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心の在り処

作者: 吉留 小百合

大切な人がいる方、八方美人な自分が嫌になるかたは是非読んでみてください。

心ここに在らずして。

いつも周囲に合わせ誰とでも仲良くし誰からも嫌われたくないあたしは究極の八方美人。周りの気持ち、行動に合わせていつも自分を守ってきたあたしは、あたしじゃない。〝誰か”だ。誰にも嫌われたくないあたしはその〝誰か”に嫌われている。〝自分”という人間を持っていない〝誰か”に。

そんな生き方に疲れるから誰かは一人の時間が好き。独りの時間ではなく一人の時間が。


家はお父さんが自営業をしていて、そのせいか昔からおじいちゃん、おばあちゃんと話す機会が多くて老人が大好き。お母さんがパートしてて、あたし達が小さいときは家で内職してたけど、みんな学生になったころからか外でパートしてる。お父さんとお母さんはたまに喧嘩もするみたいだけどいつも楽しそうに笑ってて仲はいいと思う。あとは年金暮らしの少し耳の遠いおばあちゃん、お兄とお姉がいる。あたしは末っ子。お兄はチャラ男で家族のムードメーカーみたいな感じ。お兄がいると家の温度がたぶん2度くらい上がる。お姉は友達は多く作らない人だけど、優しくて、しっかりしてる。たまに無理してないか心配なるけど、弱音は絶対吐かない。ほんとに普通の家族だ。自分でいうのもなんだけど、多分3人兄弟の中であたしが一番普通。チャラいわけでもないし、暗いわけでもない。クラスの子とも仲いいし、成績だってまあ中の下くらいかな。


小さいころ自分を持っているというよりかは感情のままに生きて、家族が大好きで、毎日が幸せだった。


いつからだろう。だんだん生きづらくなってきた。毎日、毎日、周りに合わせるたびに自分がいなくなって、しぜんでいいんだ、と思っても30年間〝誰か”で生きてきたあたしはなかなか〝自分”には心を許してもらえない。『今まで〝誰か”に頼ってきて今更頼ってきてもだめだよ。だから前に言ったんだ。あたしの気持ちは?ほんとはどうしたの?ほんとは離れたくないんでしょ?後悔しても知らないよってね』。ほんとだ。あたしはここに居たかったんだ。ここにあったんだ。ここに置いておくべきだったんだ。


「なあ、あいつの足見た?何あれ?」「ほんとだ!やばくない?」「俺あいつのこと好きだったけどあれはないわー」


中学校3年生の夏、あたしは部活帰りに飲酒運転の車にぶつかられて左足を失った。部活でもそれなり成績を残して、高校も推薦で決まっていたのに、推薦はなくなり、男子からは後ろ指でさされて罵声を浴びせられるようになった。田舎だし世間が狭いせいか、義足になると一気に学校、町内中に広がる。

「あんなん気にしなくていいよ。男子なんでバカだしすぐ飽きるよ」

「全然気にしてないよ。大丈夫大丈夫」とあたしは笑う。嘘。ほんとはつらかった。明るい性格で誰とでも仲良くして、男子からも女子からも好かれて生きてきたあたしには、悪口を言われるなんで、つらかった。

この時からあたしは男子が嫌いになった。少し前までは好き好き言ってた奴が、見た目が少し変わったとたん態度が変わって。一人リーダーみたいなやつがそういうと周りも影響してすぐ言い出す。ほんとにうんざりだった。だからあたしは高校では女子高にいった。始めはうしろゆびを指す人もいたけど、男子に嫌われるより女子に嫌われる方が絶対やばいと思って、もう義足をネタにして、友達を作るしかなかった。辛くても、自分の辛い気持ちより、周りに心配かけたり、同情されたりする方が嫌で、いつも自分の本当の気持ちには気づかないようにしていた。家に帰れば大好きな家族が優しく迎えてくれる。そんな家族に自分がつらい思いしてるなんて言ったらきっと家族はつらい思いをしてしまう。家でも足を失う前と同じように笑っていることしかできなかった。


それでも、あたしに同情なしで、寄り添ってくれる人がいた。同じバスケ部だったことや、彼も怪我でバスケができなくなってしまったこと、その時にはあたしがいつもそばにいたこともあって、仲がよかった。いわゆるイイ感じの人。彼は友達はいるけど、一人でいることも多くて、自分をしっかり持ってる人だった。あたしに取ったらすごくうらやましくてかっこよく見えた。彼とは中3の冬に付き合うことになった。

