②
「ありえない。こんな事ありえないわ。」
肩で息をしながらもハジメと距離を取る。彼は此方を見ようともしない。遠くでただ石を拾ってはモンスターに投げてを繰り返しているだけだ。
結論から言う。『銃で遠くから狙撃したと思ったら後ろから石をぶつけられた。』
間違いない。あの男は異次元の強さを持っている。
「あっ……」
右足に痛みが走る。まただ。また何処からか攻撃されている。彼の投げている石で。
ちょっとした小遣い稼ぎのはずだった。少し狙撃して気を失わせた後に剣を奪って売りさばく。軽い気持ちだったのに……。
「……っ?!」
左足に痛みが走る。一体何処から?! ダメだ。両足をやられた。
――おかしい。私は遮蔽物に身を隠している。
「……!!!!」
今度は装備が燃やされた?! なぜ!? どうやって攻撃してるの?
周囲を確認する。何もない。突然わき腹に痛みを感じる。
まただ。また石で攻撃された。おかしい! 周囲には何もないはずなのに!! 発狂しそうだ……。もう……もういっそ一思いに止めを刺して欲しい。声にならない叫び声を上げる中、悪魔の様な男が無表情で近づいてきた。
やだ……。やっぱり死にたくない。
「あんまり馬鹿にしてるとすぐに死んじゃいますよ。酷い傷ですね。出口まで一緒に行きましょうか。」
――――怖い。この男が怖い。『馬鹿にするな』と警告された。『お前なんかいつでも殺せる』とも。恐怖で息が出来ない。『出口』とはこの世の出口だろうか。嫌だ。まだ死にたくない。『一緒に』とは何を差すんだろうか。
「な、何が目的なの?!」――思わず叫んでしまった。すると彼は悪魔の様な表情でこう言った。
「いいから。黙ってついてきてください。」と。
おしまいだ。もうおしまいだ。この男は私に何を要求するつもりなのだろうか。恐怖でそれ以上聞く事が出来なかった。
いつ消されるのか怯えていると、そのまま攻略者の宿に連れていかれた。
どういう事? 一体何を企んでいるの。すると悪魔はこう言った。
「事情を話せば大丈夫です。上司に頼んでお休みにして貰いましょう? それとも僕から報告しましょうか??」
そうか。そういう事か。この男は最初から昨日の男2人が私の協力者だと知っていたのか。
私はなんて間抜けな事を。
『事情を話せば』チクられたくなかったら
『上司に頼んでお休み』遠回しにここを辞めろという言われている。
ダメだ。昨日の男2人は攻略者だったから行方不明になっても問題ないだろう。だが私はここで働いている。もし辞めたら何時居なくなっても良い存在となってしまう。
考えろ。考えるんだ私。この人に殺されない方法を。
ここは辞めません→→→そうか。では昨日1件を報告させてもらおう→監獄END
誰か助けて下さい→→→後日、見えない攻撃で殺される→→→→→死亡END
仲間にしてください→→これ? これが正解?
わざわざここまで連れて来てる。これが正解じゃないのかしら。でもなんで私なんだろう。昨日の男2人でもよかったはず……待てよ。男だったから殺した?
私は女だ。え? つまりそういう事なの??
ずっと私に目をつけてたってこと?
「焼肉でも食べに行く?」
噂で聞いたことがある。男女2人で焼肉を食べに行くとはそういう関係になるという事だと。間違いない恋人になれってことだ。
この男の強さでこんな安い宿に泊まってる理由は…最初から私が目的だったんだ。なんでこんな簡単な事に気が付かなかったんだ。よく考えればこの男は攻略者の中でも礼儀正しかった。私に優しくしてアプローチしてるつもりだったんだわ。
間違いない! なんて言えばいいの。どう言えば体の関係を断れるの
……どうする……どうするの私!!
「わ、わかりました。但し、一緒にパーティー組んでくれるならいいですよ。パ、パーティー同士ですから色恋とかは無しですよ。どうですか??」
「え~、辞めた方がいいと思うけど。偶に防具無くなっちゃうよ??」
無理があったか……。全く乗り気じゃない。待てよ。乗り気じゃない??
