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由野視点です。
初めて会ったのは、そう、入試2日目。きっと友利は覚えていないだろう。俺は苦手科目が集中していたためか、緊張のあまり体調が芳しくなかった。
(頭痛い………ふらふらする………)
俺は昨晩の一夜漬けを恨まずにいられない。
(気のせいか腹まで痛い………)
冷や汗をかきながら一科目目を終えて、トイレに駆け込んだ。……実際はそんなスピード出てねぇけど。亀だったけど。
そんな時、彼は俺に声をかけた。
「お腹痛いの?君、だったらオレ、薬持ってるよ」
そう言ってなんだかよく分からない錠剤を出してくる。緊張と寝不足には何の薬がいいんだっけ……。
「ありがたいけど、たぶんそれじゃないと思う、薬。」
「そっか……緊張?」
「……緊張と、、寝不足」
「……じゃあ」
そう言って彼はカイロを出した。
「はいっ。緊張した時は手が冷たいから、カイロ、持ってるといいよ。それあげる!」
そう言って彼は笑顔でカイロを差し出した。
「…あ、ありがとう」
「じゃ、頑張ろうね!!」
彼は、何を、とは言わなかった。俺にはそれが救いで、もうあと一科目だけだから、と、カイロを手に再び机に向かった。
(あぁ、可愛いやつだったなぁ、)
少し明るめの髪も、くしゃっと微笑む顔も、カイロを差し出す手も、頭から離れなかった。
(俺、この高校受かって絶対彼にまた会おう……)
そう決意して、由野は受験を終えたのだった。
それから春休みの間、由野は自分を変えた。長くて野暮ったい髪を切って、黒髪を軽く流す。
無表情なのは……変えられなかった。ただ、入試の彼ーー友利の事を考えると、顔がにやけた。
服も買いなおし、とにかく運動して体力と筋肉を付けた。ひょろひょろだった体は、すらっとした綺麗な肉体美へと生まれ変わった。
友利がもし頼ってきたら、なんて考えながら勉強にも力を入れた。一学期までの予習を1通りした。
今までの自分には有り得なかった。恋は人を変える。
そう実感した少し早い春だった。




