33. 雨天
毎度、思いつくまま書いていると話が進まない。
琢郎が樹上から見渡して当たりをつけた場所は、一度斜面を半ばまで下りてからまた上った、元の山から見て西隣の山に当たる。
南面と山裾の辺りはそうでもないが、琢郎が向かった東側と北側は斜面が険しく、ところどころに小さな草は生えているものの、ほとんどが剥き出しの岩場になっていた(西側がどうなっているかは、琢郎が見た位置からではわからなかった)。
岩だらけの場所を探索していくと、やがて琢郎のほぼ期待通りのものを見つけることができた。
随分昔に何かの拍子で岩がずれるかしたのか、岩と岩の間に割れ目のような隙間ができているのを発見したのだ。
「よっ……とぉ」
足元に注意しつつ、琢郎の身体でもなんとか通り抜けられるほどの大きさの割れ目をくぐって、中の様子を確認する。
光の元素を集めた明かりで見たそこは、洞窟と呼ぶにはやや小さかったが、琢郎1人が棲家とするには十分な広さがあった。
入ってすぐの傾斜が大きく、一番奥の方は天井が低く狭くなっている。
そこは荷物置き場にするとして、頭を下げることなく動けるだけの高さがある部分を、寝床と生活空間に充てると仮定。それでも、2回転ほど寝返りを打てるだけの余裕がある。
念のため隅々まで見回してみたが、糞や体毛など他の動物がねぐらにしているような形跡もなかった。
「こりゃ、ここで決まりだな」
出入り口も限られるため、魔物除けの枝を割れ目の両脇に2本も置いておけば、それで用足りるだろう。山を下りる斜面は険しいが、それも他の侵入を阻む役に立つ。
人間がほぼ踏み込まないだろう場所ではあるものの、極端に山の奥深くでもない。当面の拠点としては、かなりの好条件と言える。
早速、琢郎は町で買い込んだ物を含めた荷物を下ろし、寝床用の余った毛皮を広げて棲家としての中身を整えたのだが、翌朝に思わぬ問題が発生した。
「<石壁>」
慌てて飛び出したばかりの、出入り口となる割れ目を半ば塞ぐようにして琢郎は魔法で壁を生み出す。
そうして雨水の流入を一時的に防いだ上で、同時に元素操作で水が琢郎の棲家とは別の方向に流れるように排水路となる溝を作り出す。
瞬間的に大量の土や石を操作する地属性魔法は、通常は解除すればほぼ元通りに戻るのだが、今回は意識して少しだけ地面の盛り上がりが残るようにして、これ以上雨水が流れ込まないようにも細工した。
「これで、ひとまず大丈夫か?」
雨に濡れた身体を軽く手で拭って振り払うと、琢郎は中に戻ってしばらく様子を確認したのち、息を吐いた。
できたばかりの棲家を慌てて飛び出すことになった原因は、今朝になって降りだした雨だった。
地形の関係上、雨が降るとその水が、琢郎が棲家とした岩の隙間に流れ込むようになっていたのだ。
出入り口の割れ目から小さな滝のように大量に流れ込んできた雨水を見て、雨音で目を覚ましたばかりだった琢郎はそれを堰き止めるために慌てて外に飛び出したというわけだった。
「とりあえず、今日はこのまま中ですごすか……」
すでに中に流れ込んでしまった分も、水の元素操作で大まかにだが集めて外に追い出し、火の元素操作で濡れた身体の乾燥も促進させる。
そうしてなんとか元の状態を取り戻した琢郎は、荷物の中のパンを火で軽く炙って、少し遅くなっての朝食にかかった。
元素操作で地形を少しいじったとはいえ、再び雨水が中に入ってこないとも限らない。そんな心配もあったが、雨の中を進んで外に出ようというつもりもなかった。
もちろん、転生してからこれが初めての雨というわけではない。群れにいた頃は雨が降っても、それで食料調達のノルマがなくなるはずもなく、濡れながら自分と群れのための餌を取っていた。
だが、琢郎は今は1人。
当時も雨に濡れても特に何もなかったことを考えれば大丈夫だとは思うが、万が一風邪でもひいて身体を壊しでもしたら大変だ。誰の助けも得られず、それが命取りにもなりかねない。
(もっとも、あのオークの群れにいた頃でも、看病どころか足手まといは無用と、むしろ殺されていたかもしれなかったが。)
「落ち着く魔所もできたわけだし、外へ出て動かない分、今後の予定をしっかり考えるとしよう」
外へ出ずとも、町で買ったパンはまだ残っている。
おかずの類は外で調達する予定だったが、パンだけですごすとしても今日一日で足りなくなってしまうようなことはない。
ひとまず拠点となる場所も確保できた琢郎としては、この機会に今後の生活についてじっくり考えを巡らせておきたかった。
今後の計画も含めて収めるつもりが、軽く流すつもりだった棲家を見つけるところだの、なんだかんだ長くなってしまいました。




