60. 花とお菓子、日用品も
実質、その3。
この後に夕食用の食材集めの必要もあったが、まずは棲家へ。
町で買い物してきた荷物が邪魔になるし、何よりリリィに買ってきた土産が台無しになってしまっては大変だ。
「あッ、おかえりなさい。今日は昨日とは逆で早いんですね」
「いや! 今日は違うぞ。ちゃんと……って言うのもおかしいかもしれないが、昨日の金で買ってきたものだから!」
リリィに他意はなかったのだろうが、昨日と比較したようなことを言われた琢郎は、勝手に後ろめたい気分になって思わず声に出してしまう。
訊かれてもいないのに、1人で言い訳するように持ち帰ったのは町で買ってきたものだと主張したのだが、
「いえ、そのッ……そんなつもりで言ったわけじゃ……」
空回りの弁明でかえってリリィを困惑させてしまった。
気を取り直すと、改めて琢郎は町で買ってきた物を取り出し、リリィに渡していく。
「とりあえず、なくなってしまう前にこれを」
まず取り出したのは、調味料の入った小瓶。続いて、
「鍋1つだと複数の料理に火を通すのが大変そうだったんで、もう1つ買ってきた」
リリィが今使っているものと比べて、一回り小さな鍋を渡す。
「あとは、これ。包丁。骨製のナイフはもうかなりガタがきてるだろ。代わりになるのを買ってきたから、今度から使ってくれ」
代わりと言っても、骨を削って作ったようなものではなく、ちゃんとした金属製だ。今度は簡単に痛まないよう、頑丈で肉厚なものを選んである。
刃部分に革製の鞘が付いたそれを渡そうとしたのだが、リリィは受け取るのを躊躇った。
「え? いいんですか、これ?」
意図がわからず、琢郎が先を促すと、
「……だって、わたしがここで暮らしているのは、タクローさんのわたしへの信用が不足していたからじゃないですか。こんなちゃんとした刃物を渡したら、わたしが変な気を起こすかもとは思わないんですか?」
あまり考えていなかったことを言われてしまう。
たしかに、使いようによっては立派に武器にもなるだろう。隙をついて急所を思い切り刺されでもしたら、致命傷にもなりかねない。
もっとも、理屈では可能だからといって、リリィがそんなことをするとは今さら思わなかった。
「それは大丈夫だろ。元々、俺から逃げても町まで無事に帰り着けるかって問題があったし。第一、もしその気があったらここでそれを言うはずもない」
心情面に限らず、理屈の上でもありえない話だ。
「そもそも、俺が信じきれないのは目の届かない場所に別れてからの心変わりであって、共に暮らす分には俺の方は何も心配してはいない」
目が届かなくなるような場所に帰すつもりは今はないが、そこまではさすがに口に出せない。
それでもリリィへの信用は十分に伝わったようで、改めて差し出した包丁は、今度はちゃんと受け取ってもらえた。
もう十分距離は元に戻ったようにも思えるが、これではまるっきり包丁が贈り物だ。別に土産として買ってきたタルトも、それはそれできちんと渡すべきだろう。
包丁を渡した後も、町で買ってきた荷物を取り出しては棲家に運び入れていく。
タオルか雑巾のように使えればと考えた綿の布や、琢郎のサイズに合わせてあるのでリリィには大きすぎるものの、使えなくはない雨具など。リリィにも需要がある物については、1つ1つ説明しながら渡して一緒にしまう。
古着屋で買った琢郎自身の着替えなどはその必要もないので、自分で奥のスペースに運んだ。
そうして、他の物は全て棲家へとしまった後で、満を持して土産のタルトが入った箱を取り出す。
「実は、リリィにちょっとした土産も買ってきてあるんだ」
これを渡すことで、さらに一歩リリィとの距離を縮められるかもしれない。そんな期待も少しだけ抱きつつ、箱を開いて中を見せた。
「せっかく金ができたんだから、服とか装飾品なんかも考えたんだが。俺だと、どれがいいかいまいちよくわからなかった。お菓子だったら、今まで作ってるのを見たことないし、いいんじゃないかと思って」
運ぶ時にも注意していただけあって、タルトの形が崩れるようなことにはなっていない。
もちろん喜んでもらえると思っていたのだが、それを見たリリィの表情は琢郎の思いもしなかった形へ変わっていった。
我ながら、またひどい引き伸ばし。
てか、ファンタジーどこいった?
リリィの意外な反応は、また次回で




