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銃と青春と〇〇と。  作者: 芳賀勢斗
3/6

【第三話】新生活

「お兄ちゃん……て、ぇ!?」


「柊……さんが、なんで? どうして?」


「?」


突然の再会。数時間前に地下鉄の駅で別れたばかりで、今この場所で会うとは思いもしなかった。

まさかエアガンショップで今日知り合った美少女と会うなんて誰が想定できると言うんだ……


「あら? 愛結火ちゃん、なんでそんなにお顔が赤いの?」にやにや


「いや、え、だって……」


俺も愛結火も何がどうなって、どうすれば良いかパニクってる真っ最中だ。


「あはは……なんか今日中にまた会っちゃったみたいだね……」


「う、うん……(どうしよう……バレちゃったよね……)」







……。……。

「へぇ~柊さん……かなり凄いんだね……」


「愛結火ちゃんは凄いのよ? 再来週の地区大会にもこの店を背負って出場してほしいくらいなのに……」


「……やっぱり引いちゃうよね……」


最初は心底驚きもした俺だったが、大きく目立つスコア表を嫌でも見つけた時にはもう、違和感と言うか……最初のような驚きは「なるほど……」と言う納得感へと変わっていた。


ルールをはっきりとは覚えていない俺でもこの店の順位表を見れば、柊さんの実力もわかると言うもので…… 思いの他、褒めたつもりが落胆したように肩を下ろしてしまった。


「いやいやいや、そんなことないって! 最近は女性シューターも増えてきているし…… さっきは突然のことで動揺しちゃっただけだから……。と言うか俺的にはエアガンに興味ある人と会えて良かったって言うか……」


「本当に……? 私、この趣味を他の人に教える勇気なくて……」


「あ~、昼間のあれはそう言うことだったの」


コクりと首を申し訳なさそうに縦に振った。


柊さんとの会話も一区切りついたところで、「ニヤリ」と言う音が聞こえた……ような気がした。


「お兄ちゃん、愛結火さんとは知り合い?てか、(彼女さん?)」ニヤリ


「んなわけないだろ!」


「どうしたの?」


「いやいや、柊さんは今日入学式で知り合ったばかりだよ」


やれやれ、どうやったら俺と柊さんが恋人同士に見えるのか……

そんなこんなで、ごちゃごちゃになった妹の体験射撃だったが、成績は見事に店内順位“下から”1位をとった。


しかし、初射撃で的にまともに当たるのは凄いらしく店員さんがしきりに勧誘してたのは伏せておこう。

と言っても当の妹もなかなかの反応みたいで、もしかしたら……何てこともあるのかもしれない。

費用も初期投資は割高だが、全体的に見れば車イジリや、ブランド集めよりも断然お財布にはやさしい。


そして何となく流れで一緒に店を出て、一緒に帰ることになったのだが……妹とはいえ女の子二人を連れて町中を歩くとか……どんな目で見られてるんだろう。


「へぇ~、海翔君は私と同じスナイパーってこと?」


「まぁ柊さんとは少し違うジャンルなんだけどね……それにまだ本番を経験してないし……」


「じゃあいつ?その本番」


「今週の日曜日に行こうって思ってるんだよね~、まだ予定だけど多分行くんじゃないかな?」


日曜日、それはサバゲーマーにとっては単に休日と言う意味ではなく、朝早くから家を出て1日中サバゲーで走り回ったり撃ちまくる日だ。


俺が初参加するその日は定例会と呼ばれるもので、フィールドがゲームを主催する一般的なゲーム形式だ。

他にも貸し切り戦とかあるが今は触れないでも良いだろう。


「サバイバルゲームかぁ~、ずっと競技ばかりしていたから全然知らないかな」


「俺もその逆、サバゲーとかしか目になかったから競技のルールは全然だよ」


「使う銃って競技と同じ?」


「いや、競技用のデリケートな銃をサバゲーで使うのはあまりやらない方が良いかも」


?、なんか考えてるのかな?

