47. 情報収集 その1
質疑応答の体をとった説明パート。
朝食はパンとフルーツ。がっつりいかずとも、朝はそれで十分だろう。
琢郎が持ち帰った木の実の中から、リリィがそのまま食べても問題ないものをいくつか選ぶ。琢郎自身はどれでも食べられるので、リリィの選ばなかった残りが琢郎の分になった。
「リリィが準備してくれてたんだ。さっそく食事にしようか」
パンを軽く炙るくらいにしか火は使わないので、昨夜の場所まで移動する必要もない。このまま棲家の前で食べることに。
リリィが自分用の果実の皮を剥いたり、食べやすい大きさに切ったりしている間に、琢郎は他の用意を済ませておく。
2人分のコップを水で満たし、次いでパンを何個か軽く焦げ目が付く程度に手の平に集めた火の元素で炙っていった。
「そら。こっちがリリィの分だ」
リリィがナイフを使い終えたタイミングを見計らって、コップとパンを半分に分ける。
炙りたてのパンの熱さを少し持て余しつつもリリィが受け取ると、琢郎も残った自分の分を口に運ぶ。
「……それにしても、便利なんですね。魔法って」
半分ほど食べたところで、リリィがふと呟きを漏らした。その手にはまだ熱いパンがあり、両手で割るとそこから湯気が出る。
「うん? 元素操作くらいならそう珍しくはないと思ったんだが、違うのか?」
「えっと……適性があれば2人に1人くらいは小さな火や水を出せるようになる……んだそうです。わたしは、その、使えないんですが。お世話になっていた人は、よく火を熾すのに使ってました」
「へぇ。2人に1人? そんなもんなのか……」
ただし、もう少し詳しく聞いてみると、操作できる元素はほとんどが1種か2種。3種以上の元素に適性を持つ者はかなり珍しく、人間は魔力もかなり少ないらしい。
例えばリリィが世話になった人の場合だと、種火として短時間小さな火を生み出すことがほとんどで、さっきの琢郎のように自分で出した火だけで加熱することは滅多になかったそうだ。
元素を長時間操ったり、呪文を唱えてより大きな現象を起こしたりする、いわゆる魔法使いの称号を得る者は、それなりに珍しい存在であるらしい。
「それじゃあ、ついでに訊きたいんだが……」
その話をきっかけに、まだ食べながらではあったが琢郎は人間のことやその町のことについての問いかけを始めた。
町の門の開閉の時刻。門番や、それ以外の武装した者の数。
町中で禁止されている行為にどういうものがあるか、など。
屋台で先日聞いてはいたが、町で物を売るために必要なことについても訊いてみる。
前に聞いたのと同じ答えならその信憑性は高まるし、違うなら違うでリリィの言葉を疑うきっかけにはなる。
「……なるほど」
いくつかの問答をした結果として、やはりリリィは誠実に答えている印象を受けた。
琢郎の問いかけ全てに的確な答えを返すわけではなく、知らないことや分からないことはそのように言って詫びてくる。
答えを返す中でも、「多分」だとか「思います」といった曖昧な表現も多い。
魔物相手というのを危惧して誤魔化すような必要もないことにも、そうした答え方が混ざっていた。適当な出任せを口にするのではなく、なるべく正直に答えようとしているように感じられる。
「冒険者の免許を取るにはどうしたかいいか、ですか……?」
物を売るために必要なことについての話は、前に聞いたのと同じ答え。より突っ込んで、必要になる身元証明を得るための方法も訊いてみると、詳しくはわかりませんが、との前置きを付けた答えが返ってきた。
「トラオンやテルマにはないんですが……大きな町にある冒険者ギルドの支部で、登録ができるそうです。お金がかかるとは聞いたことがあるんですが、その金額までは……ちょっと」
具体的な登録の方法についても、以前人に聞いたことを説明してくれる。
「……たしか、そこには見ただけで相手のことが少しわかる特殊な技能を持っている人がいるんです。その人が情報を確認して、種族や名前・LVを記載したカードを作るという話だったので……タクローさんには、その、難しいと……思います」
ただし、それは琢郎には不可能な方法にすぎなかった。
おそらくスキルというのは、琢郎も持っている『特殊表示』だろう。ならばそれで見られてしまえば、確実に『種族:オーク』という事実が明らかになってしまう。
これでは、琢郎が冒険者の免許を得ることは絶対に無理だった。さらにリリィの話では、冒険者以外でもギルドなどで公的な身分証を作る際には、ほぼ間違いなく『特殊表示』を持つ者による確認が必要らしい。
「どうすりゃいいんだか……」
絶望的な話に頭を抱えそうになったが、それはそれとして『特殊表示』の話が出たので、一度リリィのそれを見てみることにした。
『個体名:リリィ=カーソン 種族:人間
LV: 3 』
まだ名前と種族・LVだけで、細かい数字までは見られないようだった。
登録の際の確認でも、最低限これと同じ程度のものを見られることになるのだろう。
やはり、『種族:オーク』という事実を隠さねばならない琢郎には、無理な話だった。
毎度ながら描写が長くなってしまいましたので、今回も分割です。




