1.脱出前夜
君は、君でなければならない。
そして、君は君にならなければならない。
その声を君は自分の心の内側から、抑えきれない衝動として感じたことはあるだろうか。
反抗期というものがある。
これは、人が、己の魂を確立するうえで非常に大切だ。
何か偉大な物事を成し遂げようと思えば、
「出エジプト」
「脱藩」
を人はしなければならない。
親子関係、
学校、
国の支配、被支配関係、
宗教の教義や締め付けに対する反発
会社からの独立
親という強大な道徳と、正義と、力の庇護と、支配の傘下にあった子が、
それに、戸惑いと反発を感じて、
本来自分のいるべき場所を探し求める。
もはや、
子は、従順ではありえない。
従順のままであれば、彼の魂は、その肥沃な地で、腐り果てやがて死んでしまうから。
親や、
「クニ」は、
反発の芽を見つけるや否や、君を押さえつけようとする。
愛のない、すなわち「人に迷惑をかけないためだけの」無難な、クソくだらない道徳やモラルが、
君にふりかかる。
あらゆる正論やきれいな話の目的はただ一つ。
「この国にとどまれ」
ということ。
周りに誰も味方はいない。
君の苦しみをわかり、癒してくれるものは誰一人としていない。
誰一人叫ぶ勇気もないのだ。
同じように苦しんでいる人もいるが、もはやこの国から逃れられないことを観念して、何人かでこっそり集まって、暗い顔で愚痴を言っているにすぎない。
叫び、行動すれば、
君は、
「異常者」「犯罪者」「悪魔の手先」などの烙印を押され、抹殺されることが分かっているから。
しかし、遠くに「出エジプト」を成し遂げた人の知らせが続々と入ってくる。
「このままでいいのか」
という激しい情熱と、
そして恐れとが、
君の心を揺り動かす。
それでも、君は、クニを出る。
クニの人々のやさしさを振り切り、
正論を振り切り、
道徳を振り切り、
王のののしりと、迫害を振り切り、
たった一人、
君は砂漠に出る。
争いはおこるだろう。
君はついに、
神への反逆者とみなされ、
「異常者」や「悪魔」の烙印をおされる。
けれども、
君の眼は輝いている。
君の心は、
恐れとともに、
高ぶり、
そして、「やるぞ!」という気概の炎に燃えている。