君と僕 ~卵焼き~
ある日の昼休み。
「なぁ」
「何?」
「その卵焼き、君が焼いたの?」
「そうだけど、欲しいの?」
「そうじゃないけど…なんだか、あれだな」
「あれって?」
「あれっていえばあれだよ」
「わかんないなぁ、言いたいことがあればはっきりいえば?」
「卵焼き、おいしそうだなーって」
「あげないよ」
「べつに欲しくないって」
「素直じゃないなー」
そういって君は卵焼きを僕の弁当箱に入れようとする。
「ちょ、何するんだよ」
「卵焼きのおすそ分けー」
「いらないよ」
「遠慮しない。男の子は沢山食べないと」
「そういってから揚げ三十個食べさせたのは何処の誰だか覚えてるか?」
「む。失礼な。がんばったんだよ、あの時は」
頬を膨らませて君が怒る。
「それにあの時はから揚げ食べたい、ってリクエストがあったから」
「そんなことも言ったっけなー」
「むー、覚えてないなんて失礼な。世の中はレディファーストだよ」
「無理して難しい言葉を使うなよ」
「難しくないもん」
「分かるの?意味は」
「分かんないんだもん!」
またしても頬を膨らまして怒った様子の君。僕は肩をすくめながら君が作った卵焼きを掴む。
「あ、食べてくれるんだ。どうぞどうぞー」
促されるままに卵焼きを口に運ぶ。君は口で「わくわく」なんていいながら期待に満ちた目で僕を見つめてくる。
「・・・んー、なんと言うか・・・あまい??」
「甘い?」
「そう。甘い。見た目はすごくしょっぱそうなのに甘い」
「そうなんだ。それよりも、さ。美味しい?」
「ん?ああ、美味しいよ」
「本当?」
「本当も本当。僕は卵焼きは甘い方が好きなんだ」
「それなら良かったー。頑張って作った甲斐があったよ」
僕の言葉を聞いて君は笑みを浮かべる。僕も笑顔を見て嬉しくなる。それにしても卵焼きは美味しい。
「これってギャップだよね」
「ぎゃっぷ?ポケモンの話?」
「違う、それはギャロップ。僕が言ってるのはギャップ。初めに思ってたのとは違う、みたいな」
「んーと・・・簡単そうな横スクロールだと思って買ってみたゲームが実は鬼畜難易度のクソゲーみたいな?」
例えがぶっ飛んでるよ。この子は。僕はこの時たぶん苦笑いを浮かべていたであろう。
「そう、かな?うん。たぶんそうだよ。君の言うとおりだよ」
「本当に?正解した?一等賞?」
「本当。一等賞の人にはこの野菜炒めが商品に送られます」
「いえーい・・・って野菜はいらないよ」
「駄目。好きなものばっかりじゃ体に悪いんだぜ?」
「それは知ってるけど・・・美味しくないんだもーん」
僕の差し出した野菜炒めを見て不機嫌になる君。
「野菜にはねいろいろな栄養が詰まってるんだぜ」
「栄養って・・・どんな?」
「うーんと・・・肌を綺麗にする栄養とか、頭が良くなる栄養とか。兎に角色々だよ」
嘘も方便というか、僕も野菜の栄養についてはあまり知らなかったので適当に答えた。
「すごーい!!だったら私も野菜食べないと」
君は目を輝かせて野菜をフォークでキャベツを刺して口に放り込む。
「・・・うえー。苦い」
「キャベツだけ食べたら駄目だよ。もやしと一緒に食べたら美味しいんだぜ」
「嘘、つかない?」
「もちのロン。僕が今まで嘘ついたことあるか?」
「んーっと・・・ない!」
「そう信じ込まれても、僕はなんと返したらいいのか分からないんだけど」
「えー。だって言ってたでしょ?僕の言う事は全て真実だって」
「それを鵜呑みにするのもどうかなーっって」
僕は再び苦笑いを浮かべる。
そのとき昼休みの終わりの五分前を告げるチャイムが鳴り響いた。
「っと。もうこんな時間か。さ、片付けて教室に戻ろうぜ」
「ぶー。まだ半分くらい残ってるのに」
「今日は君の家に行くって約束だろ?何でも作るからさ」
甘やかしてるな。と思いながらも君にはそういうしかなかった。
「本当?じゃあじゃあ、スパゲティーがいいな」
「ミートソース?」
「ボンゴレ!」
ボンゴレ?初めて聞く単語に僕は戸惑う。
「・・・ボンゴレ、か。よし分かった」
「やたー!楽しみにしてるからね」
「楽しみにしておくんだぞ」
後で作り方、調べておかなくちゃな。
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