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五芒星の血印  作者: 亮
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忠成対道満

「忠成……あの清明の兄弟子と聞くが」

「合ってる。俺の親父のもとで陰陽術を学んでいたころの話だがな」 

 先ほどとは違う二人がにらみ合う。

「……ずいぶんと派手な登場だったが、お前、本体じゃないな」

「いかにも。私はあくまでも主の姿を借りているだけの式である」

 式、とは、陰陽師が使役するもの全般を指す言葉で、そのうち高度な五行の組成を持つものを『式神』という。一方で札を核にして形だけを模倣したようなものを単純に『式』と呼ぶこともある。

「しかし、お前に対する時間稼ぎ程度ならば十分だ」

「ほざけ」

 忠成の式の挑発にあえて乗る。

 また火行符。そしてそれとほぼ同時に背後の鬼が拳を振り上げる。

「高明じゃないんだから。その程度で殺れると思うな」

 最小限の動きだった。足元に土行符を落とすと同時にそれを踏みつける。

 途端に炎を受け止めてなおひび一つ見せない頑強な土壁がせりあがり、術者を守る。

「ふんっ」

 同時に土壁とは逆方向に金行符を投擲。鬼の鼻先をかすめて動きを止めさせた。

「高明、日月は」

「あいつにやられて、まだ起きられないようですが……忠成殿は知っていたのですか」

「何を」

「日月がここまでの戦闘能力を持っている、普通ではない少女だと」

「……まあ、そうだな。知っていた。知っていて、この家に置いていた」

 自分がこの家で、記憶を失った状態で目を覚ました時から、不思議な奴だとは思っていた。しかし、どうやら以前から自分の事を知っているようだったので、記憶を失う前も同じような関係だったのだろうとあたりをつけていた。それでも、ここ数日で見せられた日月の剣技は、貴族を警護しているという屈強な男たちにも見劣りしない、見事なものだった。

 高明は、もはや人ではないのかとすら思っている。

「詳しい話はあとにしよう。今は道満だ」

「はい」

 土壁が崩れるようにして土くれに帰っていく。土行符に込められた土行が底をつき、土壁を保っていられなくなったのだ。

「うっ……くう……」

 日月も脇腹を抑え、うめき声をあげながらも立ち上がった。

「日月、まだいけるか」

「ああ、忠成殿。さすが名家。重役出勤ですね……。そうですね、万全とはいきませんがまだいけると思います」

「今の陰陽庁は手が足りておらんのだ。許せ」

「はいはい、わかりました。高明殿、私たちは鬼の足止めです。行きますよ」

 言うが早いか、日月は地面を蹴って飛び出した。

「ちょっと」

 高明も慌ててそれに続くように攻撃補助用の金行符を取り出した。

 それに遅れること数瞬、忠成も札を抜くと道満へと攻勢をかけた。

 本物の忠成はここにはおらず、あくまでここに見えている忠成は、本体とある程度のつながりを持った式でしかない。しかし、それでも放たれた攻撃は高明とは比べ物にならないような強力な炎弾だった。

「やはり攻撃といえばこれに限る」

「古来より戦においても火というのは攻勢の際には重要とされてきたのだからな。その感性は認める」

 忠成への当てつけだろう。道満は先ほど忠成がやったように土壁を出現させてこれをはじいた。

 しかし忠成は気にも留めない。突然に走り出すと、土壁の向こうにいる道満めがけて一気に距離を詰めた。

「甘い」

 道満の目の前の土壁から、さらに水平に土柱が伸びる。先ほど日月を倒した技だ。

「ふん」

 忠成はそれをよけようともしない。代わりに土柱と自分の間に構えた水行符を解放した。

 どんっという重厚な音と共に土壁にひびが入る。そしてそのまま鉄砲水のごとくその奥にいる道満に襲い掛かる

 いかに道満と言えど、人間の枠を外れているわけではない。これをまともに食らえば圧殺は免れないだろう。

 がしかし、道満はこれに対して逃げも隠れもしなかった。

 何枚もの火行符を手に広げて、指向性を曖昧にしながら、自分の前にばらまいた。

「我が命に応じよ、急急如律令」

途端、符は道満を守る炎を盾となった。水がそれに触れる傍から湯気となって消えていく。やがて水はまるで道満の立っているところを避けて通るかのように後方へと流れていった。

後に残ったのは濛々と立ち込める湯気だけである。これではお互いの姿どころか、位置すらもつかめない。

しかし道満はその顔に冷徹な笑みを浮かべた。

「……ずいぶんと手間取ったが、遊びはもう終わりだ。忠成本人ならいざ知らず、式を送り付けるなどというなめた真似をしたことを後悔するがよい」

 取り出したのは一枚の符。しかしそこに書かれているのは五行を封じるための文言ではない。いや、正確には五行を封じる文言が書かれているのだが、その意味を彼自身以外は誰も理解しない。

「終わりだ、忠成。そして都よ」


読んでいただきありがとうございます

時がたつのは早いもので、九月の終わりまであると思っていた夏休みもあとわずかになってしまいました。早すぎて先週の更新をすっぽかしてしまうほどです。……御免なさい、曜日感覚を無くした上に昼夜半逆転の生活を送っていたために何日前に最後の更新をしたかすら忘れてました。

そんなわけで今週の更新です。

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