貝付きタコの味
「あ、先週からおばあちゃんに会いに兵庫に来てるだけどね、今日はねぇ、パパとトモユキくんが魚釣りに行って、大漁だったから今から宴会なの」
今からとか言いつつ、すでにご機嫌な母からの国際電話だ。トモユキくんとは母の兄、つまり我が伯父だが、海釣り川釣りを問わずその腕前は漁師顔負け、子供時代には雀を空気銃で仕留めてオヤツにし、そして今でも生きた蜂の子をそのまま食するような野生のヒトでもある。
「へえ、なんかイイモノ釣れたの?」
「うん。ヒラメとねぇ、クロダイとねぇ、あと貝のついたタコみたいなやつ」
「貝のついたタコ……?!」
「うん、すごい綺麗な白くて薄い、ペッタンコの巻貝っぽい貝の中に入ってるの。不思議なのよ〜、その辺で拾った貝殻に棲みついたのかしら? ふわふわ漂ってて、網に引っ掛かったんだって。変なタコね」
「ちーがーうー」
母の言う貝付きタコとはいわゆるカイダコ、つまりアオイガイのことだろう。世界中の温暖な海の表層を漂って生きるタコの一種で、石灰質を分泌する脚(腕?)を持ち、それで自分専用の殻を作る。殻が壊れたらペタペタと自分で直すのだが、器用な子は綺麗な殻を作り、ちょっと不器用な子は歪んだ殻を作ってしまう。非常にユニークでお洒落なタコさんなのだ。
トモユキ伯父の海釣りは大体日本海側で行われる。黒潮に乗ってふわふわと楽しく漂っていたところを、どうやらトモユキ伯父の網に引っ掛かったらしい。なんたる不運。それにしても九州辺りの浜辺ではアオイガイの殻が沢山拾えたりするらしいが、中身付きは滅多にないと聞く。
「それってまさか生きてたの?!」
「うん」
「えっ?! まだ生きてる?!」
「ううん。網に引っ掛かって、船の上に上げたらすぐにグッタリして死んじゃったって」
なんて残念な! 私も自然界でふわふわと生きているアオイガイくんにお会いしたかった!
「それでそのアオイガイ、どうしたの?」
「どうしたって、今頃おじちゃんが他の魚とかと一緒に料理してるんじゃない? 殻は綺麗だから、玄関に飾ってあるけど」
……そうか。見た目完全蛆虫な蜂の子でさえナマで食べるようなトモユキくんが、コレを食べずに放っておくわけがない。生きていたなら、私だったら頑張ってペット化するところだが、死んでしまったならまぁ仕方無い。それにしてもアオイガイとは一体どんな味がするのだろうか。食用として市場に流通することはまず無いので、これは滅多に無い体験だと思う。
「見た目ちょっと水っぽい感じ」などと母は言っていたが……。
後日、アオイガイはどんな味だったかドキドキしながら母にインタビューしたところ、「タコ焼きになって出てきたから、味なんてわかんなかった」という答えが返ってきた。