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68. リリィの提案

某症候群、成就?

「……タクローさんは、これからどうするんですか?」


 しばらく考えた後に、リリィは返答ではなく逆に琢郎がどうするつもりなのかを訊ねてきた。


 なぜかとは思ったが、それを知ったところで陥れられることもないだろう。琢郎はその問いに正直に答える。

 もっとも、当分はここでリリィと暮らすつもりであったために、ここを離れた先のことなど考えていなかった。そのため、たいした答えを返すことはできなかったが。


「そうだな。……多分、街道には出ずに山中の森を抜けて、まずはまだ行ってなかったツーデとかいう町まで行くと思う。そこからは街道を通って、またどこかここみたいに棲家にできる場所を探すんじゃないか?」


「そこでまた、同じことをするんですか? 森で食べる物を採ったり、……お金がなくなったら、人から奪ったり」


「いや、もう強盗紛いの真似をする気はないって。さすがに懲りた」


 別の場所へ行っても、ここでの繰り返しになるのではと危惧するが如きリリィの発言を、琢郎はきっぱり否定する。

 今この場所を追われようとしているのも、それが原因となったのだから当たり前の結論だ。


 倫理的な障害はリリィと別れることでハードルは下がるかもしれないが、やはりオークの姿を人目に晒すことのリスクが大きいことは思い知った。

 一所に留まることをせず、旅を続けて各地を移動し、路銀が尽きれば金を奪ってまた別の地へ、というスタイルなら可能かもしれない。だが、性格的な面もあってできれば安住の地は欲しい。


 現状、再び強盗紛いの行為で金を得ようというつもりはない。それに代わる金策は、今のところ浮かんではいないが。


「でも、タクローさんは他にお金を稼ぐための方法、まだないんですよね?」


 リリィにもその点を指摘されて、琢郎は言葉に詰まる。


「……それだと、やっぱりいつか同じことになると思います。今はまだいいですが、冬には森で採れる食べ物なんて凄く減ってしまうはずですし」


「あ。そ、そうか……」


 季節のことを失念していた。

 成体になるまでは洞窟暮らしで外に出ることもなかったために、この目で確かめることはなかったが、こっちの世界にも季節の変化というものがあっても当然だった。


 たしかに冬になれば、森での食料の確保は今より困難になると予想できる。他のオークがどうしていたかは、季節が変わるのを待たずして巣が壊滅してしまったために知る由もない。

 そうなれば、足りない分は町で買って補わざるを得なくなり、金の消費も大きくなる。それまでにまた別の金策を思いつけばいいが、そうならなければリリィの予測が現実となる可能性は高い。


 だが、どうすれば?


「リリィには何か考えがあるのか?」


 しばらく生活を共にした琢郎に、餞別代わりに何かいい案でも授けてくれるのだろうか。そのために、琢郎がこれからどうするつもりか確かめたのか?


 この話の行き着く先を考えていると、再びリリィが口を開く。


「さっき、わたしのことはもう信用してくれているって言いましたよね?」


「え? ああ、もちろんだ」


 確認するように訊かれて、琢郎ははっきり頷きを返す。

 仮にこれから教えてくれる案が失敗しても、恨んだりはしない。まして、意図的に琢郎に間違ったことを教えるなどとは考えられない。

 そんな思いを込めて琢郎が首を大きく縦に動かすと、リリィはいよいよ本題を口にする。


「……だったら、わたしも一緒に連れて行きませんか?」


「……えッ?」


 願ってもない申し出。何かを決意したような顔を見ても、冗談の類だとも思えない。

 しかし、その意図を掴むことはできずに、琢郎は思わず聞き返してしまった。


「わたし、考えたんです。タクローさんがわたしを信じてくれるなら、他にもお金を稼ぐ方法はいくらでもあるんじゃないかって」


 琢郎の疑問を受け、リリィはその考えを語り始める。


「タクローさんは本来ならお金を稼げる力はあるのに、人前で顔を出せないことでその力をお金に換えることができない。だったら、わたしが顔を出さなきゃいけない部分を代行すればいいんです。もっとも、わたしがそれで得たお金を持ち逃げしたり、タクローさんのことを町の人に訴えたりしないってことを、もし信じてくれるのなら、なんですが」


 たしかにその方法なら、琢郎が獲ったものを町で売ることもできなくはない。金と命をある程度リリィに預けることにはなるが、そこは疑わなかった。これでリリィに裏切られるなら、それだけでもう死にたくなるだろう。

 それに何より、リリィと離れることなくまだ一緒に過ごすことができる。この提案を断る理由は、どこにもなかった。


「けど、リリィはそれでいいのか?」


 これまでの生活は琢郎が強制したようなものだったが、今後はリリィが自分の意思で琢郎と行動を共にしてくれることになる。


「いいんですよ。どうせ、行くあてもなかったですし。それに、タクローさんが悪い人じゃないのは、これまで一緒にいたのでわかります。わたしが手伝えば悪いことをせずにすむなら、そうしたいじゃないですか」


 琢郎にばかり都合がいいような気がして、その意を再度確認せずにはいられなかったが、返ってきたのはリリィの微笑みだった。

構想時ではここで一時離別のルートだったんですが、ここまでがだらだら長くなりすぎたこともあって、同行ルートに変わりました。

この変更が今後にどう出るか……

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