表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/127

71. 逃避行 その3

 一度リリィの側を離れて、自己抑制のための処理をしてきた甲斐はあった。

 宿に戻った後は翌日に備えてすぐに休むことにしたが、処理後独特の理性的な状態と軽い虚脱感がまだ残る内だったために琢郎はすぐ寝入ることができた。

 ベッドは藁の上にシーツをかけただけのような簡素なものだったが、それでも野宿よりはちゃんとしている。普段より距離が近いリリィに悶々とすることがなければ、眠ることの障害はない。


「あ、おはようございます」


 むしろ寝過ごしてしまい、翌朝はいつもとは逆にリリィの方が先に起きてしまっていた。


「……悪い、寝坊した」


 詫びの言葉を口にしつつ、琢郎は思う。

 いつもより疲れているつもりはなかったのだが、寝過ごしたのはこんな安宿とはいえ安全な室内で寝たからだろうか。


 ともあれ、よく眠った分、体調も悪くない。ここに長居する必要はないので、早々に宿を後にする。

 結局、完全な素泊まりで水や明かりなどといった別料金がかかるものを何も頼まなかったせいだろうか。宿を出る際、昨日の親父にはあまりいい顔をされなかった。



<風加速>(フェア・ウィンド)


 ツーデの町を出、さらに西へと向かう。街道を進んでいるので、加速魔法も使いやすい。

 他の通行者にぶつからないよう注意する必要はあるが、そう多い数がいるわけもなく森の中と比べると、断然に障害が少なかった。


 そこそこのスピードで飛ばして、朝早く出て昼前には2つの町を通過していたが、その次の町へ向かう途中で休憩を挟む。


「す……すみません」


 加速魔法を解除すると、少し顔色が悪いリリィを下ろした。手近な土を操作して盛り上げると、背もたれつきの椅子のような形に変えてそこに座らせる。


「いや。こっちこそすまん」


 元々、<風加速>(フェア・ウィンド)は風による後押しで自分を加速するだけの魔法だ。

 荷物を背負い、リリィを横に抱きかかえるような形で一緒に高速移動しているが、抱える琢郎も抱えられるリリィの方も、それにあまり慣れていない。

 だからだろうか、抱えられているだけでも長時間の移動はリリィには負担になっていた。


「車酔い……みたいなものか?」


 なんとなく近いような、的外れなような例えをしつつ、よくわからないなりに琢郎はひとまずリリィを休ませることにした。


 幸い、途中の町で聞いたところでは、この2つ先の町を抜けたところで街道が分岐しており、そこを南側に折れるとギルド登録が可能な大きな街に繋がっているということだった。

 ここでしばらく休んでも、今日中か途中でもう1泊もすれば十分に着く。自分のために同行を言い出してくれたリリィに、無理はさせられなかった。


「とりあえず、何か口にできそうなものを探してくる」


 荷物からコップを出し、そこに水を()いで手渡しつつ琢郎は告げる。

 そろそろ昼食にしてもいいような時間ではあったが、リリィの体調を考えるとパンや干し肉などではなくもっと新鮮で食べやすいものを用意したい。


 聖木が近くに植わっている街道脇で休んでいれば、魔物に襲われる心配はとりあえず必要ない。それに、探しに行くと言ってもそう遠くまで行くつもりはなく、万一何かあればすぐに戻れるような近くだけで探すつもりだ。


「すぐ戻るから、しばらくここで休んでいてくれ」


 そう言い置いて、琢郎は1人街道を外れて森の中へ足を踏み入れる。

 探すのは果実。それも、あまり甘ったるいのよりは柑橘類のように酸味があってさっぱりしているものがいい。

 見つけたらすぐに<風刃>(ウィンド・カッター)で落とせるように準備しながら、木々の高いところを見上げて歩く。


「……っとぉッ」


 それで足元が疎かになってしまい、何かに蹴躓(けつまづ)いてしまった。


 転ぶ前になんとか体勢を立て直して地面を見ると、琢郎が躓いたのは何かの骨だった。

 一瞬人骨かと驚いたが、それにしては頭蓋骨が小さい。ゴブリンのものだろうか?


 上方の次はその骨に注意が向いたその時、琢郎のすぐ後ろにあった樹の枝が不意に動く。


<風刃>(ウィンド・カッター)!」


 琢郎が振り向いてそれに対処できたのは運が良かった。たまたま枝の影が動くところが、骨のそばの地面に映っていたのだ。


「今度は樹の魔物か?」


 前の花の魔物に続く新たな植物型の魔物かと思ったが、違う。


「ギギィィ!」


 両断された枝の先で、奇妙な悲鳴が上がる。よくよく見ると、そこには顔のようなものが。

 植物型の魔物ではなく、その正体は枝に擬態した昆虫のような魔物だった。

 口と切断面から緑色の体液を撒き散らし、間もなく絶命はしたが、木の枝に化けて不意を突くとは厄介な魔物だ。


 琢郎はそれから探索をより慎重にする。

 さらに2匹の同じ魔物を退治しつつ、見覚えのある果実を2,3見つけてリリィのところへ持ち帰った。


「……待ったか?」


 思ったより戻るのに時間がかかってしまったが、元の場所で待っていたリリィの顔色は休んだおかげか少しだけ良くなっている。


 琢郎が採ってきた果実とパンを食べてゆっくりと休息をとり、再出発後もほとんど加速せずにこの日は次の町まで行ってそこで1泊した。

その4は……ないです。

とりあえず次サブタイは変えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