第六話 結果とヒロイン
ギルドでの話など
ファングさんとの話を終えて受付に戻ってみると、ライラは待っていたようでこちらに駆け寄ってくる。
「リョクさん! どうでしたか? なにかわかりました?」
「あー……はい、これ」
とりあえず口でどう説明したものかと思い、適性結果の紙をそのままライラに渡す。ライラはそれに目を通し、驚きの表情になったかと思ったらすぐに笑顔になった。
「す、すごいです! わたしは水属性にしか適性なかったのに、ほとんど全部適性があります! 最後の加護はよくわかりませんけど、本当にすごいです!」
「ちょっとライラ! 声大きいって!」
ライラが声を上げた瞬間、周りに居る冒険者たちがなんだなんだとこちらを見てくる。それを見て俺も思わず声を上げてしまう。こっちを見てる目が増えた、失敗した……
「す、すいません。まさかここまですごいとは思わなかったもので……でも本当にすごいですね。水属性だけとってもわたしより数値が大きいですし」
聞けばライラがこの適正チェックをやった時には、水属性に関してのみ27という数値で、断トツでの適性を示したらしい。
ついでに、渡り人以外がこの適正チェックをする場合、銀貨が1枚必要らしい。結構高い。
「やっぱりこの結果は異常なのか」
もっと異常な結果を叩き出した渡り人もいるが、そもそも渡り人の人数そのものが多くはない。だから一般的な冒険者からすれば相当な結果なようだ。
「でも本当にすごいんですって。これだけの適性数値があればなんだってできますよ! 羨ましいなぁ……わたしなんてそれに比べたら……」
何回もすごいすごいと繰り返していたライラだったが、最後にぽつりとちょっと寂しそうに呟いた。
「そんなこと言うなって。俺はこっちの世界に来てライラに助けられたんだから。初めて見た魔術はライラの水魔術だったし、今度教えてくれないか?」
思わず俺はライラの頭をぽんぽんと撫でながらそう言った。む、髪サラサラで気持ちいなこれ。
「あ、ありがとうございます! そう言ってもらえると嬉しいです。今度教えますね! わたしもまだまだ新米ですからこれから頑張ります! あと、それ恥ずかしいです……」
「ご、ごめん。なんかつい、な」
顔をちょっと赤くしたライラから手を放す。やっぱりよくなかったかな。でもなんか撫でやすい位置だったというか。俺の身長が170cmあるかないかくらいだったから、ライラの身長は155cmくらいかな。
「いえ! おかげで元気がでましたから! リョクさんはどうするんですか? わたしは今日はもう休みますけど、明日であれば一緒に依頼を受けられますよ?」
「いや、その申し出は嬉しいんだけどさ。ちょっと確認したいこともあるから一人で出てみようと思う。文字が読めないから聞きたいんだけど、ライラが今日やったような薬草を採取する依頼ってある?」
出来れば俺が最初にいた森の中へ行くようなものだとありがたい。そう伝えてみれば答えは単純だった。
「ありますよ。わたしが受けた薬草採取はいつでもある常時依頼ですから。受付の誰かに言えば依頼を受けたことになりますよ」
との答えだった。そういえば依頼の説明とかほとんど聞いてない。ファングさん、そんなに面倒だったのかな。まぁいいや、後で確認すればいいだけだ。
「ちなみに薬草採取の依頼はFランクですので、リョクさんも問題なくできます。正確にはポーションなんかの材料になる薬草【グラー草】を10本採取してくれば依頼完了です」
なるほど、じゃあそんなに苦労もせずに行けそうだな。さっそく明日にでも受けてみよう。
「ありがとう。さて、俺は宿に戻って休むけど、ライラはどうする?」
そこまで疲れている感覚はないけれど、休めるうちに休んでおいたほうがいいだろうと思い、俺は宿に戻ることにする。街の見学はまた今度だな。
「わたしはもう少しここにいますね。今度の依頼を考えたりしてますから」
「わかった。じゃあまたな」
「はい、お疲れ様でした!」
俺はライラに挨拶し、ギルドから出る。また明日来るからしっかりと場所は覚えておこう。
【ケリーヌ】へと到着し、女将さんへ軽く挨拶をして鍵をもらい部屋へと入る。なんとこの世界にも風呂はあるそうで、この宿にも共同風呂があるらしく銅貨5枚で入れるとのこと。風呂自体が久しぶりなので、後で入るのを楽しみにしておく。
「ふぅ……よし」
部屋にあるベットの上で俺は集中力を高めていく。ウルフとの戦いで感じた魔力。これを確認する。魔力量がほかの人と比べてどうなのかはわからないが、少ないということはないだろう。
「うん、問題なく引き出せそうだ」
魔力に関しては何の違和感もなく感じられたし、使えそうだ。だがこの後で一つ問題が判明した。
「それぞれの属性への変換の仕方がわからない……」
魔力は引き出せた。おそらく今使っているのは無属性だろう、なんとなくそう感じる。しかしその先へと続かない。
「こういったものはイメージが大切だと思っていたけど、どんなにイメージしても魔力が変わっていかない……どうやるんだこれ」
とりあえず明日森へと行くにあたって、仮に魔物と相対しても無属性のみでどうにかなりそうだが、今後どうするかだよな。ライラには水属性の魔術を教えてもらえることになってるから、どうにかなるか? 一つできるようになればほかの属性もどうにかなるといいんだが……
その後も頑張って魔力を引き出して、変換を試みたが結局成功しなかった。
「これ以上やっても今のままは無理そうだな。やっぱりまた今度にしよう」
とりあえず気分転換に風呂に入ろうと思い、気づいてしまった。
「やばい、着替えとかなんも持ってないじゃないか……」
今回の宿代はライラが出してくれていたので問題なかったが、買いに行くにしても金がない。なんで今まで思い出さなかったのか……!
「仕方ない、今回は諦めてよう……明日の依頼をこなしてそのお金でどうにかしよう」
どこまでも俺は抜けてるな、と思いながら俺は眠ることにした。夕飯も食べられなかったなぁ……
ちなみに後でライラから教えてもらったのだが、渡り人であることをすでに女将さんにも伝えてあるため、後でお金を払うことを約束すれば風呂を使わせてもらえたし、食事だってさせてもらえたらしい。
渡り人はある程度生活できるように国が手を貸してくれる。そうライラと会ったときに言っていたことなんて、すっかり忘れてしまっていたよ……俺の馬鹿……
主人公は抜けていました。