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53. 2人の新生活

時間は少し飛びます。

「ふぁ、ああぁ……」


 棲家の奥の自分の寝床で目を覚ました琢郎は、伸びをしながらゆっくりと身を起こす。

 入り口の辺りに差し込んでいる光からして、もう朝になっているようだ。


 同居人ができたことで新たに広げたスペースは草を編んだカーテンで仕切られていて、その向こうではリリィがおそらくまだ眠っている。

 起こしてしまわないよう、彼女が寝ているのとは反対側の壁に沿うようにして外へ出た。


 朝日を浴びながら、元素操作で両手に生み出した水で顔を洗い、意識をしゃっきりさせる。



 琢郎がリリィとの共同生活を開始して、丸3日が過ぎた。

 ようやく落ち着いてきたというか、棲家に物や設備がいくつか増え、生活のパターンのようなものもある程度固まってきたように思える。


「よし。んじゃ今のうちに、一回り確かめてくるか」


 新しくできた習慣の1つが、獣の肉を確保するための罠の設置だ。

 これはリリィとの同居というより、棲家に定住することで可能になったことだが。元は群れと一緒に巣にいた頃にもやっていたことで、拠点ができたことで再度始めることができるようになったというわけだ。


 仕組みはかなり単純。

 元素操作で落とし穴を掘り、その底に鋭く削いだ木の枝や尖った石を設置。その上に同じく元素操作で、何かが上に乗ったら抜け落ちる程度に薄く土で穴を覆い隠すだけ。


 そう成功率の高い代物ではないが、数を用意すれば運よくかかっていることもある。


「今日の成果は兎が1羽、と。やっと収穫が上がったな」


 初日に森の中で5つほど仕掛けたが、何もかからず。

 落とし穴の数を倍にして翌日に確認すると、1つに何かがかかった痕跡はあったものの、琢郎が来る前に他の獣に食い荒らされてしまっていた。

 ようやく今朝になって、成果を上げることができた。


 兎を回収しての帰り道。

 昨日までにリリィに教わった知識を基に、甘い果実をいくつか見つけて風の刃を使って落とし、朝食用に持ち帰る。


「あ……おはようございます、タクローさん」


 棲家に戻ると、琢郎が外している間に起きて身支度を整えたリリィが、朝食の用意に使う道具を持ってその前で待っていた。

 収穫物を彼女に渡し、リリィが果実を切り分けている間に琢郎も別の用意に手を伸ばす。


 コップに新しい水を注ぎ、さっき採ってきたのとは別の酸味の強い柑橘類の搾り汁を混ぜて果実水を作る。この作り方も、リリィに教わったものだ。


 次いで、1人1個ずつパンを取り出して手の中で炙る。干し肉も何切れか温める程度に火を通したところで、切り分けが終わったリリィのフルーツと互いの分を交換した。


「タクローさん、さっきの兎ですけど……」


 今日の予定や、琢郎が獲ってきた兎の調理法などを話しながら、簡単な朝食を食べる。

 昼や夜の食事の際はリリィが町で暮らしていた頃の思い出を含めたトラオンの町の話なんかを聞くことも多いが、朝はだいたいその日のことについての話題が多い。


 食事が終わると、リリィはその後片付けと昼食の下ごしらえ。

 琢郎は棲家の中にある水瓶(みずがめ)の水を入れ替え、この後の本格的な食料調達のために荷物置きから袋を用意する。

 ついでに、果実の皮や草の切れ端などのゴミを纏めて焼却処分をしながらリリィの方の作業が終わるのを待った。


「す、すみません。お待たせしました」


 ようやく支度を終えたリリィを連れて、琢郎はほぼ崖と言っていい急斜面を下って森に向かう。


 初日以降、午前中はリリィを指南役に伴っての食料調達が習慣となったが、向かう先は初日とは微妙に方角が異なっていた。

 より多くの知識をリリィから教わるためにも、徐々に探索範囲を広げていたが、一昨日に偶然見つけた場所は中でも特別な成果だった。


「よい……しょっ、とぉ!」


 初日の場所からはいくらか西に進んだこの辺りには、ジャガイモによく似た芋が群生している。

 これを見つけたおかげで、多少だがパンの消費を抑えることもできるようになった。


 琢郎がそれを掘り返している間に、リリィは近くにある長い茎が真っ直ぐ伸びた別の草を根元から刈って集めていた。

 これは食用にはならないが、繊維がしっかりしていてかなり丈夫だ。棲家でリリィ用のスペースを仕切っている草のカーテンも、これを編んだものだった。


 昼食後は町に買い物に出たり、猪のような大きな獣を狩りに行ったりと、琢郎は1人やや遠くまで出かけることにしている。

 その間、一緒に行けないリリィは棲家で1人残らざるを得ない。草のカーテンも、その時間を有効に用いるために編んだものだ。

 他にも、琢郎が獲ってきた肉の一部を干し肉にしたり、琢郎がいない間に洗濯をしたりして午後の時間を使っているらしい。


 芋の他にも茸や野草、果実類なども採っては琢郎の担いだ袋に入れていく。

 そろそろ教わることも少なくなってきたが、今日は単体では苦味が強いが、獣肉に合わせると肉の臭みを和らげるという葉っぱを新たに見つけることができた。


「そろそろ、戻って食事にするか」


 森の中だと樹に遮られて分かりづらいが、おそらく太陽がほぼ頂点に昇った頃だろう。

 そう判断して、今日の食料調達の打ち切りを提案する。


 2人で集めた採取物を入れた袋とリリィを両方抱え、琢郎は下りる時と違い斜面が比較的上りやすい場所を選んで棲家へと戻った。


「では、これから食事の支度をするので、しばらく待っていてください」


 リリィの午後の作業用の草など、すぐには使わないものを棲家に置いて、代わりに鍋などの調理道具を持つと、少し離れた調理場へと移動する。


 琢郎がいない間もこの場を使いたいとリリィが言うので、途中の険しい場所は彼女だけでも通れるように手を加えた。

 時間をかけて元素操作で地形をいじり、太い樹を風魔法で切断して作った板を渡したりもして、琢郎が手を引かずともリリィ1人で行き来できるようにしてあった。


 肉と野菜の炒め物。芋を潰して作ったスープに、茸と野草のサラダ。

 琢郎が町で買ってくるよう頼まれたものの中に調味料の小瓶もあって、味付けも含めてリリィの作る料理の幅は広がっている。


「……っても、こんな生活もっと続けようと思ったら、どうしても必要になってくるものがあるよなぁ」


 料理を作るリリィの姿を少し離れた位置から眺めながら、琢郎は彼女に聞こえないような小さな声で呟きを漏らした。

2人になった生活の様子をまずはさくっと……のはずが、例によって長い!

1日の流れを語った上でこの生活を続ける不安を出すはずが、半日足らずで1話埋まってしまいました。

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