「ねえ。あたしといるとほかの男子になんか言われるよ」

「そんなん気にしてたら一緒にいれないでしょ。てか、義足なっただけでしょ。」

「なっただけって!結構問題だけど」

「俺にとってはなっただけなの。俺はお前の足に惚れたわけじゃないし」

ここちよかった。なんでも言ってくれて、いつもそばにいてくれて。

彼との時間はほんとに気持ちがよくて、心が軽くなった。一緒に家まで帰ったり、晴れた日には外を一緒に散歩したり、家でDVD見たり。特別何をするってわけじゃないけど、ただ二人で過ごした。こんな風にずっと一緒に入れればいいなーって思ってた。彼といるときだけ、自分の心がここにある気がした。

彼と付き合って3年目の冬。高3の時だった。中学の頃の担任が定年退職するってことでみんなで中学校に行くことになった。


「おい、あいつらまだつきあってんの?」

「てかあいつ何回うちらにやられたら気済むの?」


中学の時あたしに罵声を浴びせてきてた奴の声だ。この声を聞くだけで嫌気がさす。てかやられたらってなんの話よ。

「よう、お前何回別れろって言えばわかんの?」

「お前こそ、何回別れないって言ったらわかんの?」

そういえば、彼と、罵声男は高校が一緒だ。よくよく聞けば彼はあたしと付き合ってるせいで高校で省かれるらしい。胸が痛くなった。あたしのせいで彼はつらい思いをしてたんだ。いつも優しく寄り添ってくれる彼は、あたしの知らないところで傷ついてたんだ。


その日の夜は彼と付き合って初めて喧嘩した。

なぜ省られていることを言ってくれなかったのか、つらい気持ちを一人で背負ったのか。あたしはそれが嫌だった。お互いつらいとき、支え合ってきたしこれからもそうしていけると思ってた。それなのに。

心配をかけたくない気持ちはわかる。けど、寂しかった。気づけなかった自分が情けなかった。そういえば高校に入ってから彼が友達と遊ぶというのを聞いた時がなかった。あたしを会ってない日もあったからそうゆう日に遊んでるんだとおもってたけど、そんな安易な考えをした自分が恥ずかしい。

彼はひたすら謝ってた。元々友達とつるむタイプでもないし省られたりしてもそんなにきにしなかったと言う。けどあたしは自分が許せなかった。たった一回の喧嘩であたしは彼を振ってしまった。このままあたしと付き合っていても、彼の人生をあたしだけのために生きるようなことをしてほしくない。こんな素敵な人につらい思いをしてほしくない。もっと世界を広げて欲しい。そう思った。彼は必死に別れたくないと言っていたが、この時はもう自分のことしか考えないで一緒に過ごしていた自分が申し訳なさ過ぎて別れるという方法しか取れなかった。


彼と別れてからというもの、あたしは案外普通に過ごしていた。周りの合わせて笑っていればそれなりに上手に生きていける。だから大丈夫。彼とは連絡を取ったりもしたけど、よりを戻すとか、そんな会話はしなかった。また戻れば彼はいじめにあってしまうかもしれない、そう思うと、いくら好きでも戻りたいなんていえなかった。それに、彼を大切とは思うが、心が依存してしまっている気がして、そんなんじゃ自分がどんどんダメになるきがした。だからと言って、相変わらずなんだけど。


そうしてるうちの彼は就職、あたしは看護師の専門学校に行くようになった。

そこであたしは優しくてイケメンの彼氏ができた。すき、とかではないけど、優しいし、周りに彼氏ですって言っても恥ずかしくないようなひとだったから付き合っただけ。って言ったら失礼だけど、ほんとそんな感じ。こんなところまで八方美人な自分が嫌になるよね。でも彼氏といる時間が苦なわけではなくて、それなりに相手のペースに合わせながらうまく付き合ってはいた。

