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犬好き vs. 猫好き

挿絵(By みてみん)


 私が子供の頃から絶対に答えることのできない質問に、「あなたは猫好きですか? 犬好きですか?」というものがある。

「両方好き」と言うと、「でも強いて選ぶなら?」などと選択を強要される。だけど私は本当に両方同じくらい好きなのだ。犬には犬の良さがあり、猫には猫の面白さがある。

 馬、鳥、アライグマに砂ネズミ。当たり前だが生き物はそれぞれ個性があり、その面白さや可愛さは比べようがない。そして私はそれぞれに等しく無限大の愛を感じつつ日々を生きている。私が無限大の愛を感じない生き物はニンゲンくらいだ。(注:ナメクジは生き物としてカウントしない。)


 私がイマイチ理解出来ないのが、「犬(猫)に噛まれた事があるから犬(猫)が怖い・嫌い」という感情だ。小学校に入ってから犬猫に噛まれたことは一度もないが、それ以前は猫にも犬にも幾度となく噛まれた。無論甘噛みや絆創膏で済むかすり傷ではなく、手に穴が開いてダラダラと流血する勢いで噛まれている。身体部品一部欠損などという事態にも陥らず、よくぞ無事に幼少期を乗り切った、と過去の自分にしみじみと驚いているが、まぁ「食事中の野良猫を撫でようとした」とか「本気で吠えている人嫌いな犬に抱きついた」とか、自分の方に噛まれる理由があったのだから仕方無い。こういった経験を積み重ねることで自然と相手の意思を読むことを学び、危機回避出来るようになるのだろう。

 しかしこれって親の性格もかなり影響していると思う。我が母は、野良猫に噛まれ、ダラダラ血を流して泣き喚く五歳児に「泣いたってしょうがないでしょ、自分が悪いんだから」と舌打ちしつつ赤チンを塗るようなヒトだ。そして翌日、私が包帯を巻いた手で再び野良猫に突撃しても、「危ないからやめなさい」とは決して言わなかった。別に彼女に確固とした教育理念があった訳ではなく、単なる放任主義。


 大学時代からの友人は大の犬好きだ。犬を飼ったことが一度も無いのに犬が好き。ちなみに日本食も好き。そんな彼女が初めて飼ったマルチーズの名前は「モチ」……理由は白いから。これでもマシな方なのだ。寿司好きな彼女は当初、マルチーズ君を「イカ」と名付けようとして、私に反対された。

 モチ君の次に彼女が飼ったのは柴犬。アメリカでは最近、柴犬が「狐に似てて可愛い」と言われて流行っている。ほんのりとキツネ色に焦げたような色合いの柴犬くんに付けられた名前は「カツ丼」……彼女のセンスには脱帽だ。

 そんな彼女は猫嫌い。別に猫に噛まれたり引っ掻かれたりした経験があるわけでもなく、そもそも猫と触れ合ったことすら殆どないのに、酷く猫を恐れる。嫌いな理由を聞くと、気持ちワルイからだと言う。

「縦長の瞳孔が不気味。出し入れ自由な爪が不気味。ザラザラの舌が不気味。鳴き声が不気味。ぶよぶよの足の裏が不気味。身体に関節がなくてグネグネした感じが不気味」

 彼女の前世に一体何があったのだろうか。


挿絵(By みてみん)


 ジェイちゃんは自分の事を犬好きだと言う。

「犬は一緒に遊べて面白いから好き。猫はなんとなくそこにいるだけで、遊びも世界観も自己完結してるからツマラナイ」

 なんて間違った認識だ! ジェイちゃんは猫を飼ったことがない。だから奴が知っている猫とは、余程ヨボヨボ又はデブデブで、動く気力も残っていない残念な個体だったに違いない。

 デブ猫と言えば、私が実際に出会った中で一番のデブは体重16キロのオス猫だ。病院内では猫は必ず専用のケージに入れて持ち運ぶこと、というルールがある。いわゆる長方形のプラスチック製で、上に取手のついているタイプのケージだ。しかし彼は太り過ぎててケージのドアから出入り出来ない。仕方無いからケージの床部分と屋根部分を分解し、まず猫くんを床部分に押し込み、上から屋根部分を被せた。床部分に入れられた猫くんの身体は、料理用の流し型に入れられたゼリーのように四角くなった。おまけに溢れた肉を挟みそうで、屋根部分を被せるのも容易ではない。

 ようやく箱詰めにされた猫くんを、だだっ広い大学病院のA病棟一階からC病棟三階まで連れて行く羽目になった私。『工事中につき、エレベーター停止中』の張り紙を見た瞬間、天にましますナニモノかに向かって激しい殺意が湧いた。


 話を戻そう。

 私は一緒に遊ぶなら、絶対に仔犬よりも仔猫の方が面白いと思う。生後六週間の仔犬は神経が未発達で、自分の足に躓いて転ぶ。更に目の焦点が未だ合わず、ぼんやりしている事が多い。それはそれで可愛いが、しかし仔猫なら生後六週間でもかなり運動神経が発達していて、まさに飛び跳ねる毛糸玉だ。取って来いもろくに出来ない仔犬と違い、仔猫は遊びのバリエーションも豊富だ。そして何より、そんなチビでも好き嫌いや意思がはっきりしているのが面白い。早熟なのだろう。そして猫にだってオトナになってもヒトと遊ぶのが好きな子もいる。

 例えば我が家のミルクくん。

「ただいま〜」と玄関を開けて私が帰って来ると、ミルクくんはどんなにぐっすりと眠っている時でも即座に飛び起きて、ササッとリビングルームのドアの陰に隠れる。そして私がドアを開けた瞬間、両前足を大きく広げて「ワッ」という感じで全身で飛び掛かってくる。そして私も「ワッ」と心臓が止まりそうなほど驚く。同じ行動を365日繰り返す猫とそれに毎回本気で驚かされる小学一年生の私。良いペアだ。

 しかし一度、ミルクくんはこれで大失敗した事がある。

 ある日のこと、友達を連れて家に帰って来た私は、彼女に先にリビングルームに行くように伝えて自分は二階の自室にランドセルを置きに行った。ミルクくんがドアの陰で待機しているであろうことなど、全く考えていなかった。そもそもそれを思い出せるようなら、毎回毎回アホのように驚かされはしない。

 友達がリビングルームのドアを開けた途端に、びっくり箱のオモチャのように飛び出したミルクくん。友達は驚きのあまり大声で泣き出し、そんな彼女の前にミルクくんは本当に困った顔でしょんぼりと項垂れて座っていた。

 この一件が黒歴史になったミルクくんは、以来私がドアを開けた途端に飛びつくような真似はしなくなった。代わりにリビングルームやキッチンの戸棚の陰に隠れ、帰って来たのが私だと確認してから飛びついて来た。


挿絵(By みてみん)

 

 ところで冒頭の「猫好き・犬好き」に関する質問だが、純粋にどちらが好きか知りたいと言うよりも、ヒトの性格判断に使われることがある。曰く、猫好きは内向的で感受性豊か、裏を返せば情緒不安定で開放的。それに対して犬好きは社交的で協調性があり、尚且つ勤勉で外出好き。


 これについては色々と思わんでもないが、とりあえず、この性格判断によると私が大の犬嫌いである事だけは確かだろう。


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