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94. 課題完了

 残るゴブリンは、あと2匹。

 ここまで来てしまえば、新手が来る前と変わらない。


「リリィ。これで最後だ。こっちへ来てキミが倒してくれ」


 元々戦っていた相手を倒した後、琢郎たちが新手を次々片付けていくのを後方で見ていたリリィを、ゾフィアは招き寄せる。

 同時にゴブリンたちが逃げ出さないよう、リリィが来るのとは反対側へと回り込んだ。


 もっとも、ついさっき仲間が後ろから琢郎の<風刃>(ウィンド・カッター)に斬り刻まれるのを見ておいて、同じ愚を犯すとはあまり思えなかったが。



「はああぁぁッ!」


 数分後、リリィの振るった槍の先が最後のゴブリンの喉を斬り裂いて絶命させる。


 これで、予定外に現れた増援を含めた全てのゴブリンは倒された。

 リリィが自分で倒した数だけでもすでに5匹を超え、ゴブリンと戦うこと自体についてはある程度慣れてきているようだった。


「よし。じゃあ後は、換金部位を回収してから引き返すとしよう」


 だが、死体の耳を削ぐことにはまだ抵抗があるようで、ゾフィアの言葉を聞いたリリィの表情が変わる。

 戦闘後の興奮から憂鬱な感じになるが、さすがにゾフィアも新手を含めたこの数の処理を、前回と同じくリリィ1人に任せようとはしなかった。


「手分けして、まずはそれぞれ自分が狩った奴から切り取っていこう。リリィは自分の分が終われば、私たちの分も手伝ってくれればいい」


 と言って、ゾフィアは自分が斬ったゴブリンたちの方へ向かう。


 リリィ1人だけではかなりの時間がかかってしまう。その間に万が一また他のゴブリンの集団に見つかってしまえば、面倒なことになるだろう。

 それを避けるために、全員で後処理を早く済ませてしまうのだとは、容易に想像がついた。


 リリィは嫌そうな顔はするものの、ナイフを出して倒したばかりのゴブリンの耳に宛がい、琢郎も魔法で倒したゴブリンの倒れている場所へと進む。

 遠距離攻撃で倒した関係上、琢郎が一番遠くまで行くことになる。当然、斜面の向こうから新たな集団が姿を見せないか警戒するのは、専ら琢郎の役目となった。


「しまッ……!」


 だが、突然ゾフィアが焦った声を上げる。


 慌てて振り向くと、いつから潜んでいたのか、ゾフィアが斬った死体のすぐ傍の茂みから飛び出した1匹のゴブリンが、手持ちの石斧でゾフィアに一撃を加えているところだった。

 初めから報復のために潜んでいたのか、隠れてやり過ごそうとしたところにゾフィアが近づいてきて断念しての行動か。それはわからないが、外側に警戒を向けていたために、足元から飛び出した相手に不覚を取ってしまったようだった。


「ぐッ……」


 鎧の上からの攻撃で、怪我にはならなかったが衝撃まではなしとは言えない。バランスを崩したところで、無防備な場所にもう一撃――


<風刃>(ウィンド・カッター)!」


 の前に、琢郎の魔法がゴブリンの首を切断した。斧を振り上げた格好のまま、断面から血を噴きつつ頭を失った胴体が地面へと倒れる。


「……ふぅ。ありがとう、助かったよ」


 返り血を一部浴びつつ、崩れかけた身を起こして安堵と感謝を口にするゾフィア。


「だ、大丈夫ですか?」


 そこに、治癒魔法を使おうと慌ててリリィが駆け寄って行ったが、


「ああ。鎧の上からだったので、怪我はしていない。治癒魔法を使ってもらうには及ばないさ」


 と制される。


「それにしても、思わぬ形で悪い例を見せることになってしまった。こんな風に、戦闘が終わったと安心して油断すると、思いがけず危機に陥ることもある。リリィはさっきの私みたいなミスはしないようにしてくれ」


 最後は苦笑しつつ注意を促すような形で一段落をつけて、あらためて周囲を警戒しながらゴブリンたちの耳の切り取りを再開する。


 その後は伏兵やさらなる新手が現れることもなく、無事に全ての換金部位を集め終わった。


「では、そろそろ街へ帰ろう。予定外のことが続いて、日が傾き始めてしまった」


 帰り道もゾフィアの先導で、山に入った時の立て札のある街道脇まで戻って来た。

 そこからも行きと同様に、琢郎が両側に2人を抱えて<風加速>(フェア・ウィンド)でレオンブルグの街へと向かう。高速移動のおかげで、日が落ちて街の門が閉まってしまう前にレオンブルグに帰り着くことができた。


「戦闘中にもかなり魔法を使っていたはずだが。帰りも加速魔法を使って平気だったのか?」


 門の近くは人通りが多くなるため魔法を解除し、3人並んで歩きながらふとゾフィアが訊ねる。


「……疲れがないわけじゃない。だが、これくらいなら一晩寝れば問題ない」


 本当はまだまだMPは余っているが、実力をさらけ出すつもりはない琢郎は、顔がフードで隠れているのをいいことに適当な嘘をつく。


 それでもゾフィアの知る他の魔法使いよりは余裕があるように映ったようで、女冒険者の顔には感心の色が表れていた。


「タクローには最後助けられたし、なかなか凄い魔法使いだ。よければ、また今度キミたちと仕事をしたいものだ。今度は監督役ではなく、対等な仲間として」


「まあ。機会があれば、な」


 そんな話をしているうちに、ギルドに到着した。

 琢郎は中には入ったもののロビーで待機し、リリィとゾフィアが受付へ向かってそれぞれに課題の報酬を受け取ってくる。


 報酬の受け取りが終われば、もうこの臨時パーティーも役目は終わりとなる。


「今日は、どうもありがとうございました」


 リリィが深々と頭を下げて感謝を述べ、琢郎もそれに合わせて軽く礼をする。


「いや。こっちも有意義な体験だった。さっきも言ったが、もし機会があればまた一緒に魔物を狩りに行きたいものだ」


 ゾフィアも言葉を返し、さらに二言三言交わした後、ギルドの入り口付近で琢郎とリリィはゾフィアと別れたのだった。

長かったゴブリン退治もこれにて完全終了。

次回からは新章開始です。

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