女神の試練 第2試練
白い胴着を着たロン毛のおっさんが自己紹介と試練の内容を告げる。
「諸君! 我こそが元カンチョー隊1番隊隊長!! 武田三日月である! 試験内容は単純かつシンプルだ。これよりカンチョー対決を行う。攻撃手段はカンチョーのみとする。まずは各々で戦ってもらい、勝ち残った5名が私とのカンチョー対決だ!!」
『やっぱりだぁぁぁぁ!! 元カンチョー隊1番隊隊長だ!』
『マジかよぉぉぉぉ。あの人の闇魔法は永続効果のあるやつだろ……。』
『永久不滅の痔の元1番隊隊長だ。俺は辞退するぜ。』
※永久不滅の痔
痔になる。決して完治しない闇魔法である。
----なんて恐ろしい魔法だ。辞退したくなる気持ちもわかる。蜘蛛の子を散らすように辞退していく挑戦者たち。結局残りは3人だけとなった。
カンチョー隊を滅ぼした、謎の忍者の正体は間違いなくワズさんだろう。あの人重度の痔持ちだって話だし。
「ほう。今年は腰抜けが多いようだな。まあいい。骨のある3人だと見た。では勝負を始める!!」
「ちょっと待ってください。ルール説明と合格者の人数を教えて下さい」
何の説明もないのかよ。
何だよカンチョー対決って。
意味わかんないよ。
「貴様、これを知らんのか?」
ロン毛のおっさん、改め『元隊長』が両手を組み、人差し指だけを伸ばした状態で構える。
「さっぱりわかりません。」
意味が解らない。何だこいつ。カンチョー隊って何だよ。随分とふざけた隊だなおい。
「ふむ。他の2人は知っているようだな。宜しい。ならば貴様は最後だ。実際に見てカンチョー対決を覚えるがいい。私が認めた強者のみ合格だ。さあ、どっちから始める?」
詳しく説明する気0かよ。この人本当に元隊長なのだろうか。人望なさそうだな。
「俺から行かせてもらうぜ。」
モブ2人の内、1人が最初の挑戦者となるべく名乗りを上げる。
「うむ。それではカンチョーファイト。レディーーーーGO!!!」
ささっと元隊長と男が両手を組む。
元隊長は両腕をだらんと下げたまま自然体でカンチョー体勢。
一方の挑戦者は両腕を左斜め下に伸ばし構えている。
「水魔法、『蜃気楼」
『おおっとぉぉぉぉ、挑戦者、まず水魔法で蜃気楼を作り、どこからカンチョーが来るかわからない状況を作り出したぁぁ!!
尚、実況は挑戦を辞退した私ことボナルドと解説はカーネスさんでお送り致しまーす。さあ、まずは初手ですが、いかがですかカーネスさん?』
なぜか突然実況が始まりだした。
『悪くない手ですね。序盤としてはいいでしょう。しかし相手は1番隊の隊長ですからね。中盤、終盤までスキがないでしょう。これは挑戦者にとって厳しい戦いになりそうですよ。』
挑戦者は30人程の分身を作るが、分身も含め、全員が大きな汗をかいている。一方で隊長は目を閉じ、最初の姿勢のままだ。
『これは一体どうした事か!! まだ何も起こっていない状況なのに挑戦者は大きな汗をかき始めているぞぉ!!』
『白熱のやり取りですね。隊長の自然体は『神主構え』と言われ、あの態勢から恐ろしいカウンターが繰り出される事で有名です。おそらく挑戦者の頭の中では何度も攻防が繰り広げられ、全てカウンターを喰らってしまっているという所でしょうか。』
『ビビってんじゃねえぞ挑戦者!! さっさと刺せ!!』
『そうだーー。さっさと逝っちまえや!!』
『やっちまえ隊長!! 秘儀の『千年地獄』も見せてくれぇ!!』
『観客の皆様からヤジが飛んでおります。やめてください。試合会場へキュウリを投げ込むのはおやめください!!』
『自分たちは挑戦を辞退したのに、ヤジだけは飛ばす。此処にいるのは男の中の男ばかりですよ。』
暫く睨み合っていた隊長と挑戦者だったが、隊長が急に両手を腰にあて、後ろ向きなった事で状況は一変した。
『おおっと! 突然隊長が後ろを向き始めた!! 一体全体何が始まるというのでしょうか!? カーネスさん!! 解説をお願いします!!』
『ファーストカンチョーを譲るという合図ですね。今隊長はケツ筋を固める事で、挑戦者に初手は譲ってやるからかかってこい。と合図しているのでしょう。』
『な、なんと!! これは挑戦者大チャンスであります。』
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
挑戦者の指先に雷が集まる。
チッチッチッ…………バチバチバチィィィィ!!!!!!
