25. 聖木の枝の効果
話がまるで進んでいない……
寝ている間の安全のためとはいえ、魔除けの枝を寝床の周りに配置することは、琢郎自身もその臭いに眠りを妨げられるのではと危ぶんでもいた。
だが、実際には余った毛皮を敷いて寝床が改善されたことや前日の睡眠不足に加えて、自家発電後の虚脱感も重なってか、たいして臭いを気にする暇もなく琢郎は眠りに落ちてしまっていた。
目を覚ましたのはつい先ほど。すでに日は昇り、明るくなっていた。
「うっかり熟睡しちゃったものの、何もなかったみたいだなぁ……」
目覚めた後で、一晩ぐっすり眠ってしまっていたことに気づいて身体や枕元に置いた荷物を確かめたが、特に異常はない。
どうやら魔除けの枝が功を奏したようだ。
もちろん、たまたま昨晩は運がよかった――あるいは、獣に夜襲を受けた時が運が悪かった、ということも考えられる。
ともあれ、結果的には問題が起きることもなくしっかり眠って心身を回復させることができた。
「……あれ?」
初めはこれから1人の生活がどうなるかと思ったが、運よく1日で衣食住全てが改善された。これなら意外となんとかなりそうだ、と安心しかけたところで、琢郎はあることに気づく。
豚鼻を動かして再度確かめるが、間違いない。魔除けの聖木の臭いが感じられなくなっていた。
臭いがする場所で一晩寝ている間に、単に鼻が慣れてしまったということならよかった。だが、枝を1つ拾い上げて顔を近づけてみると、わずかながら鼻を刺す臭いが感じられる。
幹から折り取ってしまったせいか、別の原因があるのかはわからないが、どうも枝から発せられる臭いは、一晩で大きく弱まってしまったようだ。
「まぁ、効かなくなったなら、また新しいのを取ってくればいい話だ」
とはいえ、その程度の問題にすぎない。
連日道の脇から枝を折り続けていればいずれは別の問題が生じるようにも思えるが、今すぐ気にしなければならないことではなかった。
そんなことより、魔除けの臭いが弱まっているせいか、いつの間にか全長2メートルを超える巨大なトカゲに似た魔物が2匹、視界の端に姿を見せている。
まだ距離はあり、こちらに気づいているのかも定かではなかったが、琢郎は手にしたままだった枝をその1匹めがけて投げつけた。
「グゲギャッ!?」
だが、奇妙な鳴き声とともに枝はかわされてしまい、琢郎の存在も完全に気づかれてしまった。
琢郎を敵と認めたのか、2匹の魔物が足を速めてこちらへと向かってくる。
琢郎は別の枝を拾って、また投げる。今度は届きもせずに、魔物の手前の地面に落ちてしまった。
しかし、進路上に転がったその枝を、魔物たちはわずかだが迂回して避けたように見えた。
「……なるほど」
臭いが弱まっているので、魔物が避けたのはごくわずかな距離でしかなかったが、聖木を嫌っていること自体は確かなようだ。
それさえ確認できれば、これ以上の接近を許す必要はない。
「<風刃>ッ!」
風の刃をたて続けに放ち、魔物が近づいてこちらに何かするより先にその体を両断する。ドス黒い血を撒き散らして、2匹の魔物はぶつ切りの肉片へと姿を変えた。
巣にいた頃ならばこんなのでも食糧として持ち帰ったが、今は荷物の中に昨日買ったパンがまだ残っている。
食用にする気などおこらないばかりか、血の臭いが逆に食欲を阻む。
「……朝飯の前に、場所変えるか」
琢郎には不快でも、血の臭いが他の魔物を引き寄せることもありえる。
琢郎は寝床にしていた毛布を回収してさっさと荷物をまとめると、落ち着いて食事ができそうな別の場所を探して移動し始める。
朝から酒、というのはさすがに自重し、飲み物は元素操作で出した水にするとして、パンでも食べながら今後の予定をゆっくり考えるつもりだった。
本来は、決めた予定に基づいて行った先まで書く予定だったんですが、筆がなかなか進まず&毎度ながら微妙に描写が長くなったので分割。




