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79. リリィの成長 その1

「やりました! これで7匹。自分で全部倒せましたよ、タクローさん!」


 手にした槍で角兎を仕留めたリリィが、喜びを露わにして琢郎の方を振り返る。

 LVアップの恩恵を受けられない自分の身の上に気づいて自嘲していた琢郎は、笑みの形はほぼそのままにその意味するところをリリィの奮闘への賞賛へと変えた。


「ああ、凄いな。まさか、こんなに早く終わるとは思わなかった」


 予定では、途中で安全な池の畔にまで戻って食事と休憩を取るはずだったのだが、その必要が生じるよりも前にリリィは課題の数の角兎を倒してしまった。


「区切りがついたんならちょうどいい。池の方で一息入れよう」


 太陽が一番上に来るにはまだ少しあったが、とりあえず目的は達したのだから休憩するにはいい機会だ。琢郎は戦闘の興奮と達成感でやや上気しているリリィを連れて、池の近くまで戻った。

 装備を外してそこでしばらく休むよう告げる。

 その間に琢郎は、付近にある植物の中でもリリィが好んでいる甘酸っぱいベリー系の果実を探して集めた。


「課題達成のご褒美――にはショボイが、とりあえずはこれで」


「あ……ありがとうございます」


 集めた果実と、水を入れたコップを渡す。装備を解いて地面に座っていたリリィは、顔をほころばせてそれを口にした。


「……それで。この後だが、どうしようか?」


 水のお代わりに、昼食用のパンと干し肉も炙って手渡しながら、琢郎が訊く。


「え? どうするって……街に戻って報酬をもらったら、次の課題なんじゃないですか?」


「もちろんそうしてもいいし、角兎相手がいい訓練になるんだったら、まだしばらくさっきの林で狩っていてもいいんじゃないか?」


 問いの意図がピンと来ないリリィに、選択肢を示す。LVアップによるものと思しきリリィの成長を見ての提案だ。


 LVアップを利用すれば、リリィも比較的安全に強くなることができるはず。

 また、課題分は倍近い特別報酬だが、それでなくとも角兎の角は銅貨3枚でギルドが買い取ってくれるし、その肉もある程度は食料として利用できる。角兎を狩るのは、決して無駄にならない。


「あッ、なるほど。たしかに、角兎と戦っていてわたし、なんだか自分が強くなってる気がするんです。それもいいかもしれません」


 琢郎のように『特殊表示(ステータス)』で数値として確かめられてはいないが、リリィも自分がLVアップで成長していることは実感しているらしい。

 提案を理解すると、前向きにそれに反応した。


 ただ、角兎の狩りはするにしても、すぐに続けないで先に次の課題に挑戦しても別に問題はない。

 ひとまず、どっちを先にするかは次の課題を確認してから決めてみようと、リリィは残り少なくなった初心者用の課題の綴りを繰る。


「あ……次のは、なんだかこれまでとは違う感じですね」


 その内容を読んだリリィは、少し難しい顔で言うと見たものを琢郎にも示した。


 要約すると、商人の護衛に同行して護衛の方法を勉強しろというもの。

 ギルドに課題を希望すれば、行き帰りで3日ほどの適当な護衛の仕事に出る別の冒険者を斡旋してくれるそうだ。

 もっとも、護衛そのものは彼ら任せで、課題は彼らの仕事に付いて行き警戒のポイントや手順を学ぶことらしい。


「別の冒険者と一緒、それも3日もか……」


 直接自分で護衛するわけではないが、襲撃があれば万が一の危険はある。しかし、この条件では正体を隠さねばならない琢郎がそこに同行するのは難しい。

 課題を確認したリリィの反応が思わしくないのも、そう予想できるからだろう。


「この課題はパス、ですね」


 それでも1人で行く、という選択も取れたはずだが、リリィはこの課題は外すことを明言した。


「じゃあその次……は、もっと違いますね」


 さらにめくると、ギルド支部が主催する初級技能の講習会に1つ参加しろとのこと。報酬は出ないが、この課題書を出せば1つ無料で受講できるらしい。

 課題と言うより案内に近い。ただし、講師の関係で開催日時は決まっていて、今日これからのものは何もなかった。


「今日は、このまま角兎狩りですね」


 残る課題を確認した結果は空振りだったために、当然そこに落ち着いた。


 それから夕方近くまでリリィは雑木林で角兎を狩ったが、途中からはリリィを脅威と感じたのか角兎がこれまで以上によく逃げるようになり、午後からの成果は7匹に(とど)まった。

 そして、リリィのLVはその4匹目を倒したところで、再び1つ上がったのが琢郎の『特殊表示(ステータス)』で確認できたのだった。

その2に続いて、それから初心者用の最終課題に続く予定です。

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