一様にエアガンが好きと言ってもここまで違うんだなぁ~


「あ、雨降りそう……」


偶然空を見上げた柊さんがポツリと呟く。

つられて俺も顔を空へ向けると、確かに夜に近づく夕方だが黒い雲がかなり濃かった。


「そう言や、天気予報でそんなこと言ってたな……地下に潜るか」














ある女子生徒が一人むなしくとぼとぼと学校をあとにしていた。

きっと学校で良くないことがあったのか、彼女の表情は誰が見ても暗い。そう……暗すぎて、まるでこの世の全てに希望をなくした……脱け殻のようだった。


近くの公園のベンチにポフッと体を預け、全身を脱力させる。


「今年もダメなのかなぁ……」


そう呟くと、ポケットから丸くぐしゃぐしゃに丸めた紙を出した。

おもむろにそれを広げると、大きなため息をひとつ……


「そりゃそうだよねぇ……どんなにおもちゃとして浸透しても、鉄砲ドンパチにはかわりないし……諦め時かなぁ」


ちょうどその時、ポツリ……またポツリと滴が顔を伝って行く。


「ふっ……傘忘れたや……。まぁいっそ……」


《サバゲーのことも雨でさっぱり流してくれないか……》


雨は次第に雨足を強め、いよいよ本降りへと変わる頃合いだった。


「よいっしょ……帰るか」


水溜まりなんか避けることもせず、本当にまっすぐ家に帰っていった。

制服は既にびしょびしょに濡れきっていて、水に浸かったように全身から水が滴る。


日本のことわざに「水の滴る良い女」とあるが、これはいささか彼女には当てはまらないだろう。








「あちゃぁ……結構降ってきちゃったね~」


久しぶりに地上に出たかと思えば、既に本降り……。

あわよくばの気分で天候には期待したが、どうやら神はそんなに甘くないらしい。


「傘持ってきてないからなぁ~ 柊さんはここから遠いの?」


「うん……どうしよう、こんなに降るって思ってなかったから……」


このまま雨の中帰るのもひとつの手だけども……

しかし、他に手がないと言うのも事実。


「では、愛結火さんにはとりあえず一旦私たちの家で雨宿りしてもらってはどうでしょう? ここで待つのも寒いし……」


「正気か? お前……」


いくらなんでも、今日知り合った友達を……しかも女子を家に招くなんて、普通にあり得ないだろ……

最後に俺の家に女の子入れたのって確か小学3年生辺りだよな……。


「えっ!? ……い、良いんですか? 迷惑じゃありません……?」


「迷惑じゃないけど…… 柊さんが構わないなら……」


ニヤリ……


その時、妹の頬が若干釣り上がったような……

そんな気がした。


「じゃあ、愛結火さんのバス代は美香が持つ! これは今日のお礼と言うことで!」


「いや、そんなぁ……」



よくよく考えたら、俺らの家もそれほど近いと言うわけでもなく、普通に帰れば良いんじゃね? と思ったが、後から聞くと柊さんはバスを降りた後もしばらく徒歩が続くらしい。

雨の中、長い距離歩かせるのも酷な話なので仕方なく妹の提案を認めることにした。


てか……母さんいるじゃん……



「うちもバスの降りたあとは数分歩くけど良い?」


「うん……(成り行きでこんな事になっちゃったけど……てか、何でなっちゃったんだろう……。嫌って言う事じゃないんだけど男の子の家に行くのは……ハッ!? 初めてなの!?)」