その指先はまるで雷神を宿しているかのように雷が荒れ狂っている。
『これは! 雷魔法が挑戦者の人差し指から雷がほとばしっております。これは元1番隊隊長!! 耐えきることができるのかぁぁ!!』
『出ますね。ファーストカンチョーですよ。攻撃方法は雷神のカンチョーと名付けましょう。』
張り裂けんばかりの雷鳴が2度、室内に響き渡る。
霧で良く見えないが挑戦者のファーストカンチョーは確実に決まった。数秒の後、水魔法が解除され2人の姿が映し出される。そこには蹲る挑戦者と微動だにしない隊長の姿があった。
『これはぁぁああああ!! 挑戦者の両人差し指が折れております!! こんな事が、こんな事がありえるのでしょうかぁぁ!!!!』
『隊長の秘儀の1つ『鋼のケツ筋』ですね。私も生で見るのは初めてです。流石元カンチョー隊1番隊の隊長ですね。』
「降参だ!! 参ったぁぁぁぁ!!!!」
「少し遅かったな。お前のケツはもう割れている。」
一瞬遅れて降参したはずの挑戦者のケツから血が迸る。
『こ、これは!! 挑戦者のお尻から噴水の様に血が流れております。何が起こったのかぁぁ!!』
『隊長の秘儀の1つ。『幻分身』ですね。相手の攻撃を受けつつ、分身が永久不滅の痔を放ったのでしょう。正直に申し上げます。私には何も見えませんでした。』
「次の者、前へ。」
「辞退します」
『辞退だぁぁーー。次の挑戦者がまさかの辞退!! 残る挑戦者はたった1人となってしまったぁぁ!!!!』
『当然の結果ですね。私も辞退してよかったと心の底から思っております。』
「最近の若い者は骨が無くてダメだな。君も辞退するかね?」
「辞退はしません。僕はどうしてもEXスキルを手に入れたいんです。やります。やらせてください!!」
「いい目をしているな。久々にいい戦いが出来そうだ。貴様、名はなんという?」
「マコト。カスンズ・マコトです!!」
『会場に現れたその姿はまさに自殺志願者ぁぁ! 処刑への階段を1歩1歩登っていく挑戦者マコト!! 果たして元カンチョー隊元1番隊隊長に一矢報いる事が出来るのかぁぁ!!』
『先程の戦いを見て挑戦を決めるとは……。後は神に祈りましょう。せめて彼の肛門が今後も活動できることを。』
大丈夫だ。僕には勝利の方程式がある。さっきの戦いを見て考えついた。
『『それではカンチョーファイト。レディーーーーGO!!!』』
隊長と向かい合い、全身にオーラを巡らせる。両手を握らず、左手の人差し指だけを伸ばす。そしてその状態から微動だにしない。僕のオーラはこの勝負との相性が最高に近い。これで先手を譲ってくれれば一撃で決められるはずだ……。
両腕をだらんと下げたまま自然体だった隊長が、僕のオーラを見るなり腰を少し落とし、戦闘態勢を取ってきた。
(まさか……先手を譲ってくれないのか。)
(こやつ……構えに無駄がない。それにこのオーラ。無属性魔法の使い手か。先程の奴とは違う。こやつ……素人のカンチョー使いではないな。)
ニタァ。隊長の表情が恐ろしい笑顔になる。ダメだ。先手を譲ってくれそうにはない。即座に自身の周囲にもオーラを展開し、『幻分身』が来ても対応できるようにする。
『笑っています。隊長が笑っております!! カーネスさん、これは一体どういったことでしょうか?!』
『噂では聞いたことがあります。隊長は相手が強ければ強いほど表情が豊かになっていくと。マコト選手は相当カンチョーが強いのかもしれません。見て下さい。先程の戦いを見たにも関わらず、両手ではなく、左手だけのカンチョー態勢です。その姿はまるで観音菩薩。今宵、私達は伝説の戦いの目撃者となるのかもしれません。』
「幻分身突き」
周囲に展開していたオーラに反応がある。後ろか……隊長の分身による電光石火の1撃。それをオーラを込めた右肘で容赦なく撃つ。
よし! 貰った!!
