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62. 変化の兆し

さっさと展開を先に進めるか、もう少し親しくなる日常の様子を描くか……

 結果的にはリリィとの親密度も前以上に。

 資金難も解消され、パンを買う金にはしばらく困ることはない。

 まさに順風満帆。当分は今の生活を、このまま続けることができるだろう。


 あの晩、タルトを2人で食べた後で、琢郎はそう思っていた。

 ところが現実は、数日も経たない内に生活の変化を求めてきた。


 その1つは、午前中の食材探し。

 利便性(リリィの移動の負担や安全等)を考え、棲家を下りた近い場所にある森の一部を、もっぱら採取場所にしていた。だが、比較的狭い範囲、そして当たり前だが森に生えているのは、可食性の植物ばかりではない。


「そろそろ、いいのは少なくなってきちゃいましたね」


 かれこれ1週間ほども採り続けていると、必然としてリリィの言ったような状況になる。

 最初のころに見つけて、まだ小さかったり熟していなかったりして、あえてその時は採らなかったものも少なくない。そのため、まだ採り尽くしたと言うまでには至っていない。

 しかしこのままいけば、いずれはそうなるだろうことは、想像には難くなかった。


「今日の午後は、足を伸ばして他の採取場所を探してみようと思う」


 そのため、この日の昼食の席で琢郎は、リリィに自分の考えを伝えた。


「わたしも、それがいいと思います。それで、もし新しい場所が見つかったら、わたしはどうすればいいんですか?」


 これまで通りにリリィをその場所まで連れて行くのか、それとも遠出はさせずにリリィには棲家に残ってもらうのか。


「場所にもよるんで、見つけてみないと何とも言えないなぁ。リリィの希望はどっちなんだ?」


「……そうです、ね。できれば、これからも連れて行って欲しいです。食材探しは、わりと楽しかったですし」


 自分の意見や希望も、訊けばこうして答えてくれるようになった。遠くまで連れて行くとなると、琢郎が彼女を抱えて運ぶことになるが、それも気にしていないらしい。

 琢郎は少し嬉しくなって、


「だったら、なるべくリリィを連れて行けるかどうかも考えて、新しい場所を探して来よう」


 と言って、残りの食事を気持ち程度急ぎで平らげた。



<風加速>(フェア・ウィンド)!」


 食後の後片付けを終えると、琢郎はリリィに見送られて出発した。

 障害物が少ない方が速度を出しやすいため、下の森へは下りず、山肌が比較的多く見える場所を通って西の方へと向かう。そのまま一旦、テルマの北辺りまで一気に進んだところで、斜面を下って植物の多い森に。

 そこから、これまでリリィに教わった知識を基に、棲家の方向へ戻るかたちで食べられるものの多い場所を探し始めた。


 森といっても、あまり町に近い場所では人間に出くわす可能性も残る。だが琢郎が探している辺りならば、町に住む人が森の恵みを採りにここまで足を運ばないはずだ。


「グルルルル……!」


 その大きな理由である魔物である魔狼が1匹、唸り声を鳴らして近づいてくる。今日は魔除けの枝を持っていなかったために、遠慮なしに飛びかかってきた。


<石壁>(ストーン・ウォール)!」


 魔狼の鋭い牙と爪が琢郎に届くより早く、間に出現した石の壁によってそれらは阻まれる。


<地槍>(アース・ステーク)!」


 続いてその壁を地面に見立てて石の錐を、通常の垂直方向ではなく水平方向に飛び出させる。

 突進攻撃を受けた場合の、近頃お気に入りのコンボだ。


 壁の石を錐に転用するため、次の攻撃を受ければ壁はかなりもろくなってしまっているが、それは次の攻撃があればの話。

 現に今も、壁に衝突してそのすぐ向こうにいた魔狼は、直後に突き出した錐によって頭を貫かれて絶命していた。


「こいつを倒せば、この辺は割と安全なんだろうけど……あんまいい場所じゃないなぁ」


 すでに死んだ魔物をもはや気にもとめることなく、琢郎はあらためて周囲に生える植物を見回したが、残念そうに肩を落とした。

 魔狼と呼ばれていても、習性は狼と異なり、群れを作らず個々に縄張りを持つ。ゆえにその縄張りの主を倒してしまえば、しばらくそこは安全な場所と言えるのだが、食べられる植物で味のいいものは、パッと見ほとんど辺りにはない。


「しゃあない。場所を変えるか」


 どのみち、できれば棲家に近いに越したことはない。

 さっさとこの場所をあきらめると、琢郎は再び棲家の方へと森の中を進んでいった。

少し展開に迷いましたが、前がやたらダラダラ長引いてしまった反省から、先に進める方向へ。

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