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80. リリィの成長 その2

成長というか、成長フラグというか……

 角兎とは別の獣がその影を見せたのは、倒した獲物を処理してそろそろ帰ろうかというタイミングだった。角兎の血の臭いを嗅ぎつけて来たのかもしれない。


「ウウゥゥゥ……!」


 ゆっくり近づいてくると、琢郎たちに牙を剥いて唸った。


「えッ……ま、魔狼?」


 今日はもう終わりと気持ちが切れていたこともあってか、咄嗟に槍を構えはしたもののリリィの腰は少し引けている。

 角が生えているとはいえ兎と肉食獣を比べれば、大きさも見た目の凶暴さも遥かにこちらが上だ。そうなるのも無理もないが、


「いや。……多分、野犬じゃないか? たしか課題の注意書きにも、稀に出るとか書いてあった」


 棲家周辺の森で琢郎がかつて見た魔狼と比べると、一回り小さく、毛色も違う。

 ただし、それでも角兎より危険なことには変わりない。それに、下手に噛まれて変な病気に感染でもしたら厄介だ。


「そらッ!」


 注意を逸らすために、琢郎は角兎を1匹、斜めに放り投げる。

 野犬がそれに釣られて獲物を口に咥えようとしたところにすかさず、


<地槍>(アース・ステーク)!」


 魔法で下から串刺しにしてしまう。

 リリィや琢郎に、近づくことすらさせなかった。


 ただ、一度野犬が咥えてしまったものを後で食べるわけにもいかないので、囮に使った兎の角だけを回収。

 野犬自体は魔物でないので討伐の報奨はない上、肉も毛皮も使い道がないため<落穴罠>(ピット・フォール)で穴を掘って兎の身体ともども、そこに処分した。


 そうして後始末を終えると、今度こそ2人は帰路に着いた。



「明日はどうする? また雑木林に行くか、場所を少し変えてみるか?」


 夕食は持ち帰った持ち帰った残りの兎の肉をたっぷりと使い、腹が満たされたところで琢郎は宿の部屋で翌日の予定を訊ねる。


「それなんですが……これに行ってみてもいいですか?」


 リリィが指で示したのは、パスした護衛の課題の次にあった初級技能の講習会。翌日はその3種あるうちの1つ、神契魔法の講習が開かれることになっていた。


「神契魔法……知らないんだが、どういう魔法なんだ? これ」


 他の2つは火の熾し方や野宿などのコツを学ぶものと、元素魔法の基礎として適性ある元素の操作を覚えるもの。別に講習があるということは、神契魔法は琢郎が使う元素魔法とは別ということなのだろう。


「わたしも詳しくないからこそ、行ってみたいんですが……」


 リリィが知る範囲で説明してくれたところによると、神契魔法というのはこの世界の数多の神々に信仰と何らかの代償を捧げることで、その神の奇跡の力を借りるというものだそうだ。

 その代表的かつ基本的なものが、癒しの神イリューンの力を借りた治癒魔法。リリィの目当てもこれだった。


「他の2つは、タクローさんがいればそれで必要ないものですし」


 ゆえにこそ、琢郎にはできないことを覚えたいと言う。


 それを聞いて、琢郎の胸は熱くなった。

 リリィが頑張って強くなろうとしているのが嬉しい反面、このまま成長していけば琢郎にはリリィが必要であっても、やがてリリィに琢郎といる理由はなくなってしまうのではという不安も、少しだけどこかにあった。

 それが、琢郎と一緒にいることを前提として成長の方針を決めると言っているのだ。杞憂だったと嬉しくなるのも、当然というものだ。


「……けど、神契魔法か。俺も覚えられたらいいんだが」


 MPだけは有り余っている。説明を聞いた琢郎は、喜びとは別にそんな言葉も洩らした。

 だが、新しい魔法を習得できるならそれに越したことはないが、講習の参加資格は冒険者の登録をしている者に限られているらしい。



「行ってみないとわからないですが、できるようなら基礎を覚えて帰って、わたしがタクローさんに教えますよ」


 琢郎の呟きはリリィにも聞こえていて、翌朝宿を出た時にそんなことまで言ってくれた。


「じゃあ、わたしはギルドに行ってきますね」


「ああ。俺は俺で、近くの森かどこかで獲物探したりして食料調達でもしてくる」


 宿の前で2人は別れる。棲家を離れて以降、本格的な別行動はこれが初めてのことだった。

次回は、神契魔法の基礎を覚えたリリィが、初心者用の最後の課題に挑戦!

……の前に、久々に単独行動する琢郎の話を1話挟みます。

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