40. 受難の少女
視点変更っぽいサブタイですが、琢郎視点は継続です。
「あぁ。まぁ、そういう反応かぁ……」
恩を売ろうと思ったわけではない。助けられることが分かっていて見捨てることに罪悪感があったことが、一番の動機だ。
極論、こっちの都合で助けたとも言える。
そうは言っても、助けた結果相手にこうして悲鳴を上げられ怯えられるというのは、どうにもやるせない。
助ける前にローブを荷物から出して再び着るなり、<透明化>の魔法を使うなりして自分の姿を隠せば良かったのだろうが、今になって思い至っても、時すでに遅しだった。
と、
「おい! ちょっと待て。そっちに行くな!」
琢郎から少しでも離れようとしているのか、地面に座り込んだまま怯えた顔でずり下がろうとする少女に気づく。
まずいことに、そちらはさっき燃やした魔物の方向だ。
まだ魔物が燃えている最中であるため、火傷しないよう注意を促したつもりだったが、逆効果だった。ますますこちらを恐れて、ずり下がる速度が上がる。
その後ろに、本体から斬り離されてもしぶとく動いている1本の触手が、半ば炎に包まれながらもなお地面をのたうつのが見えた。
「<水流射>!」
「ひッ!」
言葉での説得はもう間に合わないと、やむなく水流を放って消火と排除を同時に行う。
少女には当たらないよう狙ったつもりだが、顔のすぐ傍を魔法が通り過ぎたことへの心身両面の衝撃を与えたのだろうか。
最後に再び小さな悲鳴を上げて、そのまま意識を失くしたようだった。
下手にこれ以上怯えられるよりは、結果的にだが気絶してくれたことは、いっそ好都合かもしれない。
「っても、これからどうすりゃいいんだ?」
見捨てるのは寝覚めが悪いと助けたものの、助けた後のことまで考えていなかった。
ある種のマニュアル型というか、予想していたことにはあらかじめ対処も考えて行動する性分なのだが、突発的な事態には弱い。
「とにかく、さっさとこの場は離れた方がよさそうだ」
ここではゆっくり考える時間もない。
琢郎を見た時の少女の悲鳴は、正直最初に植物型の魔物に襲われていた時のそれよりも大きかったほどで、今度こそ他の誰かが悲鳴を聞きつけて来てしまうかもしれなかった。
助けに出た時に置き残した荷物を戻って回収すると、意識を失くした少女の元へ近づく。途中、編みカゴとそこからこぼれた小さな木の実が地面に転がっているのが、視界の端に映った。
どうやら、彼女はこれを集めている途中に魔物に近づきすぎて襲われたようだ。
「よ……っとぉ」
それも回収しようかとも思ったが、元々の荷物と、それとは反対の肩に少女を担いでしまうと手一杯になるので断念した。
少女にとっては災難だろうが、後日の襲撃の件も考えると、オークの姿を見られた以上はこのまま帰すのは好ましくない。とはいえ、口封じをするのでは本末転倒、助けた意味がまるでなくなってしまう。
ひとまず、意識のないうちに少女を連れて棲家へ戻ろう。処遇をどうするかは、そこでしっかり考えればいい。
そう考えた琢郎は、少女を樹の枝などにぶつけないよう気をつかいつつも、棲家へとできるだけ急いだ。




