37. 隣町・テルマ
前々回の計画に基づいて、行動開始です。
スライムの対処で出発が遅れたものの、琢郎は棲家周辺をぐるりと回る。
地形を確かめ、戻る時に目印となるものもいくつか見つけた後で、南側の斜面を下り森を抜けて、街道に出た。
もちろん、森を抜ける直前には新しく買ったローブで正体を隠している。
この街道を東へ進めばトラオンの町に戻り、西へ行けば別の町に通じているはずだ。それがどの程度の距離なのか確かめるためにも、琢郎は迷わず西に進路を取った。
「まぁ、予想してないわけじゃなかったけど、ホントにたいしてトラオンとは変わんないよなぁ」
ぽつぽつと街道を行き来する人や馬車に衝突しない程度に加速した琢郎は、太陽が一番高い位置に昇る少し前には新たな町に着くことができた。
外壁に囲まれた町の入り口には兵が立っていたものの、やはりフードとローブで姿を隠してはいても堂々街道を通ってきたこともあってか、特に咎められることはなかった。
中に入ってもあまり変わらない町並みで、トラオンと同じように入り口近くに飲み物と軽食を扱いつつ町の案内をしている屋台があった。さすがに、そこに立っているのは当たり前だがトラオンの町にいたのとは別の人だったが。
「ここは、テルマの町です」
時間もちょうどいいので、軽く昼食代わりに串を数本頼んで訊ねると、屋台にいるまだ若い男は町の名を教えてくれた。
さらに北西には、こことトラオンの間よりは距離自体は短いものの、高低差が増えるために所要時間はそう変わらない、ツーデという町もあるらしい。
「パンと、あとそれよりも日持ちする保存食みたいなものが買いたいんだが……」
「でしたら、あちらの通りに行かれるとよろしいかと」
町の東西を貫く大通りの途中を南に曲がったところにあるパン屋を紹介される。旅行者向けの店で、保存食となるものも販売しているそうだ。
「ところで、もし森で狩った獣の肉とかがあったら、買い取ってもらうことってできるか?」
先ほど買った焼肉の串を片手に、物は試しと訊いてみたものの、屋台の男は首を横に振る。町内の肉屋が卸しているものを使っているため、契約上他からの肉は扱えないとのこと。
その肉屋や、あるいは小さい店ならそうした契約を結んでおらず買い取ってくれるかもしれないとは言われたが、やはりその場合も狩猟や冒険者の免許が必要になるらしい。昨日棲家で悩んだことが杞憂にすぎず、正体を晒すことなく物を売ることが簡単にできればよかったのだが、そう都合よくはないようだ。
教えてくれた礼を述べて屋台を離れ、場所を教わったパン屋に行ってみると、思っていたよりも大きな店構えに軽い驚きを覚えつつも店内に入る。
「なるほど。それで広いわけだ」
売り場を見た琢郎は、納得したように呟きを漏らす。旅行者向けに保存食の販売もしているというのは屋台で聞いたとおりで、干し肉や燻製肉、ドライフルーツやビスケットのようなものなどが売られている。
純粋にパンだけの売り場を見れば、むしろトラオンの町のそれより小さいくらいだった。
食品のみならず、中に入れると腐りにくくなるという魔法の箱やら瓶やらも並んでいて、刻印に魔力を注ぐことで繰り返し使うことができるらしい。魔力量がやたらと多い琢郎には魅力的ではあったが、いかんせん値段が高く、今の手持ちでは足りなかった。
「とりあえず、パンと……あとは、これか」
1個あたり銅貨1枚の安いパンを10個と、保存食用にビスケットらしきものを1袋買う。保存のための魔法がかかった容器などにも興味はあるが、金が入ってからと、脳内の購入予定リストに追加しておく。
これでいよいよ残りの金はわずか。こうしてパンを買い足しに来れるのも、せいぜいあと1回が限界だろう。
何かを売って金を増やすというのがやはり難しそうだとわかった以上、昨日考えた方法で稼ぐしかない。
琢郎はパンとビスケットを袋に入れて担ぐと、ここの次にあるツーデの町とやらに通じる街道へと足を伸ばした。
日常寄りのパート。
うっかりするとこの調子でだらだらいってしまうので、次回は意識して話を動かす予定。