押せば行けるんじゃない? そうよ。こんな遠回しに脅してくるんだから経験浅いはず。物事には順序ってものがあるとかいえば乗り切れるかもしれない。
防具がなくなるっていうのはどういう事かしら。でもそれくらいなら…………いいわ。私も攻略者ですもの。覚悟を決めるわ。この悪魔が私に手を出す前に強くなって見せる。
「お願いします。私頑張ります。物事には順序ってものがあると思ったんです。戦闘なら何でもしますから!! 強くなりたいんです。お願いします。」
お願いです。ホントお願いします。体だけは勘弁してください。
◇ハジメ◇
今日も日課である雑魚退治をしていると、急に体が軽くなった。恐らく朱雀さんと青龍先輩が何処かに遊びに行ったのだろう。モンスターを見つけては石を投げていた。其処には楽しみも悲しみも何もない。
ただ作業をしている感覚だ。
もういっその事、白虎氏に喰われてしまおうか。今何時だろ。いつまでこんな事をしていればいいんだろう。そんな事を考えているとレベッカがいた。あ、朱雀さんと青龍先輩が戻ってきた。
それにしてもこの黒ギャル。水着みたいな防具に銃だけの装備である。――――ダンジョン舐めてるな。
「(そんなふざけた装備で)あんまり(ダンジョンを)馬鹿にしてるとすぐに死んじゃいますよ。酷い傷ですね。出口まで一緒に行きましょうか。」
レベッカは歯をガチガチと鳴らして怯えている。事故級のモンスターと遭遇したのだろう……可哀想に。こんなに怯えてしまって。
「な、何が目的なの?!」
いかん。この人完全にパニックになってる。もうモンスターはいないのに。わかる。怖い思いしたから混乱してるんだよね。その気持ちはわかるよ。
「(安心して)いいから。黙ってついてきてください。」
可哀想に。まだ震えてるな。昨日金貨1枚白虎氏に食べられてノルマには余裕があるし、今日の狩りは中止にしようかな。
攻略者の宿に着くと、レベッカに「じゃあまた後で(夕食の時に)」と言うと顔が青ざめていた。まだ怖いのだろうか。今日は休んだ方がいいんじゃないだろうか。もう少し声をかけてあげよう。
「そんな顔しないでください。大丈夫です。上司に頼んでお休みにして貰いましょう? それとも僕から報告しましょうか??」
ん~。優しい。こんなに酷い生活をしているのに優しい心を持った男ハジメ。僕って本当に優しいな~。
でも優しい僕はアフターケアも忘れないんだぞ。今日は余裕あるしご馳走しようじゃないか。
「焼肉でも食べに行く?」
「わ、わかりました。但し、一緒にパーティー組んでくれるならいいですよ。パ、パーティー同士ですから色恋とかはなしですよ。どうですか??」
何を言ってるんだこの子は? パーティーを組む??
今日1人でダンジョンに潜った事を後悔してるのかな。確かに誰かと潜れば危険は少なくなると思うけど。でも朱雀さんが装備勝手に燃やすからな~。
「え~、辞めた方がいいと思うけど。偶に(朱雀さんが燃やすから)防具無くなっちゃうよ??」
「お願いします。私頑張ります。物事には順序ってものがあると思ったんです。戦闘なら何でもしますから!! お願いします。」
――違う。僕はなんという誤解をしていたんだ。この子は悔しかったんだ。
1人でダンジョンに潜るくらいだから自分の実力に相当自信があったのだろう。
でも事故級モンスターと遭遇して恐怖に震えてしまった。そんな自分が許せなかった!
だからこんな必死なんだ。こんな事もわからないで焼肉だなんて…僕の馬鹿野郎!!!!
「わかりました。焼肉は辞めて一緒にパーティーを組みましょう。」
久しぶりだな。誰かとパーティーを組むなんて……。今日からこの子は大切な仲間だ。
ハジメの封印の解放条件が1つ揃いました。
①大切な仲間
②???
③???
④???
Q.ヒロインの性格は?
A.勘違い系にしてみました。