俺たちはバスターミナルで降りる予定で、バスターミナルはもう目と鼻の先にまで来ていた。

雨足はさっきよりはましにはなったが、まだ充分びしょびしょに濡れる位降ってる。


「ここ?」


「はいっ! 走れる距離なんで濡れる前に急ぎましょう!」


妹の美香は何を考えているのかは知らないが、とにかくノリノリだ。

そう言えば、美香が友達とかと家で遊ぶ姿はあんまり見ないな……。どっちかと言うと友達の家に行ったりとかだよな


過ぎ去るバスを背に、俺達は水溜まりが広がるアスファルトをピチャピチャと走っていく。


カバンとか背負ってると走る力が相殺されて、走りづらいったらありゃしないし、どんどん染みてくるのが結構気持ち悪い……


ちょっとした橋を渡り、遊歩道をしばらく直進。

そしたら、隣に俺の家が見えてくる。


「こ、ここなんだ……」


「はいっ! 早く入ってください♪」


柊さんは意を決したように、握りこぶしを強く胸に添えてゆっくり歩み出す。


俺の家ってそんなに覚悟するものかな……


いくら過程があろうと入学初日に、その日あった女の子を家に招き入れるって、ラノベやアニメでもなかなかお目にかかれないシチュエーションだよな……


「ただいまー!」


「お、お邪魔します……」


玄関に入るなり、スタスタと奥に走ってた美香はお母さん連れて戻ってきた。

どう思うんだろうな……


「まぁまぁ、雨すごいからねぇ~、愛結火さんだっけ、しばらくくつろいでいってね♪」


軽っ!?





とりあえず、俺の部屋に通すけど、なにすりゃ良いの?

そんなことを考えている時、美香が勢いよく扉を開けた。


「愛結火さん、お風呂入りますか? 体が冷えたら大変ですし!」


「お、お風呂!? いいよそんなに……」


時折こっちに困った顔向けるの反則……


「それに、濡れたままの服だと……」


そこまで良いかけた美香が柊さんの耳元に近づき、何か言ったらしい……


それを聞いた柊さんが、自分の服を確認する……。


あ……。


柊さんが服を確認しようと体をひねった拍子で、制服がピタッと体に張り付く。

当然そうなれば……下のものが若干見えるわけで……


「ピンク……」


白い制服がその色をさらに引き立てていた。

少しからが冷えて顔色が若干悪かったのも、今に至っては、真っ赤を通り越して、大変な事になってる。一瞬の静寂の後……


「……っ! バ、バカぁぁ~!」


絶対口にはできないけど、良いもの見れたなぁ……


「では、行きましょうぉっ! 制服は乾燥させておきますから!」


美香はやたらハイテンションで柊さんを引っ張っていった。

柊さんも渋々と言うか、仕方なしと言うようにとぼとぼとついて行く。

その時の顔は今まで見た中で、一番の紅潮した顔で、どこか恥ずかしそうに振る舞う姿が少しドキッと心響いた。


ガチャリと扉が閉められ、さっきまでの賑やかさが過ぎ去りいつもの静かな自室へと一旦戻る。

さっきの雰囲気から一気にこうなると、いくら慣れた自分でさえ、何か物足りなさとか、寂しさを感じたり……

それを受けた俺は自然と一旦頭を冷やして人息ついたあと後、ガサガサとビニール袋を漁る。


「さて、買ってきたものと交換しますか……」


買ってきたアタッチメントは、言うまでもなく銃身とその銃身の先につけるサプレッサーとを繋ぐ継ぎ手みたいなものだ。


今回のはネジで回して固定するタイプのためまず最初に銃身とアタッチメントを取り付ける。

時計回りにアタッチメントを回して埋め込んで行くのだが、ここでワンポイントがある。

雄ネジのネジ山に少量のグリスと言う油を塗ることでスムーズに回るようになる。


アタッチメントの材質が亜鉛合金? アルミ? 鉄? なのかは持った感じわからない。

しかしながら、グリスを付けずそのまま回して行くと、不安を感じさせる細かな削れカスとかが発生して心もとない。

グリスを付けることでこう言った摩擦の悪影響が格段に軽減できる。


取り付け終わったら同様にアタッチメントとサプレッサーを取り付ける。

この時もグリスは塗った方がよいだろう。

しかし、先ほどと違うことが取り付ける際の回す向きだ。

銃の世界では銃身先に取り付けるオプションとしてフラッシュハイダーやサプレッサー、空砲アダプターなど様々な物を色々な用途で使い分けしているのだが、その多くのものが逆ネジと言う企画になっている。その対局として存在するのが正ネジと言うのだが、この正ネジは……


