03. 転生準備
いわゆるキャラメイキング。ほとんど何もできてませんが。
「まず、大前提。『太田琢郎』としての記憶の繰り越しは希望する? これは権利であって義務じゃないから。記憶を引き継いでの第2の人生なんて希望しない人には、転生の前に通常通り魂の洗浄もできるよ?」
そのように告げる少年の手元には、いつの間にか別の画面が浮かんでいる。そこに転生に関する何かが映っているのだろうが、琢郎の側からは白く光っているだけでわからない。
「と、とりあえず……繰り越しはする方向で」
琢郎はまだ自分の死の実感も、今の状況への理解も十分にできているとは言えなかかった。
だが、『魂の洗浄』というのが今の自分が完全に消えてしまうことだというのはこれまでの話からなんとかわかる。そんなのは御免だ。
今の自分のままで生まれ変われるというなら、それを拒む理由は琢郎にはない。死ぬような恥(というか、恥そのもののような死)だったが、生まれ変わるとなればある意味旅の恥は掻き捨てというか、次の人生ではなかったことにできるし。
琢郎の答えを聞いた少年は、タッチパネルの画面にチェックを入れて画面をスクロールさせるような動作をした。
「じゃあ、次は転生先の世界、『ラ・テラ』の説明。簡単に言うと、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界ってやつをイメージしてもらえれば、だいたいはOK。これは偶然の一致というより、創作の際にラ・テラから地球に転生した人の前世のイメージが一部浮かんだかららしいね。全部じゃないけど」
2つの世界を示した立体映像のうち、『ラ・テラ』の球体がクローズアップされる。
「地球との大きな違いはいくつかあるけど、一番の違いはやっぱり魔法の有無かな。あとは、これも本来こっちが本家なんだけど、ゲームみたいな表示が見られる。他には、地球は基本的に人間のみが知的種族であるのに対し、ラ・テラにはエルフや獣人といった亜人種、魔族やモンスターといった多くの種族が共存、あるいは対立して存在していることも挙げられるね」
ラ・テラの映像の横に、『魔法』『特殊表示』『多種族』といったテロップが加えられた。
「だから、転生先の種族は人間に限られない。基本的にはその魂と最も相性がいいと判断された種族に生まれるんだけど、希望する種族があればマーカーに蓄積したポイントを消費して変更も可能……って、これはキミには関係なかった」
解説が中断されたことに、琢郎が疑問を顔に浮かべていると、少年はその理由を説明する。
「しょうがないよね? キミ、マーカー付けた当日に死んじゃったんで、ポイントが全くない状態なんだから。本来ならこの後、種族はもちろん、性別や血統、出身地なんかも希望に応じてポイントで変更、能力値も強化したり割り振りを調整したりもするんだけど……そのためのポイントがないんで、全部省略!」
少年の手元に映っている内容まではわからなかったが、手の動きで本当に大幅にスクロールして流されたのがわかる。
「じゃ、じゃあ俺はどうなるんだ?」
「別に、転生できなくなるわけじゃないから安心して。通常の転生と同じように自動的に選ばれた転生先から変更できないってだけだから。キミの場合は……」
画面を戻して琢郎の転生先を確認した少年は、それを見るなり再び吹き出した。
「ぷッ……! い、いや、キミにピッタリの種族になってるから、安心していいよ。幼少期から前世の記憶が残ってると色々面倒なことが起こるんで、転生者が前世の自分を取り戻すのは成人した時ってことになってるんだけど、うん。大丈夫! キミの無念は来世で確実に晴れるから」
横にいれば、背中をバンバンと叩かれでもしそうな様子だった。
だがすぐに笑いを収めた少年は、それがどういうことかの説明はしないまま、再び画面をスクロールして別の説明に移る。
「あとは……あ、これは選択できるみたいだ。能力値の割り振り調整がない分、魔力だけが突出してるせいで、魔法系の特殊スキルが選べることになってる」
都市伝説の内容が『異世界に行ける』ではなく『魔法使いになれる』であるように、救済措置による転生者は魔力にボーナスが付くらしい。
これはマーカーのポイントとは違い、30歳になるまでの人生における欲求不満から判断される。
基準はいくつかあるが、童貞の不満と言えば性的なことが多く、琢郎もそれが該当しているそうだ。具体的に何が基準となるのかまでは「キミが毎日してたことだよ」と濁されたものの、琢郎にはそれで伝わった。
そのボーナス数値を、通常なら他の能力値にも振り分けるはずが、それに必要なポイントがないために、琢郎の次の身体は魔力に非常に偏った極端な能力構成になっているということだ。
その結果、一定以上の才能で開花するはずの特殊スキルが、先天的に取得できる状態になっているらしい。
「魔法の方向性の問題なんだけど、一極集中型か万能型、どっちがいい?」
「万能型で」
ここは即答。具体的な転生先は教えてくれるつもりはなさそうだったが、そこに迷いはない。
自慢じゃないが人付き合いは苦手だ。ゲームはしてもMMOなんかは、それが嫌で手を出そうともしなかったくらいだ。
ただでさえ能力構成が偏っているというなら、使える魔法にくらい汎用性を確保しておかないと、仲間なしでは生きられないような状態になりかねない。
「了解。じゃあ、万能型のスキルにしとくよ」
画面を操作した少年は、そのままスクロールさせているようだったが、
「う~ん。結局、設定できるのはそれだけだね」
そのまま終了しかけたところで、「あ」と小さく呟きその手を止めた。
「キミのケースはレアで、色々笑わせてもらったからね。せっかくだから、僕から1個サービスしとくよ」
閉じかけていた画面を戻して、再操作する。
「僕の権限で任意の魂に付与できる、とっときのスキルを追加してあげる。これでまた、愉快な第2の人生を送ってくれたら、僕も楽しいから」
再操作が終わると、今度こそ白く光っていた画面が閉じる。と言っても、消えてしまったわけではなく、拳大の光球へと変化していた。
少年がすっと指を振ると、宙を移動したその光球が琢郎に重なる。そのまま琢郎と一体化して、琢郎の身体が光に包まれ始めた。
「じゃあ、さっそく転生開始! 次に意識が戻った時には、新しい世界で大人になってるから。せいぜい楽しんでね~」
そのようなことをのたまう少年の姿も、自身の発する光でもはや影のようにしか見えない。
そのままどこまでも光は強さを増していき、全てが光に包まれると同時に琢郎は光と共に消えた。
ほぼ設定解説。これでも自重したつもりだったんですが、結局1話の長さがまた長くなる……