君と僕 ~宿題~
君の部屋で一緒に宿題をしている。君は勉強もそこそこ、雑誌を見ていた。
「なにしてるの?」
「んー?休憩」
「まだ五分しか経ってないよ」
「いいじゃん。私は五分毎に休憩を取らないといけないの」
「そんな事言ってないでほら、飴あげるから」
「そんなもので私の気をひこうなんて甘い考えだよ」
君の言葉を聞き流しながら僕は持ってきた飴の包み紙を開ける。
「ところでこいつを見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく・・・美味しそうですっ!」
「だろ?この飴は向こうの商店街の和菓子屋さんの一日限定三十個の飴なんだ。見るのも初めてだろ?」
「うん・・・」
君は目を輝かせて僕の持つ飴を見つめる。熱い視線で飴が融けてしまいそうだ。
・・・ん?解けるだったかな?
「欲しいの?」
「うん」
「じゃあ宿題を」
「それはやだ」
「なんで。宿題したらあげるってのが普通じゃないのか?」
「嫌なものは嫌なの。英語とか分からないし」
「どれが分からないんだ?」
「これ」
君が指さす先には一冊の本とノートが無造作に打ち捨てるように置いてあった。ノートの表にはひらがなで〈えいご〉と書かれている。
「んー?どれどれ・・・I should calling collect from jail For the tings I commit cash night in my head・・・ごめん、僕も分からない」
「でしょ?こんな難しい問題をわざわざ出さなくてもいいのにね」
君の言葉に思わず僕も頷きそうになってしまうけれどそこはぐっとこらえて、
「先生だって君のためを思って宿題を出したんだよ。さ、その漫画を仕舞って」
「ええー。今からが面白いところなのに!」
「いけません」
半ば強引に君の手から漫画を取り上げて代わりに鉛筆を握らせる。君はしぶしぶといった様子で器用にノートをめくる。
「前から思ってたけど、器用にめくるね」
「そう?これでもまだやりづらいところもあるんだけどね」
「ふうん。僕には分からないところだからあまり言えないけれども、それくらい出来たら凄いんじゃないのか?」
「そうやって褒めておだてて私に宿題させようってことじゃないよね?」
「そんなこと微塵も考えてないよ」
「本当?」
「ああ、本当だとも。神に誓って」
僕は胸の前で十字を切る。でも君は首を傾げて不思議そうにしていた。
「髪?それとも紙?そんなのに誓うの?」
「違うよ。神だよ、神様。ほら、よく絵本とかで描かれてる白い服に裸足で髭を蓄えた・・・」
「えー、変質者じゃん。その人」
言われて、僕もふと考え込んでしまった。確かに街中にいきなりそんな人が現れたら不審者以外の何者でもないな、と。
「ほら、あれだよ・・・意外と神様ってのは近くにいるんだよ」
「近くって?」
「私が神だ」
「あ、あなただったの?!拝まなきゃ!えーっと・・・嫌いな人参が食べられますように!」
「その願い、聞いたぞ。今日の晩御飯は人参尽くしの晩御飯になるだろう」
「それだけは嫌ー!止めて!」
絶望のそこに突き落とされたと言わんばかりの表情を浮かべる君。僕も流石にそこまでしようとはおもっていなかったので訂正を入れておく。
「おほん・・・人参だけでは食事も楽しくないだろう。ささやかなプレゼントでハンバーグも付けておこう」
「本当?やったー」
「うむ。ただしこの宿題を無事終えたら、な」
「よぉーし!やってみせるよ。見ててね!」
「おう、頑張れー。僕は料理してくる・・・ところで今日おばさんは?」
「ん?今日も帰ってこないみたい。忙しいから」
「そうか。大変だな。社長って仕事も」
「私には分かんない。分からなくてもいいってお母さん言ってた」
「なるほど。そういうもんなのかね」
適当に相槌を打ってから部屋を出て台所に向かう。今日は人参のサラダに人参スープ、そして君の大好きなハンバーグを作ろう。袖をまくりエプロンを付ける。
美味しい匂いが漂ってきたら君もつられて台所に来るんだろう。
当然宿題は終わっていないはずだ。
ご飯を食べたら一緒にやらないと。
何気ない事を考えながら僕は料理をはじめる。
閲覧ありがとうございます。