正ネジはドライバーでネジを閉めるときに時計回りに


逆ネジはネジを閉めるとき半時計回りに回す。


つまり、この世界に出回っている大部分のネジ類が正ネジに当てはまる。

しかしながら、銃に限っては逆ネジが使用されることがあるのだ。

理由は様々だが俺が考えるに、もしサプレッサー等が正ネジで取り付けられていたとすれば……


まず、射手から見て放たれた弾丸は時計回りに強烈な回転を伴って飛んで行く。

弾丸だけではなく実は発射ガスもライフリングで時計回りに渦をなして放出される。


回転と渦はサプレッサーにも少なからず回転運動を与え、射撃するうちにほんの少しずつ緩んで行く。


しかし、逆ネジの場合となればこの回転運動を与えると締め付ける方向へと働き緩むことはない。


これが俺の考える理由だ(※諸説あり)


まぁ、正ネジで統一しようと思えば出来なくはないが、現在までこう言った流れが続いてることを考えればこれがベストなのだろう。


実際に弾丸の回転を反対にするために、ライフリングを彫るブローチ盤など工具を変えなければならないし、コリオリの力とかの関係を考えると時計回りに回転する方が都合がよいのだろう。



そこら辺はよくわからん……きっと頭の良い人の計算とか、ベテランの射手の経験から導き出された結果が今の銃なんでしょう。




それより……


「さっきからキャッキャッ……凄いな……小学生のお泊まり会かよ」


(ちょ、ちょっと! 美香ちゃん!? そこは良いかr……く、くすぐったいってばぁ~ )


(おおぉっ……これは凄まじい肉体バランス……どんな暮らししたらこんな体になるんですっ!? 太ももなんて太いとは思わせないけど、細すぎない適度な肉付きと柔らかさ……)


(そんなことないっ……てば…… それより、目が怖いよ……)


俺の部屋の真下がちょうどこの家のお風呂だ。

いくら床と言う壁があるとはいえ、もう外は暗くなって雑音も静まっている。さらに一人静かに作業していると嫌でも響いてくるんだよな……


てか、一緒に入ってるのかよ……

中2と高1が一緒にお風呂に入るって……なかなか聞かないペアだよな……。


男として、自然と夢の光景が……


「おらの家でこんなメルヘンな事になるとわ……ラッキースケベって許されるかな……無理だよなぁ……」


混ざりてぇ!