隊長の分身の両手はボロボロになるもその原型を留めている――馬鹿な!
1日に3回しか使えない必殺技を使用したのに……両手を破壊する事ができないだと?!
勝利の方程式は崩れた。これは気を引き締めないとマズイ。
その時、何処からか笛の音が聞こえた。
「ピピィィーーーーーーーーーーー!!」
『おおっと。いけません。マコト選手。反則を取られてしまったぁぁ。これはペナルティカンチョーです!!』
『明らかにカンチョー以外の攻撃でしたからね。これは反則を取られても仕方ないでしょう。』
「いやいやいや、そんなルール知らないから!」
----冗談じゃない。なんだペナルティーカンチョーって。嫌な予感しかしないわ! 大体隊長が説明しないのが悪いんじゃないか。
『いえ、攻撃はカンチョーのみと隊長が最初に説明しておりました。此処にいる皆さんが証言者です。』
『見苦しい言い訳ですね。明らかにカンチョー素人を装った反則技でしたね。』
「やだやだ絶対ヤダ!! ペナルティカンチョーなんて初めて知ったし。」
『五月蠅ぇ!! 男らしくねぇぞ!!!!』
『そうだそうだ!! 素直にペネルティカンチョーを受けろ!!』
『あぁ!! 隊長の手がぁぁああああ!!!!!!』
「ふっ。生涯カンチョー魔法以外を使用しない。カンチョーによる怪我は回復を受けない。この2つを条件にカンチョー神と契約し、大幅に増強した俺の両手を此処までにするとは。凄い奴だよお前は。いいだろう。もしペナルティカンチョーを受け切れば貴様の勝利としようじゃないか。」
……カンチョー神って誰だよ。分身に攻撃しても本体にダメージいくのかよ。
『ペネルティカンチョーの説明をさせて頂きます。まず、マコト選手にはケツ筋を固めて頂きます。次に、お尻と指の距離をほぼ零距離にした状態で隊長が構えを取ります。笛が鳴ってから3秒以内にカンチョーです!!』
『助走をつけられない分だけ威力は落ちますが、隊長には『1cmの悪夢』がありますからね。まだ勝負はわかりませんよ。』
『それでは、マコト選手、ケツ筋を固めて下さい!!』
『隊長の両手も満身創痍です。やはりここは『1cmの悪夢』で決めにくるでしょう。』
隊長は両手を組まず、右手だけを前に出し、人差し指のみを伸ばす。他の指を半分ほど握った態勢で構えを取る。
『おおとこれはぁぁ!! 隊長まさかの片手でのカンチョー体勢だぁぁ!! 初めて見る構えですがこれが1cmの悪夢ですかカーネスさん??』
『あの構え……まさか伝説の?! いけない。隊長は究極奥義を放つつもりですよ!!』
(マコトと言ったか? 喰らうがいい。カンチョー流最終奥義を!! それにしても何年振りだ……この技を使うのは……)
次回、なぜか元カンチョー隊1番隊隊長、武田三日月の過去回想へ。




