君と僕 ~こたつ~
「ねぇ」
君が聞く。
「ん?」
僕はみかんをむく。
「こたつを考えた人は偉大だよね」
「そうだな。偉大だ」
「実はこたつは僕が考えたんだ」
「どうして?」
君が聞いてくる。
「ほら、こたつって漢字で書くと炬燵だろ?」
「うん。分からないけど分かる」
むいたみかんを君に渡す。君はうんうんと言いながらみかんをまるまる頬張る。絶対聞いてないな、と思いながら僕は続ける。
「炬燵って漢字の語源は僕なんだぜ。僕の名前にも同じ字が入ってるから」
「嘘だぁ。そんな字の人なんて聞いたこともないよ」
「うん。嘘だけどね」
「嘘ついたー。傷ついたなぁー。みかん二個じゃすまないくらいだなー」
「君の心はみかん二個程度なのか」
そういいつつも早くも僕の手は二つ目のみかんの皮をむく作業に取り掛かっていた。
「そういえば」
「ん?」
僕は君にみかんを手渡しながら聞く。
「炬燵の語源って私なんだよ。私の名前が炬燵だから」
「嘘だ。そんな名前の人なんて見たことない」
「うん。嘘だけどね」
「嘘ついたー。傷つくなぁー。みかん一個どころじゃすまないぞ」
「あ、一個でいいんだねー」
クスリ、と君は笑った。僕は炬燵の上を指さす。
「だってあと一個じゃん。みかん」
「そうだね」
君はみかんを手に取り皮をむく。そうしてむいたみかんを僕の方へともってくる。
「はい、あーん」
「やだよ、恥ずかしい」
「いいでしょ?今は誰もいなんだから」
「それでも恥ずかしいよ。大体、これを誰かに見られたらどうするんだ?」
「親なら今日は帰ってこないよ」
「・・・円環の理に導かれたのか」
「そう、エンカウントの言霊に導かれたんだ」
「違うよ。円環の理だよ」
「えー、なにそれ。初めて聞くよ?」
僕は自信満々に胸をはって答える。
「僕も良く分からん」
「あはは。じゃあ何で使ったの?」
「それも分からん。それより何時までみかん持っておくの?」
「食べてくれるまで」
「そういえば」
「うん?」
君は首を傾げた。
「みかんってこの白い糸みたいなものはのけない方がいいらしいね」
「そうなの?なんで?」
「ビタミンだか鉄分だかがいっぱいあるらしい。だから除けて食べる奴は邪道だって言ってた」
「誰が?」
「テレビ」
「テレビさんはそんな事言わないよ」
「それもそうか」
あっさり僕は納得した。
「それよりもさ。この前みかんの皮には殺菌だとか除菌だとかの効果があるって言ってたよ。掃除のときに使わないのは外道だって」
「誰が?」
「テレビ」
「テレビには口がないだろ。そんなことは言わない」
「それもそうだね」
君はあっさり納得した。
「それよりもなんで外道なんだ?」
「外道って邪道と親戚じゃないの?」
「外道と邪道は他人だよ。血縁関係とかないから」
丁寧懇切に君に説明する。
「へぇー。なんでも知ってるんだね」
「何でもは知らない。君が知らないことだけ」
「・・・なんだか釈然としないなー」
「ばかになんてしてない」
「うん」
「・・・みかん食うか」
「うん」
「あーんってしないのか?」
「うーん、飽きた」
「そうか」
「うん」
「じゃ、食べるから頂戴」
「いや」
「じゃあどうやって食べればいいんだよ」
いっその事君が食べればいいんじゃないかと思ったけれど、それじゃいけないと頭の片隅に考えがよぎる。
「飽きたから、そっちから食べてよ」
「えー、嫌だよ。恥ずかしい」
「あー、傷つくなー。私傷ついちゃったなー。もう学校も行きたくないなー」
「分かったよ。食べるよ。いいんだろ?」
「うん。いつでもどうぞ」
「おう。いただきます」
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