第七話 初めての依頼と精霊
森へ再び向かう。そこでの出会い。
朝起きて、ささっと準備だけしてギルドへと向かう。
「ライラは……いないか」
もしライラがいれば魔力の属性変換について教えてもらえるかと思ったけれど、まぁ急ぐわけでもないし後でいいか。
「あらー。リョクさんお仕事ですかー?」
そんなことを考えつつキョロキョロしていると、受付のエイミさんに話しかけられた。そうだった、目的は依頼を受けることだからな。さっさとやってしまおうか。
「おはようございます、エイミさん。はい、依頼を受けたいと思うんですけど、昨日ライラがやっていた薬草の採取なんですが、大丈夫ですか?」
「はーいおはようございまーす。大丈夫ですよー。受けて行かれますかー?」
よかった。昨日ライラが問題ないとは言っていたけど、大丈夫そうだ。
「はい、お願いします」
「はーい。では【グラー草】の採取お願いしますねー。10本で完了になりますので、20本持ってきていただければー、複数回の依頼完了ということになりますので頑張ってくさだーい」
なるほど、可能ならたくさん持ってきたほうがいいのか。そしていつの間にか持っていた図鑑を手に取り、この薬草ですと教えてくれる。
なお、この依頼は一回達成ごとに銅貨5枚になるらしい。今後の生活を考えるとやっぱり採ってこれるだけ採ってきたほうがよさそうだな。
「あと、こちらのナイフを持って行ってくださいー。もし魔物を倒した際の剥ぎ取り用になりますー」
「あ、ありがとうござます」
剥ぎ取り用か……そもそもそういったことやったことないからな、できる気がしない。昨日ライラとウルフを倒した際も、特に剥ぎ取らずにその場を去ってしまったし。
「それではいってらっしゃいませー」
「行ってきます」
そのあたりもやっぱりあとで考えよう。あの森の中じゃ魔物に会うことのほうが少ないらしいし。もし剥ぎ取れないとしてもそれはそれは仕方ない。
そうして俺は昨日の森へと向かった。
森へ到着した。迷わずに来れたのはよかったけれど……
――わーいわーい――、――きょうはなにしてあそぶー?――
いきなり精霊たちに囲まれた。そして遊ぼう遊ぼうとせがまれている。
うん、いきなり確認したかったことの一つが終了した。
確認したかったこと。その一つが昨日はライラの登場で逃げてしまった精霊たちは、俺が一人であれば再び現れるのかどうかということ。まさか森に入ってすぐに囲まれるほど現れるとは思わなかったけど。
「遊びたいのは俺もそうだけど、今はちょっとお仕事に来ているんだ。だからあとでもいいかな?」
――えー、あそぼうよー――、――つまんなーい――、――おしごとってなーにー?――
その俺の言葉に対して帰ってきた精霊たちの言葉はほとんどが不満の声だった。思わず苦笑してしまう。
「今日は薬草を探しに来ていてさ。その採取がお仕事だよ」
とりあえず不満の声以外に聞こえてきた質問に対する答えを返す。
――やくそー――、――かんたん――、――こっちにたくさーん――
その途端、精霊たちは一斉に移動し始める。こっちこっちと案内してくれる。数分くらい精霊についていくとそこには驚きの光景があった。
「…………」
思わず声をなくす。一面、薬草だけではないだろう、たくさんの植物。その周りには楽しそうに精霊たちが戯れている姿。目の当たりにしてわかる、この場所の魔力の濃度。何よりも驚きなのは。
「人の手が、まるで入っていない……」
これにつきる。
――これでしごとおわるー?――、――あそべるー?――
精霊たちには頷いて返事を返しながらも考える。ここまで人の手が入っていないのはいくらなんでもおかしいだろう。昨日はライラがいたし、確かにほかの人を見かけることはなかったけど、常時依頼としてあるくらいだ。それなりに人の出入りはあるだろう。それなのにここにはその気配はない。それに精霊たちもここでなら安心していられるようだ。さらに……
「……貴女は?」
ここに入ってからこっちを見ている精霊がいる。この子たちとは比べられないほどの力を持った精霊だ。この人がここを守っているのか?
『あなた、人間よね? 人間に精霊が見えるどころかここまで好かれるなんて、いえ、私もあなたがここに来ても不思議と不快感は感じないけど……』
ぶつぶつと呟きながらこっちを観察しているかのような女性。精霊なのはほぼ間違いない。気配がそうだから。
『あぁごめんなさい。私は風の中位精霊。この子たち下位精霊を束ねるこの森の管理人みたいなものよ』
中位精霊……なるほど精霊にもランク付けがあるのか。下位に中位……おそらく一つ上がっただけだろう。それでも力の差がここまであるとは。さらに上だとどれだけの力を持つのだろうか。
「ありがとうございます。俺はリョク。ここには薬草の採取に来たのですが……」
採って行ってもいいものか。確かにここに案内してくれたのはこの子たちだけど、管理している人がいる以上は厳しいか?
『いいわよ、持っていきなさい。この子たちがここに連れてきた以上あなたに危険はなさそうだし。私が見てみてもまったく危険を感じない人間なんて初めて見たわよ……』
最後のほうは小さい声でよく聞こえなかったけれど、採って行ってもいいことがわかったので、俺は採取を始める。
……図鑑は見せてもらったけど、似ているだけで微妙に違うようなものもあるな。よくわからないから適当に採っていくかな。
俺は適当に30本ほど採取して袋に詰めていく。
「よし、これでみんなと遊べるぞー?」
仕事は終了。正確には報告に行ってないから終了はしていないけど、この子たちと遊んでいくくらいは問題ないだろう。
――やったー――、――なにしてあそぶのー――
その言葉に嬉しそうにはしゃぐ精霊たち。俺もなんか嬉しくなってくる。
「あ、貴女も一緒にどうです……ってそういえば名前をまだ聞いていませんでしたね」
風の中位精霊とは聞いたが、そういえば名前はまだ聞いてなかった。
『敬語で話す必要はないわよ? あなたとは普通に話したいし。あと私に名前はないわ。中位精霊で名前持ちなんてほとんどいないし、上位精霊でも少ないもの』
む、そうなのか。しかしそれじゃあ不便だよな。なにか呼び名があれば……
そう思い、俺は彼女をよく見てみる。エメラルドグリーンの綺麗な髪と瞳。エメラルドグリーン……
「だったらエル、そう呼んでも……ってあれ?」
『なっ!? この馬鹿!』
名前を考え、伝えたと思った瞬間。何かが失われる気がして、意識を失った。
その直前、慌てた様子でこっちを見ているエルの姿が見えたような気がした。
主人公が意識を失った理由は次。いや、わかりやすいとはおもいますが。