49. 目指せストックホルム
タイトルがネタバレというか誤用というか……
言い終えた瞬間には、愚劣なことを口にしてしまったと琢郎は後悔していた。
「お前のことが信じられないから、信じられる方法を考えろ」
そう言ってしまったようなものだ。問題はリリィよりも、彼女を信じきれない自分自身の方にこそあるというのに。
昨日から少しずつでも距離を縮めてきたつもりだったが、それも全てご破算になってしまったかもしれない。
誰も自分を信用できないと言う相手に、信用を返したりはしないだろう。
「え……? そ、そんなことを言われても……」
案の定、琢郎の言葉を聞いたリリィには強い困惑が見て取れた。
だいたい、自分で言っておいてなんだが、信用できない相手に意見を求めたところで、それが素直に受け入れられるとは考えられないだろう。あんなことを言われたでは、どう答えたものか困るのも無理はない。
「……あっ。そ、そうだ!」
と思ったのだが、何かを思いついたのか、不意にリリィの顔が少し明るくなる。
「わたしには縁のない世界の話なので、詳しくは知らないんですが……たしか、国や大きなお店とかが大事な取引をする時に、魔法で約束を破ったら罰があるようにできるってことがあります。……その魔法で、わたしがタクローさんに嘘をつけないようにするってことはできないですか?」
意外なことに、それでもリリィは琢郎のための提案を出してくれた。琢郎が彼女を信用できる、疑う余地をなくすことができるための方法を。
ただ、残念なことに、
「……無理だ。確かにそれならリリィを疑わずに済むと思うが、俺はその魔法が使えない」
念のため『特殊表示』で再度自分の使える魔法の一覧を確認してはみたが、リリィの話に該当しそうな魔法はやはり存在しない。
「うぅ……そう、ですか……」
せっかくの提案だったが、実行不可能な方法ではどうしようもなかった。
「……でしたら後は、もうしばらく一緒にいて、わたしがタクローさんに嘘をついたりだまそうとしたりしない、と時間をかけて納得していただくしか……」
「いいのか、それで?」
帰すことができない以上、もうしばらくここに残ってもらわなければならなかったが、リリィの方から言い出すとは思わなかった。
「……そうするしか、ありませんし」
曰く、リリィを殺したり酷いことをしたりするつもりだったならば、どのみち彼女に抵抗する術はない。仮にここから逃げるか、琢郎に放置されるかしたところで、無事に町まで帰ることができる能力もない。
生きるためには琢郎の助力が必要であり、出会ってからの対応や彼女を信じきれずにいることを馬鹿正直に相手に言ってしまったことを含めて、リリィの方ではできる限り琢郎を信用したいとのことだ。
「……でも、やっぱり、その、まだちょっと怖い……です。それでも、だんだん慣れていきたいとは思ってますので……タクローさんも、少しずつでもわたしを信じてもらえませんか……?」
「本当に、リリィがそれでいいなら。ここにしばらく残ってくれ。俺だって、時間を重ねる間に少しは考えが変わるかもしれない」
こういうのを何と言ったか。
ストックホルム症候群だっけ?
あれは、犯罪の被害者が加害者に対して親しみを感じるようになるんだったか。どちらかと言えば逆のような気もするが、そもそも最初はリリィを助けようとしたのがきっかけなんだし、それも違うように思う。
「……まぁ、それはいいや」
誤用だろうが、他にそれっぽい言葉も知らないし、確認の術もない。
自己完結して結論だけを口に出した琢郎を、リリィは不思議そうに見てきた。
そんな彼女に向かって、
「それじゃあ、悪いが当面はここで過ごしてもらおう。よろしく頼む」
右手を差し出し、反応を待つ。出した後で、握手の習慣がこっちにもあるのかどうか疑問に思ったが、さっきの言葉通りまだ怯えがあるのか、おずおずながらリリィの右手も前に出された。
「よ、よろしくお願いします……」
琢郎がずっと気を遣っていたため、手が直に触れるのは意識のないリリィを棲家へ運んだ時以来だ。
それも、今度はリリィの方から手を伸ばしてという形。それだけで信用できるようになるほど単純ではないが、琢郎は握手を交わしながら顔がほころぶのを抑えきれなかった。
……もっとも、その笑顔はリリィには逆効果で、怯えて手を引っ込められそうになってしまったが。
軽く調べたところ、正しくはリマ症候群でしたか? 知名度と語感優先で、作中でも言ってますが誤用上等です。
ようやくヒロイン(仮)の立ち位置が多少安定しました。




