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92. 人型魔物との戦闘 その4

 リリィの初撃がゴブリンの肩を貫いた時点で、当然ながら周囲にいた他のゴブリンも襲撃に気づいている。


 中でも一番リリィに近かった1匹が、いち早く反撃に動いた。

 深く刺し貫いてしまった槍先をまだ引き抜けないでいるリリィに向かって、手にした斧を振り上げる。


<風刃>(ウィンド・カッター)!」


 それを振り下ろすことは、しかし琢郎が許さなかった。

 リリィに続いて斜面を駆け下りながら放った風の刃で、斧を握った腕ごと斬り飛ばした。


「グゲェアアァァ!?」


 肘から先がなくなってしまった自らの右腕を見て、ゴブリンは絶叫する。断面から吹き出す血を撒き散らしながら、リリィのことも忘れてのた打ち回った。

 その惨状を見た、リリィに報復しようとしていた他のゴブリンの足も鈍る。


 その間に琢郎とその後ろから下りてきたゾフィアがリリィに合流するが、首でなく腕を斬り飛ばしたのは、何もそれを狙ってのことではない。


「集団戦といっても、私やタクローが本気を出せばすぐ片付いてしまうだろう。なるべく援護に徹して、基本的にはリリィが全て片付けられるようにして欲しい」


 という事前のゾフィアとの打ち合わせがあったからにすぎない。結果的には好都合な状況になったが。


「早く、そいつにトドメを」


 ようやく槍先を引き抜けたリリィに、ゾフィアが促す。

 その言葉がわかったわけではないだろうが、肩を穿たれたゴブリンは目に怯えを宿してリリィを見た。


「うぅ……」


 リリィの握る槍の先が迷うようにブレるが、まだ他のゴブリンが残っている以上、いつまでも躊躇ってもいられない。


「ギャッ!」


 意を決して再度突き出した槍は、今度こそゴブリンの胸を貫いてその命を奪った。

 その感覚にはやはりまだ慣れることはできないのか、リリィの表情が歪む。


「ギャギギャァァァ!」


 幸か不幸か、ひたる時間もなく仲間を殺されたことでゴブリンたちの反撃も再び本格化した。


 うち2匹はゾフィアが抑え、残る1匹は琢郎、1匹はリリィに向かってくる。

 リリィもゴブリンの命を奪った槍をすぐに構え直して戦わざるを得なかった。


「……っても、殺さない方がよっぽど難しいんだが」


 リリィがゴブリンの攻撃をしっかり槍で受け止めて防ぐのを横目に見た後、琢郎は自分に向かってくるもう1匹のゴブリンを相手に呟きをこぼす。


 武器で相手の攻撃を防いだり受け流したりできる他の2人と違い、琢郎は魔法攻撃を専らにしていて武器らしいものを持たない。ゆえに、殺さずに相手の攻撃を防いで時間を稼ぐというのは難しい。

 他属性の魔法を使えばなんとでもなるが、ゾフィアに得意は風属性と申告した手前、それ以外の魔法は彼女の見ている前では使いづらい。


「……<風刃>(ウィンド・カッター)


 ひとまず、かなり威力を絞った風の刃で、ゴブリンの振るう骨製のナイフの刃先を折る。

 これで反撃の意志も一緒に折れてくれれば楽だったのだが、構わず折れたナイフでそのまま襲いかかってきた。


「くぅッ」


 強烈な風を浴びせてその前進を阻みつつ、その反動を利して自らは後ろに下がって距離を取る。

 そうしてできた余裕を生かして、琢郎は他の様子を窺った。


 リリィはまだ倒せてはいないものの、向かってきたゴブリンを相手に優勢にしている。

 少しは慣れてきたことと、おそらくはさっきの戦闘でまたレベルが上がったのだろう。動きがよくなっており、もうゴブリンの攻撃を受けて怪我してはいないようだった。


 ゾフィアは2匹のゴブリンの攻撃を余裕といった感じで、捌いて受け流している。

 実際、たまにちらりとリリィの方へ視線を送って状況を確認するということもしているようだった。


「すまない、リリィ! 1匹そっちへ行った!」


 と、突如ゾフィアが声を上げる。

 ちょうどリリィの槍がゴブリンのわき腹を抉り、その戦闘力をほぼ奪ったと見たのか。琢郎から見ればわざとらしい感じで片方のゴブリンを見逃し、リリィへと向かわせていた。


 それもまた、リリィを戦闘に慣れさせるための行動ではあるのだろうが、見ている側としてはあまりいい気はしない。

 また、かなりの傷を負わせたとはいえまだトドメを刺し終えたわけではない。リリィがこれに対処できるか気になってしまう。


「ギィッ」


 ついついリリィの方ばかりに気が向いてしまい、自分のゴブリンの相手がおろそかになる。

 気づいた時には、折れたナイフを構えるゴブリンにかなりの接近を許してしまっていた。

あと少しで終わらず、もうちょっとだけ戦闘が続きます。

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