07. ステータス
内容はタイトルそのまま。
『個体名:タクロー 種族:オーク
追加属性:転生者
HP: 154/ 157
MP: 8218/8218
筋力: 41
頑丈: 45
敏捷: 17
知力: 11
スキル:「特殊表示」「全属性魔法」
「多重同時詠唱」「???」』
「……なんじゃこりゃ」
画面に表示される内容を読んだ琢郎から、思わずといった感じで声が漏れた。
これが何なのか、ということ自体はなんとなくわかる。表示されている項目はともかくとして、もの自体はいわゆるゲームのステータス画面と同種のものだろう。
転生前に、そういえばこんなものもあるようなことを言っていたような気もする。
だが問題は、そこに記されている数字だ。これが、今の琢郎の能力値ということか。
魔力に偏っているとは聞いていた。聞いてはいたが、
「いくらなんでも極端すぎだろ、これ」
ギリギリ2桁から、4桁後半まで。最小値と最大値で、約750倍の差。
もっとも、HPやMPは数字が大きくなりがちなイメージがあるが、次に大きいHPと比べても、その差は50倍以上だ。
どうにも歪すぎるような気がしないでもないが、ともあれ高い数値を持っていること自体は喜んでおくべきだろうか。
「……そういや、『個体名:タクロー』って、前のままだな」
いくら目立つとはいえ、MPの数字にばかり目を奪われていても仕方がない。そう思って視線を一番上に戻した琢郎は、今さらながらそれに気づいた。
考えてみれば、おい、だの、おまえ、だの、そこの、だのと、オークになってから誰かに名前を呼ばれたおぼえがない。どころか、幼体の頃の記憶を辿ってみても、そもそも琢郎ばかりか同期のオークの誰も名づけられてすらいなかった。
今を生きるオークとしての個人名がないために、空いた名前欄に前世の名前が記載されたのかもしれない。まあ、勝手な想像にすぎないが。
「で、種族がオーク。これは元から知ってる。追加属性? が転生者、と。こっちは転生者って言葉自体はまだなんとなくわかるんだけど、属性ってのはどういうことなんだか」
名前の次の項目に目を移し、これだけでは具体的なことはよくわからないとばかり、『転生者』と記された部分を右手の指でぴんと弾く。
その途端、再びヴンッという音と共に半分ほどの大きさの別の画面が開いた。
『「転生者」:異世界の記憶を保ったまま生まれ変わった者。大陸共用語、スキル「特殊表示」を自動取得。』
「おぉッ!?」
どうやら、画面にタッチすることで、より詳細な説明を見ることもできるようだった。
ならば、と数字部分を飛ばして、スキル部分の詳細を確認していく。結果はこのような感じだった。
『特殊表示』:意識することで対象の情報を見ることができる能力。表示される内容はスキル強度や対象との関係などの諸要因による。
『全属性魔法』:地火風水光闇の6大元素魔法全てと、魔力を直接操作する無属性魔法に対して等しく高い適性を持つ。
『多重同時詠唱』:複数の魔法を同時並行して使用可能。並行使用数に応じて魔力消費量は幾何級数的に増大するが、使用数自体の上限はない。
『???』:発動条件未達成。詳細不明。
「これって……結構、凄くないか?」
最後の『???』は、おそらく転生直前にサービスとか言って追加されたスキルだろう。まだ有効になっていないようだが、それを除いても「万能型の魔法使い」という唯一希望を入れることができた方向性には十分だった。
十分どころか、桁違いの数字を持つMP(=魔力)と併せて考えれば、
「もうこれ、万能どころかチートの領域じゃね?」
異世界に転生や転移をした主人公が、チートな才能で無双する。最近わりと流行りのそんな小説を、生前琢郎もいくつか読んだことがあった。
形こそオークだが、今まさに自分がそんな主人公のような立場になりつつあると、琢郎は胸を躍らせる。
もっとも、どんな魔法の才があろうと、現に今魔法の使い方が分からなければ意味がない。誰かに教わる必要があるというなら、見る限り他に魔法が使える奴などいそうになかったオークの群れは、最悪と言っていい環境だ。
それに気づいて焦りかけるが、画面のスキルのさらに下に、四角い枠に囲まれた『使用可能魔法』の文字を見つけて、琢郎は急いでそこに触れる。
その途端、ステータス画面の上に重なるようにして、いくつもの魔法の名前が記された新たな画面が表示された。
ステータスの表示項目や内容を決めかね、たいした中身もないのに時間がかかってしまいました。
スキルにちょっとアレな感じでルビを振っているのは、意図的なものです。狙ってやっているんですが、ホントにこれでいいものやら……