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34. 雨中の思案

「そうは言っても、まだそんなに先のことまで考えられる状況じゃあないよなぁ」


 こうして当面棲むための拠点を得て、生活に必要な物も町で買い込んできたものの、転生したこの世界についてはまだまだ何も知らないと言っていい。

 今のところは人の来ない山中に拠点を構えつつも、必要に応じて町に行くという形を取るつもりでいるが、その先どうするのかまではまだ決められない。


 いずれは人を避けて山奥の魔物の世界に行くのか。あるいは逆に、より上手く人の中に紛れる(すべ)を見つけて町で暮らすのか。

 それとも、魔物になりきれないが人の中にも混ざりきれない、今のままでずっと過ごすのか。


「今はそれより、明日やもっと近いことを考えないと、な」


 現状で答えの出せない問題よりも、今考えるべきは別のことだ。

 今日はこのままパンを主食に過ごし、今日中に雨が上がると想定して明日以降は森で狩った獣の肉や果実なども食べるにしても、2,3日後にはまたパンを買いに行く必要があるだろう。

 次に町に行く時には、これまで着ていたローブは予備に回して、新しく買った大きなローブを着て行くつもりだ。もし明日以降も雨が降り続くようなら、予備のローブを雨具代わりに外に出るという案も考えられる。


 ただし、問題は金だ。新しいローブは昨日、荷物を整理するときに試しに着てみたところ、前のものより大きい分だけ顔や体型も隠しやすく、生地もしっかりしていて着心地も上々であったが、良い物は値段も相応だった。

 失念していた悪天候への備えや、より保存に適した食料も調達したいことを考えると、もう残金は心もとない。


「金を稼ぐ方法、かぁ……」


 人間の社会に紛れて生きるつもりなら、どのみちある程度安定して金を稼ぐことのできる方法を確立することは必須だろう。

 しかし、金を使うのと違って、稼ぐというのはなかなかに難しい。まして、琢郎は身元の保証は勿論、顔を晒すことすらできないのだ。

 地球での経験や知識と照らしても、まともな稼ぎ口は容易に思い浮かばない。


 森で何かを採取するなりして買い取りに出すにしろ、自分で売るにしろ、おそらく何らかの身元証明が必要になるだろう。

 肉体労働系も考えたが、今度は身体を動かしながら正体を隠し続けられるかが問題だ。身元保証までは求められずとも、一度顔くらいは見せるよう求められることも考えられる。


 あるいは、オークの巣を襲撃した冒険者のような仕事もあるかもしれなかったが、それもゲームやマンガ等の例で考えれば登録の類が必要になる可能性が高い。

 ギルドのような場所にダメ元で行ってみて、途中で引き返すようなことをすれば、不審者でございと厄介な相手に自分から教えに行くようなものだ。


 ならばいっそ買い叩かれる覚悟で、身元などを問われないグレーやブラックな市場で……とも考えたが、そうした場所を見つける伝手も経験も琢郎にはない。


「……どうしようもないなぁ」


 正体がバレるリスクなしに真っ当な手段で金を得るための方法は、結局思いつくことができなかった。人間の町に関する情報が、まだまだ少なすぎる。


「こうなるともう、前に金を得たのと同じ方法をとるしかないか?」


 琢郎がオークであることを隠す方法ではなく、逆にオークであることを前面に押し出す方法。

 一種の強盗と言おうか、オークの姿を晒して人を脅かし、身を軽くして逃げるために捨てた荷物を奪うというもの。前回は偶然だったが、今度はそれを意図的にやる。


「何回もやれば冒険者に狙われることになるかもしれんが、前とは場所も違う。なるべく金を持っていそうな奴を探して、1回だけ。それならきっと大丈夫なはずだ」


 自分に言い聞かせるように琢郎は言葉を声に出した。


 やろうと考えていることはどう見ても犯罪だが、人間に紛れている時の琢郎とは関係ない。ただの野良オークがたまたま街道に迷い込んで人間を驚かすだけのことだ。

 それで再び金を得られれば、次に金が乏しくなるまでにもっと町について知って、どんな方法で稼げば正体を晒す危険が少ないかを見つければいい。


 琢郎はそう考えて、近い将来再びオークの姿を人前に出すことを決めたのだった。

思案というか金策というか……犯罪計画?

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