36. スライム駆除
理科の実験の時間。
かなり前から頭にあったスライム対処法です。
「あ。そうか!」
スライムをナメクジに例えたことで、琢郎にふと思いついたことがあった。
一度棲家の中に戻って、そこに残した荷物の中から塩の入った袋を取り出す。その中身を少量、掌の上に移して握りこんだ。
もちろんスライムとナメクジは別の生物だ。だが先ほど火球をぶつけた結果を見る限り、スライムも体のほとんどは水分でできているようだ。
それなら、ナメクジと同じ対処法が使えるのではないか。
「おぉ、効いてる、効いてる」
塩を握って再び外に出ると、まだ残っているスライムに近づく。
握った手を微妙に動かし、拳の隙間からパラパラと塩を振りかけた。
結果は、浸透圧で塩がかかった部分の水分が抜け出し、スライムは苦しむように蠢いた。
ただし、
「やっぱ、量がかかるよなぁ……」
棲家の出入り口から見える範囲にまだ数体残っているスライムの中でも、小さいものを選んで琢郎は塩をかけていた。
それでも、全身の水分を体外に出させて動けなくさせるには、その1匹だけで持ち出した塩全てが必要だった。
いや、正確には致命的な量の水分の排出には成功しているだろうが、完全に干からびさせるにはまだ足りなかった。水分の多くを抜かれて縮んだスライムはいずれ動かなくなるだろうが、今はまだ微かに震えている。
ナメクジと比べると体が大きい分、塩の量も必要ということだった。
目の前のスライムだけなら魔法で蒸発させてしまえば十分で、塩は琢郎が棲家を離れている間の侵入防止用に使いたかったのだが、この様子では調理用に買ったはずの塩の大半を消費してしまうことになりかねない。
金も乏しくなったこの状況では、そんな無駄遣いは許されなかった。
「いや、待てよ。よく考えれば塩だって……」
そこで、さらなる思いつきが琢郎の頭に閃く。
岩塩という言葉でもわかるように、塩というのも鉱物の一種と言える。ならば、地の元素操作を駆使してただの土ではなく、塩を抽出することはできないだろうか。
そう考えた琢郎は、地面に手を付くと意識を集中させた。
その結果。
「……ま、無理だわな」
うんうん唸りながら30分近くにわたってあれこれ試行錯誤してみたが、現実はそううまくはいかなかった。
まぁ、ダメで元々。そもそも考えてみれば、特定の鉱物を選んで集めることができるなら金策など考える必要はない。
金や銀、あるいは宝石の類でも地面から取り出してしまえば、それで金の問題は解決だ。
逆に言えば、魔法の基本の元素操作でそんなことができてしまうようなら、この世界で金や銀の貨幣価値が成立するとも思えない。
銀貨や銅貨が普通に流通している時点で、都合よく自分の望む鉱物だけを抽出することなどできないことは明白だった。
「でも、予定とは違うがこれはこれで、目的は果たせそうだな」
結局、色々と試してわかったことは、特定の鉱物ではなく、土の形状ならばある程度思い通りにできるということだった。
<地槍>や<石壁>といった地属性魔法で生み出す大きな石。水も多少同時に操作する必要はあるが、地面を泥状にすることもできる。そして、粉のように細かい砂。
スライムを駆除するのに必要なのは、浸透圧を生み出しその水分を体外に出させることで、塩にこだわらなければならないわけではない。
塩よりいくらか効果は落ちるようだが、琢郎が元素操作で出した乾いた砂でも、スライムにダメージを与えることはできた。
さらには、行く手に砂を大量に撒くことで、スライムがそれを嫌って進路を変えることも、実験して確認できた。
金策と同時に一石二鳥の解決策とはいかなかったが、これでスライムの侵入を防ぐ目処は立った。
「これでよし、と」
昨日、雨水の侵入を防ぐために少し土を盛り上げていたところに、その上から別の場所で呼び出した砂をさらに上から振りかけていく。
念のため、割れ目の上の岩にも砂を撒いておく。これで、砂に体の水分を奪われることを嫌って、スライムは近寄らないはずだ。
ダメ押しで視界内の残りのスライムを|<火炎球>《ファイアー・ボールで蒸発させると、琢郎は改めて周辺の地形を確認するために動き出した。
この話を頭の中で練っていた時、ふと「塩を操る主人公」のネタが湧き上がりました。今回の対処を用いた初期LV上げに塩を売っての生活。塩を生み出す能力の発展形なんかも浮かんだのですが、「戦闘員~」すらちゃんと終わらせれていない状況で形にする余力はなし。当面は“塩”漬けです。




