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五芒星の血印  作者: 亮
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陰陽師・蘆屋道満

 都を見下ろす高い山の山頂に、山中とは思えないほどにきれいな城の狩衣を纏った青年が、立っている。

「陰陽庁もようやく本格的に動き始めたようだな」

 青年――もとい蘆屋道満の言葉に、背後の何もない空間から声がする。

「はい。確認はとれていませんが、賀茂家や安倍家が水面下で動いているようです」

「まあそうだろうな。並みの陰陽師では私は追えない」

 それにしても、と、道満は賀茂忠成の屋敷に侵入した時のことを思い出す。

 本来であれば、誰にも見つからずに英姫の部屋を探し出すつもりであった。ところが、庭にいた少年にちょっかいを出したことで騒ぎが大きくなって、結局目的を果たせずに撤退することになった。

 声をかけた理由はただ一つだ。少年が『安倍』の名前を出したから、そしてその額に安倍家の象徴である五芒星を認めたからである。本人は隠すようなしぐさを見せていたが、道満はその印をはっきりと見ていた。

「安倍か。忌々しい名前だな」

 かつて道満は今も安倍家、ひいては陰陽界の頂点に位置する陰陽師の一人であり、当時は宮仕えをして、帝の縁戚の藤原にも懇意にされていた陰陽師である安倍清明と数知れぬ術比べを行った。

 当時、道満は陰陽庁に使える官だった。生家は決して格の高くない貴族だったが、陰陽庁に入ってからはそのたぐいまれなる術の才能で異例の出世を遂げた。が、そこで彼がぶつかったのが、名家安倍家の嫡男であり、道満同様天賦の才を持った陰陽師安倍清明であったのだ。

「忌々しい名とは。ずいぶんな言いようだな、道満」

 道満の背後、今まで姿を消した式神がいたはずの空間から、突然聞きなれない声が響いた。いや、正確には何度も聞いたことがある。ただそれはもう何十年も前の話だ。

「私に陰陽庁を追い出されたことを逆恨みしているのか? だとすればそれは筋違いというものだ。あれは当時の陰陽師の総意だ」

 背後から聞こえる声に、道満は警戒ながらもゆっくりと体を向ける。果たして、そこに立っていたのは、過去に何度も術を比べた、多少老けていようとも見間違うはずもない顔だった。

「清明……」

「何年振りか。お前が姿をくらませてから、いたって平和だったからな。よく覚えていない」

 狩衣に烏帽子。陰陽庁の正規の衣装であるが、清明はもはや参内の必要すらない、半ば神格化されかけている陰陽師だ。

「私と会うためだけにここへきたのか」

「ああ。久しい好敵手が騒ぎを起こしていると聞いてな」

「騒ぎにするつもりはなかったのだが」

「おかげでお前が何かよからぬことを企んでるというのが、屋敷にいる私にまで聞こえたのだ。私としてはありがたい」

 やはり、ただ話をしに来たというわけではなさそうだ。道満は体の後ろに手をまわして、清明の死角で術を練る。

「……賀茂の屋敷で、安部の者らしき少年を見た。あれはいったい何者だ」

「ああ、もう見つけたのか。忠成君ももう少しやってくれると思っていたが」

「答えになっていない」

「知っての通り、陰陽師というのは君のような例外を除けば基本的にいくつかの家系のものが牛耳っている、不透明な組織だ。その中核にある安倍や賀茂が秘密の一つや二つ持っていても不思議ではない」

 知ってか知らずか、清明の出した陰陽師の名家の話は、傍流の偏見を受けながらのし上がった道満にとって、挑発ともいえる話題だった。

「やはりお前は変わっていないな」

 道満はいきなり右手を前に突き出す。周囲の五行をかき集めて作り出した火柱が、水平に伸びてあっという間に清明の姿を呑み込んだ。

 しかし、清明は一切意に介することもない。

「変わらないのは君もだ。相変わらず苛烈だな」

 静かな言葉を残して、清明の姿が掻き消えた。後に残ったのは焦げ目の残る、白い紙を切り取って作ったと思われる人型だけだった。

「!……式神か」

 霊力の高さや天性の才能によってあらゆる陰陽術を操るといわれた安倍晴明だが、その中でも式神の扱いには特別長けていたといわれる。彼にとって自身の霊力を放出している、自分そっくりの式神を作って遠隔操作するなど、朝飯前なのだろう。

「やはり計画の最大の障害はあの男か」

 道満は清明が現れた時以上に顔をしかめた。




 同刻、都でも有数の大屋敷である安倍本家の屋敷。

「姿を変える術に、霊力の漏れを一切防ぐことのできる特殊結界、加えて規格外の五行符。よくもこれだけ開発したものだな」

「彼は天才ですからね。これは私も認めるところです。ただ、その才能の使い方に少々問題がある」

「やはり彼が何か企んでいるとすれば」

「私も出陣しなければならないのかもしれませんね」

「しかもその計画の一端が私の一人娘の強奪と来た」

「兄弟子の頼みですからね、私もできる限りの協力をするつもりです」

 清明と忠成は、つい先ほどまで蘆屋道満の姿を映していた鏡を挟んで顔を見合わせた。


読んでいただきありがとうございます

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