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63. 不意の遭遇

 魔狼を倒した後も、琢郎は周りに生える植物の種類を確かめながら、少しずつ棲家のある東の方へと進んでいく。

 しかし、山を越えて環境が変わると森の様子も少し違うものになってしまうものか。なかなかこれは、という場所は見つからない。

 探索範囲を広げようと、南側にも少し足を伸ばすことに。


 そんな時だった。

 まだ距離はあるが、何か大きな生き物がだんだんこちらに近づいてくる気配を、琢郎は感じ取る。

 おそらくはまた魔物の類だろうと、そちらに向き直って身構えたのだが、


「……ったく、よぉ……」


「…………ぁぁ……」


 風に乗って、草を掻き分ける音と共に聞こえてきたのは、大陸共通語での話し声。

 多少町のある方には近づいていたが、まだまだこんな森の奥深くには、人が入り込むことなどないはずだった。

 まずいことに、森の探索だけで人前に出るつもりなどなかったため、今日に限ってフード付きのローブを持っていない。姿を見られてしまえば、完全にアウトだ。

 琢郎は慌ててその場で身を屈める。


<透明化>(インビジブル)


 さらに、小声で魔法を唱えてその姿を見えなくした。

 物音だけで、こちらから相手の姿は見えなかった。なら、向こうからもこちらの姿はまだ見えていないはず。


 逃げてこの場を離れようかとも思ったが、<透明化>(インビジブル)で消えるのはあくまでも姿だけ。この森の中で、かつ急ぎつつも音を立てずに移動するのは至難の業だ。

 幸い、こちらに近づいているといっても、まっすぐに琢郎のいる場所に向かっているわけではない。おそらく、ここから10メートルほど先を斜めに通り過ぎるような形になるだろう。


 このままここで、じっと息を潜めてやり過ごすのが最善と思えた。


「…………んなん、絶対ムダだろうがよ」


「……いない、ってことを確かめるのに意味があるんじゃ?」


 近づくにつれ、声も次第にはっきり聞こえてくるようになる。

 そして、木々の向こうにとうとう彼らの姿が見え始めた。


 こんな森の奥まで踏み入ってくるような奴らだ。思った通り、冒険者と思しき格好をしている。

 革や金属の鎧に身を包み、剣や弓で武装した4人組の男たちだった。

 リーダーらしき一番立派な鎧を着けた先頭の男が持つ、抜き身の剣に血の跡が残っているのは、ここに来る途中で魔物と遭遇してこれを倒した時のものだろうか。


 彼らは何かを探している――聞こえた話からすると、見つかるとは思っていないようだが――様子で、辺りを見回しながらゆっくりと進んでいる。

 何度か彼らの視線が琢郎が身を潜める場所を通り過ぎたが、<透明化>(インビジブル)で姿を消した琢郎に気づくことはなかった。


 数本の木を挟んで琢郎の前を横切り、そのまま傾斜の付いた森のさらに奥へと通り過ぎていく。やがては木々に隠れて姿が見えなくなり、木の枝や草を掻き分ける音も届かなくなった。


「…………ふぅぅ」


 万が一にも見つかってしまえば、武装した相手の格好からして戦闘になることは必至。

 音が聞こえなくなってからも、念を入れてさらに数分のあいだ息を殺し続けた琢郎は、ようやく安堵の息を吐いて額に浮いた汗を拭った。


 とりあえずやり過ごすことはできたが、これからどうしたものか。

 食材の調達場所探しを再開する気は、さすがにもう残っていない。このまま今日は棲家に帰りたいところだが、下手なルートを通れば再びさっきの奴らと接近してしまうこともあり得る。


 棲家はここから東北東にあるが、奴らが通り過ぎていったのも北東方向だ。まっすぐ棲家へ向かうことには躊躇いを覚える。


 かといって、南に進むのもまずい気がする。森に入っているのがさっきの奴らだけならいいが、その保障はない。

 もし他にも森に入った人間がいるなら、町に近い南に行けば行くほど出くわす可能性が高くなるだろう。


「……残るは西、か」


 消去法でいけば、当然そういうことになる。だが西へ進めば、帰るべき棲家からはどんどん遠ざかるばかりだ。


 もう1つだけ、思いついた選択肢がないこともない。それは、この場を動かないというもの。

 このまま姿を消した状態を維持し、先ほど通り過ぎた連中が引き返してきて安全になるのを待つ、という策だ。

 だが、それがいつになるかはわからないし、何かを探しているのならば、行きと同じ場所を通って戻ってくるとも限らない。むしろ、帰りは別のルートを通る可能性が高い。

 いつまで待てば安全と言えるようになるかは、見当もつかなかった。

久しぶりの脅威との遭遇です。

動くか、留まるか。琢郎がどちらを選ぶのかは次回を乞うご期待。

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