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38. 理想の襲撃ポイント

話を動かすと言いながら、前置きのつもりだったポイント探しが随分長く……

 テルマの町のさらに先、ツーデに向かう街道の途中で、人知れず襲撃を行うにはもってこいの場所を見つけた。


 山の傾斜と樹が邪魔になって、緩くカーブを描いた街道の一部が、前後から死角になっている。前後10メートルほど近くまで来ればさすがに見えるだろうが、それ以上離れた場所からでは陰になって何かあってもわからないはずだ。

 さらには、そのカーブを描く原因となった突き出た山の斜面がほとんど崖のようになっていて、その上からならこのポイントに近づいてくる者を広く見ることができそうだった。


「っても、直接ここを登るのは無理っぽいなぁ……」


 予定のポイントから崖を見上げた琢郎は、5メートルを優に超えるそこを登る気にはなれなかった。

 以前木登りをした時の要領で、風を用いて楽に身体を持ち上げることも考えたのだが、無理に未経験のロッククライミングに挑戦する必要はない。もっと傾斜が緩い場所から山に入って、回り込めば済む話だ。


 その場を離れた琢郎は、人目がないのを確認してから一度ローブを脱いで荷物にしまう。傾斜がまだなだらかになっている場所があるので、そこから山に入った。

 それでもかなり険しい傾斜を、斜面に生えた木々を伝うようにして上る。かなりの高さまで来たところで、滑り落ちないよう注意しながらさっきの崖があった方へと横に戻る。


「絶景かな、絶景かな」


 そうして辿り着いた崖の上は、一部が小さな草地になっていた。

 そこに半ば身を隠すように腹這いになって見下ろすことで、下とは打って変わって広い範囲の街道を見渡すことができる。そのまま予行演習のつもりで、しばらく眼下を通る人を観察してみた。


 遠くの方は人や、まれに馬車がこちらに近づいてくるということしかわからないが、近くまで来るとここからでも、通る者の身なりや荷物なども確認できる。

 襲撃予定のポイントまでに品定めするには、十分だった。


「ここで金を持ってそうな相手を探して、下でそいつを驚かす。それで決まりだ」


 ここが格好の場所と確信した琢郎は、下の街道に人通りが絶えるタイミングを待って身体を起こす。

 念のためローブを再び身に纏うと、最後の予行演習として一気にそこから崖下へと飛び降りた。


 落下の途中、風を操り空気のクッションを作って速度を殺す。両足から着地するが、足の骨を折るどころか痺れも感じることはなかった。

 これなら、出現のインパクトも抜群。


 襲撃といっても、元人間の心情的にも、討伐者を招くようなあまり大きな騒ぎにはしたくないという点からも、できれば相手を殺すようなことまでは避けたい。琢郎としては、こちらの登場だけで驚いて、荷物を捨てて逃げてもらえれば最善だった。


「よし。じゃあ、明日からここに来るとして、今日のところは日が暮れる前に帰るか」


 崖から降りる際に、風に煽られて脱げてしまったフードを被り直し、テルマの町へと街道を戻る。

 絶好の場所を見つけたとはいえ、今すぐ取りかからねばならないほどには切羽詰まっていない。


 考えてみれば、調理用に買ったはずの塩も、スライム駆除の実験に一掴みほど使っただけで、本来の用途としてまだ用いていない。

 今後の生活を考えるなら、今日はもう棲家に戻ることにして、帰り道の山の中で何か獲物でも見つけて、自分で料理したらどんな感じになるのか試してみたかった。


 テルマの町を素通りして、トラオンの町が見える場所まで一気に戻る。

 その結果、琢郎の棲家はテルマとトラオンの、ややトラオン寄り。だいたい6:4くらいの位置だろうというのが確認できた。

 町から見えないところまで再び引き返すと、今度は山へ入る。

 今日の分の魔除けの枝も折り取って行こうかとも思ったが、それで臭いを嫌って狩りの獲物が見つけにくくなるのも面倒だ。先に今夜のおかず(無論、変な意味ではない方の)を確保することにした。


<石壁>(ストーン・ウォール)!」


 途中、いくつかの木の実を採取しながら森の中を棲家に向かって進んでいると、不意に小さな猪に似た獣と遭遇し、目が合ってしまった。

 琢郎の豚面を見て何をどう思ったのか、こちらを見るなりいきなり突進してきたために、壁を生み出して進路を塞ぐ。


 ドガン、と突然目の前にできた壁を避けられなかったのか、猪が壁に衝突する音が響く。そのまま壁の向こうで動きが感じられなかったの解除してみると、ぶつかった衝撃で猪が脳震盪でも起こしたように倒れていた。

 これ幸いと、トドメを刺してこれを今日の獲物にする。猪に似ているといっても大きさは中型犬ほどだったが、とりあえず夕食には十分だ。


「お。あったあった」


 街道まで引き返すことはせず、森の中にも時々生えている聖木を見つけた琢郎はその枝を2本折り取る。これで今夜の準備は万端だ。


 山のさらに奥まで進み、そろそろ棲家の目印となる場所が見えそうだと思ったところで、折り取った聖木の枝の臭いに憶えのある甘い匂いが混じる。

 あの植物型の魔物だ。

 無駄に争う必要はないと進路を変えようとしたその時、


「きゃああぁぁぁぁぁ!!」


 甘い匂いのする方から、女の悲鳴が聞こえてきた。

何とか予定の場所まで引っ張っては来ましたが、我ながら超ありがちな引きです。

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