一旦落ち着けよ……

ここで押さえられなきゃ俺はただの変態+シスコンのおまけ付きのレッテルが張られる。


妹ってこんなやつだったけか……

もっと頑張っていただきたい気持ちはあるが……それ以上は……


気持ちをなだめるためには一旦外の様子を確認しようと窓枠の前に立つ。

外からは雨粒の落ちる音がいまだに鳴り止む気配はない。


「まだ降ってるなぁ~」


さて、柊さんはこのあとどうすんのかなぁ……このまま雨の中帰らせるのは人としてどうだろうか……でもそれしかないよなぁ~









ポチャン……


これは雨の音ではない。


「美香ちゃん私で遊びすぎっ!」


「あははは、だって本当に綺麗なんですもんっ!」


美香はまじまじも全身を舐めるように視線を這わせる。


ムニッ……


「キャッ! だから唐突に胸をつつかないでくださいっ!」


「キャッ! なんて本当に反応する人初めて見ました……それにしても適度な大きさと言い、この弾力……まさに女性代表ですね」


「~っ! だってこんなところ他人に触られることなんかほとんど無いし…… まって、死ぬほど恥ずかしい……」ぶくぶくぶく……


「へぇ~……結構純情なんですね♪ では話を変えましょう!」


「……?」


今度は何が始まるのかと、愛結火は顔に不安の2文字を浮かばせる。

一方、妹の美香はやたらニコニコして不気味だった。


「愛結火さんって……お兄ちゃんのことどう思ってらっしゃるんですか?」


「……へ? 海翔君の事……だよね? 」


「はいっ♪」


「そんなの会ったばかりだし……今は特に……」


美香はその答えがあまりに予想通りで少し口をすぼませる。そして、じゃあと質問を続けた。


「今どんな気持ちですか? 初めてあった人の家に来てお風呂にも入った感想と言うか」


「……恥ずかしくて凄いドキドキしてる……」


「(す、素直すぎっ! こんな子がこの世に存在して良いのっ!?)そ、そうですか……今日は多分もう終わりですけど今度またゆっくり遊びに来てくださいね♪」


「え……あ、うん!きっとまた来るね♪」


「はいっ! 待ってますねっ♪ ではそろそろ上がりましょうか」



水の音が一際大きくなり、二人は湯槽を後にする。


「はいっ、タオルこれ使ってください」


「ありがとう……二人でお風呂はいるなんて初めてだったよ……」


「では、私が初めてを1つ貰えたと言う事ですか♪」


「え?」


「何でもありませんよ~」


ムニッ……


「っ……!? だからつつかないでくださいっ!」


こうして鈴宮家のお風呂は無事? に終えたのであった。






「お兄ちゃん~お風呂どうぞ~」


「お、俺はあとで入るよ、それより雨はまだ止みそうにないなぁ~」


お風呂上がりの女の子って……破壊力強いな……特に少し火照った体で髪を拭いてる仕草とかかなりグッと来る。


「そっか……どうしよっかなぁ~」


時刻はもう7時を過ぎようとしていた。

当然辺りは暗く、もう人も車も少ない。


「泊まってけばぁ?」


「あのな……」


「そ、それはいくらなんでも……」


他人事のように、さらりととんでもない事を言いやがって……。


「んん……仕方ないっか……」


柊さんは携帯を取りだし、どこかへ電話をかけるようだ。


「もしも~し、うん、私だよ。ちょっとさ…… ありがとう! じゃ待ってるね!」


どうやら話はついたらしい。


「ごめんね……8時くらいまで待たせてもらっても良い?」


「いいけど、迎えに来てもらえるの?」


「うん、さっきお店にいた沙織さんに送ってもらおうかと思って……でも、まだ営業中みたいだから……」


「そう言うことなら構わないよ、沙織さんはこの場所わかってる?」


「さっき地図で位置送ったから多分大丈夫だと思う」


「そっか、それじゃあゆっくりして行ってよ」


そう言えばあの店員さんと親戚?同士だったんだっけ?

なにがともあれ、これで1つ柊さんの不安要素が消えたと言うことだ。

さっきよりも表情が一段と明るいのもそのためか……


「あ、これがさっき言ってたライフルかぁ~」


「柊さんのとはかなり雰囲気違うけどね」


「持ってみて良い?」


凄い目を輝かせて聞いてくる……断る予定はないけど、これじゃあ誰も断れやしないんだよなぁ


「あ、結構ずっしり来るね……競技用とは重心位置が若干前の方……」


「まぁね、競技用みたいに立射スタンディングで撃つ物じゃないからねぇ~ 二脚パイポッドとサプレッサーを外せばそれなりに重心は手前に来るけど……」


「いや、いいよ。でも、なんか持った感じ詰まってる様な気がするんだよねぇ~」


「お、実はね銃身とストックの間の空間にウレタンをぎっしり詰めてるんだ。こうすると共振現象と言うのが軽減されるとか…… ま、静穏化とかは競技には必要ない事と思うけどね」