彼氏ができてからも彼とは連絡を取って、何度かあったりもしていた。会うって言っても他愛もない話しをすうだけ。彼氏ができて思ったのは、あたしは彼が好きだってこと。やっぱり彼じゃなきゃダメだってこと。彼氏のことは考える時間がないけど、彼のことを思う時間がいまだにあるってこと。彼のことを考えると、こころがポカポカする感じ。井戸に沈めていた感情がよみがえってきて、井戸でいっぱい泥や傷をつけたあたしの心はあたしでも、彼氏でも家族でも持てなくて、やっぱり彼が持ってくれて、〝またこんなにボロボロにしてー”と笑いながら泥や傷を簡単にふきとって純粋な水だけにしてくれる。そしてその井戸で冷えきった水をしっかり温めてあたしにかえしてくれる。心地いい。やっぱり彼がすき。


あたしの心はここにあるんだなー。ここに置いておいてもきっと彼は優しく持っていてくれて「お前なら大丈夫。そのままでいればいいんだよ」ってそっとこころをあたしに還元してくれるんだと思う。


それでもあたしを大切にしてくれている彼氏を今さら裏切ることもできない。あたしはこんな時は決まって〝誰か”になっていい彼女演じてるんだ。


いつも通り彼から連絡きていつも通り会う約束をしてた。その日はドライブをした。

いつもなら学生の時に付き合ってた時みたいに家の裏の草原とか川適当に散歩してたんだけど。まあ就職してるしドライブもあるのか、と思いながら会話していた。けどどことなく彼の様子が変な気がした。

「俺さ、中・高ってお前と付き合ってきて、すごい幸せだったんだ。高校の時確かに省られてたりもしたけど、お前いればいいし、つらいって思ったことなかったし、高校卒業したら、俺就職するし、少しお金溜まったら、同棲して、お前が専門学校卒業して仕事なれたら結婚して、子供産んで、お前んちみたいなあったかい家庭作っていけたらって。それが俺の夢だった。ほら、俺んち離婚してるし、お前んち、すごい理想の家族だったんだよな。けど、俺、もうお前とこうやって会うことできない。俺、結婚することなった」

前に彼女ができたって聞いた。その時すごい嫌だった。けど、祝福することがお互いのためだと思った。だから、別れて、とも、よりを戻そうとも言えなかった。けど、どこかで、自分たちはずっとこうして分かり合って、寄り添って、いつか結局過ごせる日がくるなんて思ってた。あたしは何も言えなかった。彼は続ける。

「彼女んちのおやじさんさ、癌なんだって。花嫁姿みたいんだって、俺にすごい言ってきて。おれ、お前のことあきらめきれなかった。けど、もう戻れるとも思えなかった。お前、今幸せか?俺はお前が幸せならそれでいいんだ。今までありがとな」と。

なんだろう、この心がえぐられる感じは。今まで感じたことのないこの喪失感。

ああ。そうだ、あたしのこころは彼と同じところにあったんだ。彼もきっと今、こんな感じなんだ。きっといろんな葛藤をして、決断したんだ。最後まで、あたしは彼に迷惑をかけた。

彼があたしを大切に思ってくれてるのはすごくわかってたし、彼もきっとあたしに大切だと思われてるのは知ってたと思う。それでも戻れないから、もう無理っておもったんだよねきっと。

「たかはそれで幸せ?」

「・・・ごめんな。けど、もう後戻りできないんだ」

その日あたし達は初めてキスをした。付き合ってた時ははずかしくて手もつなげなかったのに。もう、触れたくて仕方なかった。

「今までありがとう。俺は、お前といるときだけ自分らしくいれたよ」

もう言葉は出なかった。彼もあたしと同じだったんだ。

今まであたしが彼といたときに感じていたあの心があったかくなる感覚。彼も感じていてくれたのかもしれない。きっとあたし達はお互いにとって必要な存在だったのに、お互いにお互いを思い過ぎていたんだ。

ほんとにありがとう。あたしはあなたがいたから自分を知れたよ。きっとあたしはこれからまた〝だれか”になるんだと思う。また大切なものは失ってからしか気づけないかもしれない。けど、あたしの心はあなたを思うことでいつでもまたよみがえるんだ。いつでも。心はここにあるんだ。


読んでくださった方ありがとうございます。

内容は本当のことが半分、人物がばれないよう内容は少し変えているので完全なるノンフィクションではありませんが、実際経験した感情です。共感してくれたり、これからの人生公開しないよう、大切な人をしっかり大切にしてあげてください。

反響良ければしっかり小説として書きたいと思ってます。

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