せられないかな。」
そうだんだ? どういう意味なのかしら。でも貴方だって同じレベル100なんでしょ!! ちょっと特別なスキル持ってるだけじゃない?!
そう……そうよ! そのスキルさえわかれば対処できるかもしれない!!
こうなったら色仕掛けよ!!
「そ、そんな事言わないでくださいよ~。私たちはもっとお互いの事を知っておくべきだと思うんです!!」
彼の左手をそっと両手で握る。優しく、包み込むように。――――ど、どうよ!! 私のセクシー攻撃は?!
「見せてもいいけど。何も聞かないでね。そして僕のステータスカードについては誰にも言わないでね。絶対だよ!!」
何言ってんだこの男。何が絶対だ。絶対バラすわよ。そして対策練って逃げ出してやるんだから。あのわけのわからない攻撃スキルもこれでわかる。そうね。内容次第では明日にでも逃げる準備を……
――彼のステータスカードは???で埋め尽くされていた――
……嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
ステータスカードは神様が作ったと言われてる。ありえない。こんな事ありえない。
ステータスカードを改ざんできるなんて聞いたことがない。
「あの……やっぱりパーティー組むの辞めます?」
彼が顔を真っ赤にして聞いてきた。怒ってる? 秘密を知られたのにパーティ解消ってことは…………やだやだやだ。お母さんが好きになった人以外とそういう事しちゃダメだって言ってたの。助けてお母さん。やだやだ。助けてお母さん。
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたちゅけてたちゅけて、たちゅけておかあさん。
「やる。わたちやるの。なんでもやるの。だめなの。パーティー組むの。」
しにたくないの。すきじゃないひとと そういうことするのだめなの。だめなの。
「やっぱり今日は飲もうか? 此処は何歳から飲んでいいんだっけ?」
このおじちゃんはなんでこんなあたりまえのことをきくの?
「おちゃけは16ちゃいになってからなの。れべっかはまだ3ちゃいなの。でものむの。おちゃけのむの。」
なにもかんがえたくにゃいの。もういやにゃの。わすれるの。きょうはなにもないへいわないちにちだったの。




