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69. 逃避行 その1

 リリィの同行という望外の展開となった琢郎は、その日のうちにリリィと2人で大まかな荷物を纏め、翌早朝には棲家を捨てて新天地へと旅立つ――はずだった。


 問題が表面化したのは、朝になって最後に使った寝具や、出発前に軽い朝食のために片付けずに置いていた食器などをあらためて纏めた時のことだった。

 全くの予想外の事態ということではなく、夜に荷物を纏めていた頃から薄々こうなる予感はあったのだが。


「これは、ちょっと……」


 リリィとの暮らしのためにと買い足した物も多いせいか、いざ纏めようとすると荷物がかなり多くなっていた。

 あるだけの袋類を総動員すれば詰め切れないということはないが、収まりは悪い。これで遠くの町まで行く、それも1人旅でなくリリィを連れてとなると尚更だ。


 そのため、相談の結果トラオンの様子の確認も兼ねて、急ぎ大きくて丈夫な荷物袋を買いに琢郎は町へ向かった。

 朝一でリリィに教わった店で袋を買うが、町の噂にはすでに動きがあった。


「ルモワーニュ氏の主導で、冒険者の募集が始まったってよ」


 というのが新たな噂の主な内容だ。

 ただし、噂が事実になりつつあるとはいえ、まだ募集の段階。このまま帰ってすぐに出発すれば、さすがに冒険者と遭遇することはないはずだ。


 その考えに基づき、棲家に戻った琢郎は買ってきた大きな背負い袋に荷物を詰め直すと、早々に出発する。


<石壁>(ストーン・ウォール)! <地槍>(アース・ステーク)! <落穴罠>(ピット・フォール)


 棲家を後にするに際し、外側から入り口付近に向けて地属性の魔法を乱発する。岩の割れ目を崩して、棲家を壊してしまうためだ。


「もったいないというか、名残惜しいような気もしますね……」


 しばらく生活していた場所が崩壊するのを見て、リリィが呟きを洩らす。琢郎にも同じような気持ちはあったが、後に冒険者がここいらに来ても生活の痕跡をなるべく残さないためには仕方がなかった。


「……じゃあ、出発するか」


 買ったばかりの袋にいっぱいに詰め込んだ荷物を背負い、琢郎はリリィに手を伸ばす。

 荷物の大半は琢郎が持っているが、以前取りに行ってもらったバッグや自身の着替えなどはリリィが自分で持っていた。

 空いた方の手をしっかりと握り、半ば彼女を抱きかかえるような格好で、移動のための魔法を唱える。


<風加速>(フェア・ウィンド)


 荷物の多さに加えて、リリィもいるため速度はかなり抑え目だ。進路は西。まずは、今日中にテルマの向こう、まだ行ったことのなかったツーデの町に向かう。

 途中までは、同じようにリリィを連れて行ったこともある、新しい食材の採取場所へのルートをそのまま通ったために何の問題も起こることなく進むことができた。


「ちょっと、ここで昼食を兼ねて休憩しようか」


「あ、はい」


 今回の事態が生じたために、結局数えるほどしか活用することのなかった新たな採取場所まできたところで、琢郎はリリィを一旦下ろす。

 道中は順調だったが、出発時間が一度トラオンに行って遅くなったために、すでに太陽は真上を過ぎている。採取のためにこの場の安全は確認してあるので、一度休憩を挟むにはちょうどよかった。


「……せっかくだからな。最後にここで昼の食材を集めよう」


 そうは言っても、荷物を解いてあまりちゃんとした調理はできないため、探すのはそのまま生で食べられる果実が主だ。

 それに琢郎が火元素を集めた手で軽く炙ったパンと干し肉で、簡単な昼食を終えて再び西に向かう。


 この先は琢郎1人ならまだしも、リリィを連れての安全は確認できていないために、移動の速度はさらに落ちた。

 例の植物型の魔物の臭いを感じて迂回したり、魔狼にも一度襲われそうになったりもした(魔狼は接近される前に琢郎が魔法で何とかした)。


 それでも、日が残っているうちに琢郎はリリィを連れて、先日の商人襲撃を行った場所のさらに西側で街道に出ることができた。

 道に出る前にいつものように、琢郎はフード付きのローブで正体を隠してある。多分もうかなりツーデの町に近いところまで来ているはずだ。

 日が残っていると言ってももうだいぶ辺りは赤くなっていたが、そこからあらためて<風加速>(フェア・ウィンド)で加速すると、日没により町の門が閉められてしまうよりも早くツーデの町に辿り着くことができた。

その2に続く。

ツーデは目的地ではなく、あくまで通過点。人間寄りのルートになってしまったので、新たな舞台はより大きな街を目指します。

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