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五芒星の血印  作者: 亮
14/23

清明はかく語りき

二週間ぶりの定時投稿ですね

ようやく余裕ができました

これから物語も佳境に入っていくので、ぜひ読み続けていただければと思います


 都は、民衆には隠す形で着々と戦闘態勢に入っていた。

 陰陽庁の威信にかけて陰陽術師 蘆屋道満をとらえるのも大きな目的ではあるが、それ以上に陰陽庁はこの事態を重く受け止めていた。

 これまでにも道満のような陰陽庁に属さない陰陽術師などが、都の政府、つまり帝にたてつくような動きを見せたことは何度もあった。それを何度も鎮圧してきた歴戦の部署というのが陰陽庁なのである。しかし、それだからこそ、彼らは今回の道満の動きをひどく警戒していた。

これまで、政治の中心である内裏に対する直接攻撃や陰気を大量に生み出して、妖を作り出したり呼び寄せたりするような攻撃は幾度もあった。しかし、今回の道満は賀茂家の娘である英姫を狙っている。この意図を陰陽庁中枢は測りかねているのだ。

「まあ、英姫様を誘拐し、『聖女」である彼女を利用した『何か』を起こすつもりだと考えるのが普通でしょうね」

 清明は脇に置いた箱の中から、鏡や六壬式盤と呼ばれる道具を取り出しながら、つぶやいた。

「まさしくその通りというわけだ。そこの意見を聞きたくてこうしてお前を訪ねてきたわけだが、どうだ?」

「急かさないでください、忠成殿。それを探るために準備しているのですから」

 清明の前には様々な占い道具が並んでいる。

 陰陽師とは、今のような有事でこそ陰陽術を必要とする戦いに駆り出されるが、平時は主に天体の動きから物事の吉凶を占ったり、都周辺の霊脈の動きから災害を予測したりするのが仕事なのである。そのために高位である清明や忠成は参内しなくとも、吉凶の報告をすることで陰陽師としての役割を十分に果たしているのだ。

 そして陰陽師としては最高峰の実力者の一人である清明の占いの精度は、参内している陰陽師たちとは格が違うのだ。

 その能力にあやかろうと、陰陽庁に参内した忠成は即座に踵を返してこの弟弟子のもとに足を運んだのだ。

 占いを始めてからものの数分で、彼の前の鏡には都と思われる五行の集団と、その周りを流れる霊脈が写し出された。

「さすがは当代随一の陰陽師。仕事が早い」

「おだてないでください。それよりも、これを」

 清明は鏡を手に取ると、正面に座る忠成にも見えるように差し出した。

「ほう、これは」

 そこに写っているのは、都の周りを弧を描いて流れる霊脈であった。

「このような霊脈は今まで見たことがありません。おそらく人為的なものだと思います」

「霊脈の上には山や大河もある。霊脈が浮き出てくるこういう場所を使えば、強大な術を使えるかもしれんな」

「厄介なのは霊脈が都の周りをまわるように組み替えられている点ですね。これでは敵の拠点はどこになるのか見当もつかない。相手もこちらに私がいるということをわかったうえで撹乱しに来ていますね」

「ありそうな場所をしらみつぶしにかかってもいいが、相手はあの道満だからな」

「生半可な戦力では返り討ちが関の山でしょう。かといって都の人員をそこまで多く裂くわけにいきません」

 ふむ、と歴戦の陰陽師二人は腕を組んで考え込んだ。陰陽師は特殊な官僚ゆえに、少数精鋭のような形をとっている。人員を分けて多数の候補地に攻撃をかけていては都や英姫のいる忠成邸の防御が薄くなる。

「しかし、英姫様が標的になっているということ自体が、我々を混乱させるための嘘という可能性もあります。陰陽庁も道満の狙いが英姫であるということには首をひねっているようですし」

「英は私が守り抜いてきた一人娘。しかし『聖女』の体質があるだけで霊力が特段強いというわけでもない。確かに五行の内包量は常人の比ではないがな」

「もしかしたら彼女を使って特殊な術式を発動させるつもりかもしれませんが、それならわざわざ忠成殿の娘なんて狙わなくても、陰気の寄りにくい神社で巫女をやっている人も多いのだからそっちを狙った方が楽だろう」

 『聖女』は、英姫のように陰陽師の家にのみ生まれる者ではない。英姫は父親が陰陽師だったために家の奥に、文字通り箱入り娘として育てられていたわけだが、民衆の家などに生まれてしまった『聖女』は多くの場合、内包した五行を求めて集まる妖の餌食となる。運よく助かったものは、陰気を寄せ付けないいわば『聖域』である寺や神社に尼や巫女として入ることがほとんどなのである。

「……とにかく今は彼を捕える策を考えましょう。何が目的であれ、彼を捕えるのが最終目標です」

 そういって清明は目の前の道具類をかき分けて立ち上がった。

「おや、大陰陽師殿が重い腰を上げますか」

「兄弟子にそういわれると皮肉にしか聞こえませんよ」

「皮肉じゃないさ。お前がいてくれれば百人力だ」

 はあ、とため息をつきながら、清明はわざとらしき肩をすくめた。

「私も一応は陰陽庁勤務ですからね」

 それに、と清明は意味深に続ける。

 英姫様も心配ですが、あなたに預けた高明も心配の種ですからね。


読んでいただきありがとうございます

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