おそろい
大学の文章の授業で提出したSS。
行き過ぎた友情と捉えるか、歪んだ愛情と捉えるかはお任せいたします。
咲貴ちゃんが死んだ。
死因は水死。学校の裏山を流れる川で溺れたらしい。その日、家に帰らなかった彼女をみんなで必死に捜したが、結局発見されたのは次の日の朝だった。川の下流で眠るように倒れていた彼女の身体はすっかり温度を失っていて、私たちの知っている由良川咲貴がもういないのだということは、誰の目に見ても明らかだった。
あの川は一見すると穏やかだが、実際は水量が多く、流れも速い。地元の人間なら、誰もが危険だと知っている場所だ。もちろん、彼女も例外ではなかった。
一週間前に同じ場所で親友を亡くしたばかりだったことから自殺ということで片がついたものの、不審な点の残る彼女の死は、みんなの心に暗い影を落としていた。
それから数日後の放課後。開いた窓からは生徒たちの元気な声が響いてくるが、この教室だけは、まるで外界から遮断されたかのようにぎこちない空気をまとっている。一人の女子生徒が、白百合の飾られた花瓶を持って教室に入ってきた。どうやら水を換えてきたらしい。それを生前咲貴ちゃんが使っていた机の上にそっと置いてから、ぽそりとつぶやく。
「ほんとに自殺だったのかな」
まだ教室に残っていた数人が、ぎょっとして彼女を見やる。
「だって、高山さんがあんなことになったばっかりなのに……」
「高山さん」というのは、一週間前に死んだ高山遥のことだ。咲貴ちゃんと遥は、幼なじみで親友だった。髪型も、服装も、何もかもぜーんぶおそろい。とても仲のいい二人だった。
「それなのに、今度は咲貴ちゃんが全くおんなじ亡くなり方するなんて……!」
声を震わせる彼女の顔は、ひどく青ざめていた。白百合の香りに吸い寄せられるように、咲貴ちゃんの机の周りに人が集まっていく。私は彼らから少し離れた壁に軽くもたれ、その様子を静観していた。
「咲貴は自殺だよ。高山が死んで、自分も後を追ったんだ」
「咲貴ちゃんのことだけじゃない! みんなだって知ってるでしょ? 高山さんは泳げなかった。あの川に近づくこと自体考えられないよ!」
それは、彼女たちを知る誰もが感じていた疑問だった。平静を装って話していた男子生徒も、びくりと肩を震わせ、そのまま口をつぐんでしまう。無理もない、ただでさえ奇妙な死が立て続けに起こったのだから。それをあっさり自殺で片づける方がどうかしている。この場にいる者全員、二人の死を悼むと同時に、何か得体の知れない不安のようなものを感じずにはいられなかった。
「高山は殺されたんだよ」
ふだん口数の少ない男子生徒が、気味の悪い笑みを浮かべて言う。
「俺、見たんだ。高山が死んだあの日、咲貴と二人で山ん中入ってくとこ。きっとあいつが殺したんだ。だから、咲貴も高山に連れてかれたんだよ」
せきを切ったようにまくしたてたかと思うと、再び白百合に視線を落とした。何も知らないくせに、勝手なことばっかり。
「やめてよ、そんな話!」
「いまさら死んだ人間のことあれこれ言ったってしかたねえよ」
「そうだよ、もう帰ろ?」
彼の話に気分が悪くなったのか、生徒たちは次々と教室を飛び出していく。電灯が消えてほの暗くなった教室で、私だけが一人、ぽつんと立っていた。
咲貴ちゃんは人殺しなんてひどいことしない。遥は事故でも殺人でもない、自殺だったの。あの日、咲貴ちゃんが遥に消えてってお願いしたから、遥は自分から川に落ちたの。水の中は苦しかったけれど、咲貴ちゃんのためだから頑張れたの。かわいくて、意地っ張りで、大好きな咲貴ちゃん。遥の、遥だけの咲貴ちゃん。二人はとっても仲よしで、何でもおそろいなの。髪型も、服装も、死に方だって!
咲貴ちゃんのように気高く咲く白百合の花。いとおしむように伸ばした私の手は、すっと空を切った。




