第五話 適性と異常性
ギルドでの話
冒険者ギルド【ノンフェガー】
駆け出しの冒険者が多く集まるギルドで、扱っている依頼のランクは高くないとのこと。
「というわけで渡り人のリョクさんの冒険者登録をお願いします!」
「はーい。それじゃリョクさん? ギルドマスターのいる部屋に案内しますのでついてきてくださいねー。ライラさんはしばらくお待ちくださーい」
……いつの間にか話が進んでいた。ギルドに入って冒険者たちを眺めていたら、ライラと受付の、エイミさんが楽しそうに話しているのはわかっていたけれど、本当にいつの間に話が進んだんだろう。
気にしても仕方ない。もうエイミさんに連れられてギルドマスターさんの部屋の前についてしまったし。
「ファングさんー? 渡り人さんを連れてきましたー」
「あぁ入ってくれ」
「失礼しまーす」
「失礼します」
エイミさんが扉をくぐるのに合わせ、俺も入室する。
「よく来てくれた。若き渡り人よ。あぁ、エイミは外してくれ」
「はーい。失礼しますねー」
部屋に入ってそこにいたのは一人の老人。だがその存在感が凄まじい。こっちの世界に来てから精霊や、いろんな人間たちの気配を感じ取っていたけど、この人そそれは群を抜いている。あまりの力の差に思わず逃げ出したくなる。だがそうするわけにもいかない。
「ほぅ。オレの覇気を受けても気を失わないか。見どころのある若者だ」
ふと、圧がなくなる感じがした。なるほど、この人はこっちを威圧していたわけか。見たところさっきのが本気じゃないんだろうしこの人怖いな。
「くくっ。オレはファング=レイヴェルトだ、好きに呼べ。このギルドのマスターをしている元、Aランク上位の冒険者だったもんだ。若者、お前の名は?」
しまった、余裕がなさ過ぎて名乗ることすらしていなかった。これは失礼だったよな。
「失礼しました。俺はリョク=ヤクモといいます」
「んじゃぁリョク。適当にかけてくれ」
そう言ってファングさんはソファーを指さした。俺は一言失礼しますと声をかけ、そこに座る。あ、結構座り心地いいなこれ。
「さぁて。ギルドについて簡単な説明をしておくぞ。ちゃんと聞いとけよな」
本当は受付の仕事なんだがなぁ、渡り人が相手だし仕方ねぇか。などと呟いているファングさん。聞こえてますよ。
「さっきも言ったがオレは元Aランクの上位だった。ランクは高いほうからS、A、B、C、D、E、Fランクとなり、それぞれに上位、中位、下位とある。俺はまさにトップクラスの人間だったわけだ」
ランクに関してはライラにも簡単に聞いている。
「確か、ランクの高さがイコール強さに繋がるわけじゃないんでしたよね?」
そういう風に俺はライラに聞いた。
「おうその通りだ。そのくらいはもう知っていたか。ランクを上げるためにはギルドに貢献しなくちゃいけない。というよりも依頼を数多くこなし、その実力などをオレ……ギルドマスターが認めることによってランクを定める。基本的にランクは高いほうがいいが、緊急性の高い依頼の場合、ほぼ強制で参加させられる場合があるから一概には言えんな。そのため、ランクアップを断ること自体は許可されている」
なるほど、ということは依頼自体はこなしていても、その方法が反感を買うものだったりする場合にはランクは上がっていかないことがあると。
「依頼の内容にはそれぞれS~Fとある。下のランクの依頼は基本的にいくらでも受けられるが、上のランクに関しては一つ上までしか受けられない。ま、あまり下のランクを受けることもおすすめはしねぇけどな」
……依頼には上位とかないのだろうか? たとえばEランクなら上位だろうが下位だろうが、受けられる依頼そのものは同じものまでということになるよな。俺はそのまま聞いてみる。
「その通りだな。依頼そのものには上位とかはない。よってEランクなら上位でも下位でも受けられる依頼は変わらん。ただし魔物は細かくランク分けされてるからな。それも依頼書に記載されるわけだ。それを見て受けるか受けないかを判断する材料とするのさ」
