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01. 死後の世界

迷った結果、結局『戦闘員』と同じく主人公視点寄りの三人称になりました。

「……危ねッ!」


 意識が戻るなり、慌てて身を起こす琢郎。

 自家発電をして、そのまま寝落ちとかはマズい。放出したものが乾いてカピカピになるくらいならまだいいが、露わになったままの下半身から風邪をひいたりなんかした日には、馬鹿すぎる。

 とにかく後処理をと、下半身に目を落としたところで異常に気づいた。


「はぁ?」


 知らぬ間に、露出状態だったはずの下半身に白い短パンのようなものを履いている。視線を上げていくと、上も同じような白無地のTシャツに変わっていた。

 どころか、目の前に広がっているのは何もない白い空間。自分の部屋ですらなくなっている。

 さっき起きたときに慌てて椅子から立ち上がったはずなのに、そこにあったはずの椅子すらなぜか今はない。



「……あはっ、はははははは……」


 そして、いきなり聞こえてきた笑い声。訳の分からない状況に驚き慌てつつも、その声のする方向へ振り返った。

 そこには、中学生くらいに見える少年がこちらを指差して笑っていた。


 服装は白ずくめで琢郎と変わりないのだが、体格の差か、身体にぴっちりしている琢郎のものに比べると随分余裕があるように見える。

 割と短めの黒い髪も、天使の輪とか言うのだったか、自前の脂でテカッているだけのこちらとはツヤの質が違う。

 何よりその髪の下にある顔が、大笑いで崩れているのも関わらず、なお整っているのがわかるような顔立ち。


 だからというわけでもないが、笑っているその少年にイラッときて思わず、


「このガキが! 人を指差して笑うな!」


 声の限りに怒鳴りつけてしまった。怒声の中には、意味不明な今の状況への苛立ちの成分も、八つ当たり気味に混じっていた。


「あぁ、ゴメンゴメン」


 面と向かって他人に怒鳴りつけるという長らく覚えのない行動に、勢いで言ってしまった琢郎の方が言った後で落ち着きをなくしたのに対して、言われた側の少年は平然としていた。

 笑いこそ引っ込めたものの、軽い調子で口を開く。


「だって、キミがなかなか愉快な死に(ざま)を見せてくれたもんだから、ついツボにはまっちゃってさぁ」


「は?」


 さらりと言われた言葉に、琢郎は耳を疑う。


「死に様って何の話だ?」


「あれ? ひょっとして、自覚なかった? 自分が死んだこと」


「いや、自覚も何も、現にこの通り生きてるじゃないか! 記憶だってはっきりしてる。いつもと同じようにバイトも終わって、家に帰ってからも……普段通りに日課をこなして、その後酒のせいでかちょっと寝落ちしただけだろうが」


「うん。だから、その『日課』がマズかったんだよねぇ…………ぷッ」


 少年は琢郎の話に軽く腕を組んで頷きを返した後、思い出したようにまた吹き出しかける。が、なんとかすぐに笑いをこらえると、右手を顔の辺りまで上げてパチンと指を鳴らす。


 すると、何もなかった目の前の空間に、大型テレビの液晶画面のように切り取られた映像が浮かび上がる。

 そこには、自分の部屋で下半身を露出して手を竿に宛がったまま、椅子にもたれた状態でうつむいて動かない、琢郎の姿が映っていた。


「居眠りしているみたいに見えてる? これ、死んでるんだよねぇ」


 驚きに目を見開いた琢郎に映像の解説をするように、少年は言葉を続ける。


「大酒飲んで自家発電なんてするから悪いんだよ。おまけにその体格だから、心臓に負荷がかかって最後の瞬間に、自分の身体まで最期になっちゃった。僕もこの仕事けっこう長いんだけど、さすがにチェック入れたその日にこんな死に方する奴に会ったのは、キミが初めて」


 映像の中の琢郎は微動だにしない。静止映像ではない証拠に、付きっ放しのPCの画面はスクリーンセーバーが起動してOSのロゴが回転し、その向こうでは壁の時計の針が動いているのもかすかにわかる。

 だというのに、琢郎の身体はいくら目を凝らしても、呼吸で胸が小さく上下する様子すら欠片も確認できない。

 死因の説明に、自分の死体の映像。頭がどうかしそうだ。


「……俺、本当に、死んだの?」


 一縷の望みをかけて、何とか言葉を絞り出して確認するが、


「だから、最初からそう言ってるじゃん」


 どこまでも軽く少年の答えが返ってきた。

 それを聞いた瞬間、力が抜けて膝が落ちた。常識で考えて信じられるはずがないのだが、理屈ではない部分でなぜか、少年の言葉が嘘ではないと琢郎は悟ってしまっていた。

実際にこんな死因なら、もうちょっと苦しい気もするのですが、話の都合と酒のせいだと思ってください。

続きます。

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