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51. スニーキングミッション、開始

「あ……あそこに生ってる実は生でも大丈夫です」


「その茸は煮るとおいしいです。ただ、よく似た毒茸もあって、見分け方は……」


「これは、葉も食べられますが、んっ……この根っこの方が……」


 指差した実を魔法で落とし、茸の見分け方を頭に入れ、引き抜こうとしてうまくできずにいるのを途中で代わって人参に似たものを土から引っこ抜く。

 リリィにあれこれ教わりながら、琢郎は食材を集め続けた。


 森に下りる際には、今度はちゃんと同意を得た上でリリィを抱えるようにして琢郎が運んだ。安全のため、棲家を離れる前にリリィの腰には魔避けの枝が1本差してある。


「ひゃッ!」


 だが、聖木が寄せ付けないようにするのは、あくまで魔物。魔ではないただの動物とは遭遇することもある。

 野草を探していたリリィの目の前に、樹上から1匹の蛇が降ってきた。


<風刃>(ウィンド・カッター)!」


 それ以上近づいて彼女に何かする前に、琢郎がその蛇の首を魔法で飛ばす。


「ちょうど肉っ()がなかったんだ……これも食えるか?」


 頭を失ってもまだ動いている胴体を掴み上げて訊いてみると、


「え? えっと……多分ですが、大丈夫だと……」


 さすがに積極的ではないものの、一応肯定の答えが返ってきた。これで、動物性の食材も確保。

 さらにいくつか野草や小さな芋を集めたところで、ひとまずは十分だろうということになった。



 一度棲家に戻ると、鍋や塩、コップなどの食器を持ってから昨晩も使った調理場へ向かう。


 できた料理は、野菜や茸を茹でたり焼いたりしたものと、鰻のように開いたあと串に刺して焼いた蛇の肉だった。

 そこにパンと、そのままでも食べられる木の実がいくつか加わって昼食となった。


「その、これはどうぞ……タクローさんが食べてください」


 蛇の肉は、他のおかずが基本的に野菜類ばかりなので分けようと思ったのだが、固辞されたため琢郎が1人で食べることになった。形は蒲焼きに似ていたが、味付けは塩だけなので思ったよりあっさりしていた。


 塩以外にも、できれば他の調味料も欲しいところだ。

 ただ、もう手持ちの金は少ないので、人数に伴い消費も増えたパンの追加を買ってくるのがせいぜいなのだが。


「あ、あの……」


 食後、午後はそれで町に行くことを告げると、リリィが同行できないか申し出てきた。


「いや……それは無理だ。それができたら、初めからこんな生活する必要がない」


 当然、琢郎は断ったが、理由を聞けばここで暮らすにあたって、できれば服などの身の回りの物を取って来たいということだった。


「やっぱり、わたしが取りに行くのは、無理……ですよね。だったら、タクローさんが持ってきてもらえませんか?」


 ならば、と次善の案をリリィが口にする。曰く、元々世話になった人のところから近く出て行くことになっていたので、すでに大抵の荷物は纏められているということだ。


 部屋の場所は教えるので、琢郎に忍び込んでそのバッグを持ち帰ってもらいたいのだそうだ。ついでに、金もわずかだが入っているので、それで買って欲しいものもあるという。


「……わかった。俺が行こう」


 たしかに、うら若き少女を着たきり雀で軟禁するのは琢郎も気が咎める。自身が前世から服にあまり構わなかったために失念していたが、言われて気づいた。


 また、買ってきて欲しいというものも、ここでの生活をしやすくするのに必要なものだ。あまり無理を言うならともかく、こちらの都合を強いている以上は、琢郎が代行するくらいなら聞いてもいいと思えた。


「じゃあ、場所を教えてくれ」


 そうと決まれば、詳しい場所をさっそく聞いていく。

 リリィは昨日、もうすぐ引き払う予定の部屋を出たまま戻っていない。

 あまり時間がたってしまえば、何かの事故や事件に巻き込まれたと疑われたり(事実その通りだが)、荷物を置いていったと判断されて処分されてしまったりしてその回収が難しくなるかもしれない。

 そうなる前に、なるべく早く向かう必要がある。


 できれば、その時リリィの書き置きでも代わりに残してやれればよかったのだが、筆記具は最初に荷物を拾った中にあったものの、不要と思って捨ててしまっていた。


「……黙って荷物を持って姿を消す格好になるな。世話になった相手に不義理をさせる形になって、すまない」


「だ、大丈夫です。後からでもちゃんと説明すれば、きっとわかってくれるはずですから」


 そんなやり取りを挟みつつ、リリィの住んでいた家のことと買い物をする店の場所を詳細に聞いた琢郎は、棲家にリリィを置いてトラオンの町に向かう。


 いつも通りにローブで姿を隠して町の中に入り、リリィに教わった地区へと進んだ。大通りから少し外れているため、人通りはそう多くはない。


「えぇ……と。あ、あの家か」


 聞いた通りの外観の家を見つけると、さらにその裏手へと回る。人目がないのを確認して、久しぶりに使う魔法を唱えた。


<透明化>(インビジブル)

タイトル通り本当に「開始」までで終わってしまいました。

ミッション本番はまた次回(10日夜~11日更新予定)に。

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