あとは自己判断ということか。
「次は討伐の証明なんかに関してだな。これは魔物を倒した場合それがギルドカードに明記されるからそれを見せてくれりゃぁいい。便利だろ? あぁカードはあとで渡す。ちなみに討伐した魔物の皮とか肉とかが取ってこられるんならどんどん取ってきてくれ、ギルドでもそこらの店でも買い取ってくれるからな」
そんなに便利なものがあるのか。しかし皮なんかを剥ぎ取ったりするのは苦労しそうだ。これはもっと慣れてきてからでいいかな。
「ま、簡単にはこんなもんだぜ? あぁあと通貨に関しても説明が必要か。ま、こっちはそんなに考えなくても問題はないがな」
通貨。最低単位が10ネルで半銅貨になるらしい。で、こう続く。
銅貨 100ネル
半銀貨 1,000ネル
銀貨 10,000ネル
半金貨 100,000ネル
金貨 1,000,000ネル
聖金貨 10,000,000ネル
普通に生活する場合、金貨はなかなかお目にかかることはないとのこと。
「さぁてめんどくさい説明はもういいか。気になることがあったら受付にでも聞いてくれ。次はリョクの適性のチェックだ。これも簡単に終わるがな」
来た。適性チェック。これで俺の渡り人としての力がわかるわけだな。ある程度の予想はついているが。
「んじゃ目の前に水晶玉があるだろ? それに触れて気分を落ち着けて待っていてくれ」
言われたとおりに水晶玉に手で触れ、気を落ち着ける。
「おし、もういいぞ。手を放してくれ、こっちで確認する」
そう言ってファングさんは水晶玉を手に取り、何かを確認している。そしてその表情が驚愕へと染まっていく。なにか、あったのか?
「おいおい……マジかよ。‘時’属性以外に全属性に適性ありだと? 渡り人は本当に規格外だな」
ファングさんは頭を掻きながら一枚の紙を俺に渡してきた。そこにはこう書かれていた。
“リョク ヤクモ 適性結果
火 47
水 45
風 54
地 42
光 38
闇 24
時 02
無 25
****の加護”
「えっと、数値の基準がわからないんですけど。あとこの加護っていうのは」
いや、それ以前にこの文字だけは読めた。どういうことだ?
「ちゃんと読めたようだな。それは魂に刻まれた言語で描かれる。まぁ読めて当然なんだが。さて、数値については数字が大きければ適性がある、それだけだ」
そこで一呼吸置き、続ける。
「だがその数値が問題だ、高すぎる。しかも総じて高い。ちなみに15を超えれば適性ありと判断される。いかに異常かわかるだろ?」
……なるほど、それは滅茶苦茶だ。
「あとこの加護っていうのはなんの加護なのかはわからん。オレにだって読めねぇんだからな。だがこういう風に隠される理由はある」
理由は単純だった。
1 加護を与えた存在の力が大きすぎて認識できない。
2 加護を与えた存在が認識させていない。
3 加護を与えられた者の力が足りてなくて認識できない。
これのどれかになるとのことだ。
「まぁこの適性の結果を見る限り、魔術関係の存在の加護ってのが有力だろうな。ここまで来ると魔術だけなら負けなしになれるぜ」
もちろん経験を積めばの話だ。そうでなくてもおかしいレベルとのことだが。話に聞いてみると、ここまでのレベルはかつての渡り人でもほとんどいなかったらしい。まぁ上には上がいるもので、勇者は闇以外が50を超えていたり、魔王は光以外が50を超えていたりもしたらしい。さらに言えば時属性に特化した者もいて、それはでたらめな存在だったらしい。それを考えれば俺はまだ普通だな、うん。
「とにかく、オレからはこれだけだ。ライラの嬢ちゃんにでも報告してきてやんな」
「わかりました。それでは失礼します、ありがとうございました」
俺はこのでたらめな結果をどう伝えようかと考えながら、ライラのところに戻るのだった。
まだギルドでの話は続きます