「映画みたいにもじゃもじゃした服とか着て狙撃するの?」


「これの事?」


恐らく柊さんはこのギリースーツのことを指しているのだろう。

ちょうど数日前に届いたもので、まだ開封して間もない新品だ。


「あ、あるんだ……」


俺のは良く目にする紐タイプではなく、ヒラヒラ状の布に森林の模様が印刷されてるタイプだ。

隠密性と言う見つかりづらさの高い方がどちらかと聞かれたら、地形条件によりもするが全体的に前者の紐タイプではないかと俺は思っている。


ではなぜヒラヒラタイプにしたのかと聞かれたら、


まず、軽い。これは非常に重要で雨に当たって濡れでもしてら紐タイプの場合かなり水を吸って重くなる。

ヒラヒラタイプの場合、生地が薄いためかなりその影響は少ない。


そして生地が薄いことで被弾に気づきやすくゾンビ行為防止に繋がると言うことだ。

ゾンビ行為とは簡単に言えば、撃たれたのに撃たれてないフリをすることだ。この行為は自己申告制のサバゲーにとってやってはいけない行為の1つだ。


だがしかし、装備の関係上どうしても気づけなかった場合は、その人を責めないのが暗黙のルールだ。


しかしまぁ……俺が選んだ最大の理由が衛生的と言うことだ。


もじゃもじゃは色んな葉っぱや草を絡んで、簡単にはとれなくなる。

それどころか、押し入れにしまってたら虫が湧いたなんて事もある。

ヒラヒラは簡単に洗濯できるためこれを選んだわけだ。


そんなギリースーツをまじまじと色々なところを確認するように眺める柊さんが、ポツリと呟いた。


「サバイバルゲーム……か」


ちょうどその時、居ないと思っていた美香が急に戻ってきたかと思うと、曇りのない笑顔でこう誘った。


「愛結火さん! ご飯食べていきませんか!?」


「さすがに、そこまでは良いよ……」


「そうですか……」


さっきまでの笑顔が嘘のように極端に落胆する美香。今日の美香はどこかおかしいよなぁ~

それを気にしてか、柊さんも戸惑いの顔を隠せない。


「や、いや、もう……わかったよぉ!」


「(ちょろい……)ほ、本当ですかっ!? それは良かったです!」


迎えに来る8時まではまだだいぶ時間あるし、ま、いっか……

今日のご飯は何なのかなぁ……


「ささ、もう用意できてますから、どうぞ!」


「用意周到なこったな…… ごめんね、妹がこんなにはしゃいじゃって……」


半ば驚きとか戸惑った顔をしていた柊さんだけど、俺が謝ると、こんどは少し微笑んでこう続けた。


「私って独りっ子だから、こう言う兄弟? 見たいのって慣れてないだけだから……少し戸惑っただけ。心配かけてごめんね。でも、羨ましいよね……こんなに元気な妹さんがいて」


「いつもはこんな感じじゃないんだけどね……」


「あ、ちょ…… 行くから、ちゃんと行くから! 引っ張らないで~」


「♪」


「はは……は……」


いつもは聞かない妹の凄い発言といい……今のような積極的なふれ合いと言い……今日の妹はどこかおかしい……


《お兄ちゃん! 早くぅ~っ!》


「ほい、ほーい」



で……それ以上考える事を止め、大人しく食卓についた俺だが……


「なんだよ、母さん……」


「何でもないわよぉ~♪」


意味ありげなにやついた顔でやたら見てくる母親……

別に柊さんとは付き合ってる訳じゃないし…… これを画策したのは美香だし


「えっと……今日はご迷惑お掛けしてすみません……」


「良いの良いの! 息子の事、これからもよろしくお願いね♪」


「え? それはどう言う……」


「ううん、何でもないの。それより、美香の料理は絶品なのよ♪」


「それは楽しみです!」


その後、美香の簡単な炒め野菜を食べた。

料理自体は時間がなかったのかそれほど凝っている訳ではないのに、いつもより食卓が賑やかだった?







一方……場所は変わって静かで少し冷えた部屋。

そこで、一人食事をする少女。


そんな少女の手元に置かれたスマホが振動と共に画面が明るくなる。


《【アバロンからのお知らせ】今週の日曜日から今年度の定例会を再開いたします。アバロン隊員の皆様、フル装備で参戦ください。》


それに続いて、他の画面に移り変わり、通知が続く。


《アバロンフッカーツ! 撃ち初めは海兵隊で行くぜ!》


《俺はPMCかゲリラで迷ってるぜ!》


《俺は自衛隊の西部方面隊をイメージしよっかなぁ~》


ひとしきり会話が終えると再び画面を暗くした。


「制服……乾くかなぁ~。はぁ……独り暮らしって面倒……」


ひとしきり夕食を食べ終えると、ハンガーにかけられた水を吸って重そうな制服をドライヤーで感想させ始める。


「(てか、けさのあの男の子に見られたかな……絶対見られたよね……それにあの制服うちの高校だったし……)」


「ま、そうそう会うことはないと思うし…… でも、ホルスダーと見分けるところ、サバゲーに興味あったりしないかなぁ~」


「あっ!? 危ない危ない、制服熔けるとこだった……もう家事なんて嫌い……」


少女は昔を思い返すように嘆いた。

こんなことになるんだったら独り暮らしなんててしなきゃよかった……

































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