95. ランクアップ
特に大した内容のない、繋ぎの話です。あと、一応ギルド内の制度の説明の補足。
帰り道、初心者用の課題が完了した今日くらいはと琢郎が発案して、途中にあるいくつかの屋台で食べ物や飲み物を買っていく。
リリィはもったいないとも言ったが、こんな日にも彼女に料理させるわけにはいかないと、琢郎が押し切った形だった。
宿に戻り、部屋に入るとそれらを広げ、リリィが課題を完了したささやかなお祝いを始めた。
「あっ。そうだ、これを見てください」
買ってきたものが8割ほどなくなった頃、ふと思い出したようにリリィがギルドの登録証を取り出した。
「……これがどうかしたか?」
登録の際にも一度見せてもらったが、別段その時と何か変わっているような感じはない。
いや、
「隅っこに、何か紅い星が増えてる?」
登録証の右上の隅に、前回見た時には多分なかったはずの小さな紅い星型の模様が新たに刻印されていた。
「さっきゾフィアさんと課題完了の報告に行った時に更新されたんですが、初心者用の課題修了の印だそうです」
なんでも、ギルドの登録証は比較的簡単に作れる身分証明証としての側面があるため登録者数は相当な数となっており、それゆえの仕組みだそうだ。
登録だけで冒険者としての活動をしない者や、実際に活動する者の中でも実績と能力でランク分けすることによって、登録者の安全とギルドの信頼性を高めているらしい。
具体的には、ランクによっては受注できない依頼があったり、関連施設の優遇措置にも差があったりするということだ。
あとは、依頼がなくとも常時換金できる魔物の部位についてもランクが関係する。
ランクが高ければ同じ物でも金額が高くなる、ということはないのだが、ランクよりはるかに上級の魔物を持ってきた場合、出所に疑問があるということで逆に減額となってしまうという。
「リリィが初心者用の課題に挑んだのは、そういう意味でも正解だったってことか」
「いえ。わたしも聞いたのはさっきだったので、結果的になんですけれど」
琢郎が以前狩ってきた魔狼やデモン・ビー――そんな事情は知らなかったものの、初心者用の課題の成果と一緒に持っていくのも変だと思ってたまたままだ換金していなかったが、もしこれらを換金していれば、この紅い星印がなければ減額の対象になっていた。
「それで、これからどうしようか? とりあえず目標にしていた初心者用課題の達成は、ギルド証のランクアップのおまけ付きで完了したわけだが」
話は今後のことへと移る。
「この次のランクを目指したりもするのか?」
「そんな。そこまでは無理ですよ!」
琢郎の問いに、リリィは首を激しく振って否定した。
さらに上を目指すのならば、それこそ魔狼なんかを単身で相手取る必要があるらしい。さすがにそれは、リリィにはまだ荷が重い。
「とりあえず今は角兎でも狩って、お金と経験を積んでいけたらいいです。魔狼なんて、タクローさんが戦っている間に自分の身を守ることくらいはできても、わたし自身で倒すのはまだまだ無理ですよ」
最低限の実力を身に着けるということには成功したと言えるので、あとはゆっくりでいいとリリィは考えていた。
琢郎が魔物を狩り、リリィが換金する。当初計画していたこの形に移行してもいい。
「とりあえず、明日もまたギルドに行って、何か依頼がないか見てみませんか?」
リリィが提案し、琢郎もそれに同意する。
初心者用の課題を終えるという目標を達したことで、この街に滞在する理由はなくなった。
だが、かと言ってここを出て行く必要があるかと言えば、その理由もまた今のところない。特に不都合がないのなら、まだしばらくはここを拠点として活動しても構わなかった。
ほんとにただの繋ぎなので、少々短くなってしまいました。




