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91. 人型魔物との戦闘 その3

「ありがとう。ご苦労様」


 リリィが代わって削ぎ落としてきたゴブリンを耳を受け取って、ゾフィアは労いの言葉をかける。


「では次の戦闘……の前に、少し休憩にしようか」


 その時のいつ吐いてもおかしくはなさそうなリリィの顔色を見てか、ここまでリリィに厳しかったゾフィアからそんな提案が出てきた。


「ただ、ここだと血の臭いもあるのでリリィも落ち着いて休みにくいだろう。少し行ったところに安全地帯があるんだが、そこまで頑張って欲しい」


 青い顔のままリリィが頷きを返すと、再びゾフィアが先導する形で移動を始める。

 リリィが続き、後ろから琢郎が彼女を心配しつつ後方を警戒して最後に歩く形は先ほどと変わらない。


 風向きもあって、歩き出すとすぐにゴブリンたちの血の臭いは薄れていく。

 代わってやがて、斜面の上の方から街道を移動する際に嗅ぎ慣れた臭いが漂ってきた。


「ここはギルドが用意した安全地帯だ。だからここなら、落ち着いて休むことができる」


 坂を上ったそこに見えたのは、何本もの魔除けの聖木に囲まれた小さな平地。その中心に、座るのにちょうどいいくらいの大きさの岩が5つほど円状に並んでいる。


「……ぅッ」


 そのすぐ前まで来たところで、琢郎はフードの下で小さく呻く。

 魔除けの臭いにはいい加減慣れているつもりだったが、街道脇に比べて聖木の密度が濃いせいかこれまでになく強く感じる。


 正直、鼻を押さえたいところではあったが、ゾフィアがそれもできない。人間にとっては、むしろ良い匂いなのだろうから。

 現にリリィもこの場所に来て、青かった顔色がわずかだがましになってきているように見える。

 琢郎には、目深に被ったフードの陰で見えない表情をしかめるだけで我慢するしかなかった。


「ほら。とりあえず、これでも飲んでゆっくりしよう」


 そうして内心の不快を隠したまま、他の2人と共に中央の岩に腰掛ける。荷物からコップを取り出し、隣に座るリリィに渡すと元素操作で水を注いだ。


「あ、ありがとうございます」


 リリィが礼を言って受け取ると、琢郎は別のコップを出して自分の分も用意する。

 ゾフィアはというと、自分の荷物から水筒を取り出しており、その中身を飲み始めた。


休憩と水分補給を兼ねて、しばしゆっくりとした時間が流れる。


「……それで、この後どうしようか?」


2杯目の水をほぼ飲み終えたリリィの顔色がかなり元に戻った頃になって、不意にゾフィアが話を切り出した。


「元々、タクローの魔法がなければ明日の予定だったんだ。まだつらいようなら、今日はここまでにして明日また出直すということもできるけれど?」


 戦闘の時とは打って変わって、リリィを気遣うような提案だった。

 あの時厳しかったのは何らかの悪意の類によるものではなく、この課題の協力者兼監督役という立場からあえてそうしていたのだろう。


「こういうことは結局のところ、慣れだからね。やり直せば数をこなすことにもなるし、私はそれでいいと思う」


「……いえ。ここまで来たんですから、わたしはできれば最後まで頑張りたいです」


 だが、しばらく迷った末にリリィはその提案を蹴った。


 自分のために他人に余計な手間を増やすことを厭ったのか、何度もゴブリンと戦うことになるのが嫌で早く終わらせたいと思ったのか。

 それはわからないが、少し無理をしているようにも琢郎の目には映った。


 それはゾフィアにも同じようで、無理をする必要はないことを言われたが、リリィの意志は変わらなかった。


「……わかった。じゃあ、これからもう少し山の奥の方へと進もう。別のゴブリンを見つけて、次は連携しての集団戦だ」


 小さくため息を吐いたゾフィアは、もうしばらくの休憩の後に次の戦闘の相手を求めて再び琢郎たちを先導する。

 そう都合よくすぐに次の相手は見つからず、10分以上も奥へ奥へと進んでいった。


 そして、ついに先頭のゾフィアの足が止まる。


「やっと見つけた。あの坂の下だ」


 木の陰から斜面を見下ろすと、そこにはさっきより多い6匹のゴブリンの姿があった。

 加えて、違いは単に数だけにはとどまらない。半数が、尖った石を木の棒にくくりつけた手斧のようなものを装備している。


「リリィ。やるからにはしっかりやってもらう。もちろんすぐにフォローはするが、キミが先陣を切ってもらおう」


 再び厳しいモードに戻ったゾフィアが、作戦の指示を出す。


「え……?」


「何も1人であの数と戦わせようというんじゃない。斜面を駆け下りる勢いを利して、まず一番こちらに近いあのゴブリンに一撃して欲しい。私とタクローはそれに続こう」


「わ、わかりました!」


 自分から続行を言い出した手前、リリィは槍をぎゅっと握りしめると、ゾフィアの指示に従い斜面を下りての突撃を開始する。


「やあああぁぁぁぁ!」


 しかし、恐怖や躊躇いを振り払うためにか上げた掛け声が、まだ琢郎たちの存在に気づいていなかった奇襲の利を半減させてしまう。

 声に気づいて、ぎりぎりのところで回避行動を取られてしまった結果、胸の中心を狙ったリリィの槍はゴブリンの肩に近い右腕を刺し貫くにとどまってしまった。

その3と言いつつも、戦闘に入ったのは最後ですが。

忠告通りに出直すか迷いましたが、さらに間延びするので続行しました。

次回で多分ゴブリン戦はほぼ終了……のはず。

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